頑張れ希世ちゃん
今月3日、佐藤希世子騎手が100勝を達成した。02年1月のデビューから1,204戦目での記録達成。地方競馬の女性騎手としては11人目、現役では3人目の快挙とのこと。もっとも、「地方競馬では」と言っても他の競馬場でのレースは、みんな平地競走。単純に他場の騎手の記録とは比較できないけれど、ばんえい競馬史上2人目の女性騎手がデビュー6年目で100勝というのは「堂々たる戦績」と言って良いはず。何はともあれ、希世ちゃん、おめでとう!
と、今、私は馴れ馴れしく「希世ちゃん」なんて呼びかけてみたけれど、実のところ、私は、この人と面識がないのである。競馬場のパドックで、出走馬にまたがった精悍な彼女を眩しく仰ぎ見ることは多いけれど、直接、お会いしたことは皆無。当然のことながら、話もしたこともない憧れの存在なのである。
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数年前まで、ばんえい競馬について、私は極く普通のファンであった。それが、縁あって谷あゆみさんと親しくさせてもらうようになり、以降、色々な馬や人にも会わせてもらったり、取材させてもらったりするようになった。
スーパーペガサスの調教も見せてもらったし、昨年の「ばんえい記念」では、この英雄の口取りに参加させてもらう栄誉に浴した。映画『雪に願うこと』の試写会パーティーにも出席したし、主演馬マルニシュウカンとも対面させてもらった。
……と実に様々な僥倖を得て、幸せ一杯胸一杯。物書きとしての「役得」を実感する日々である。
けれども、しかし、なのである。生来が「つむじ曲がり」の旋丸。物書きだからといって諸々の特権を得ていると、何だか最近は少しく居心地が悪くなって来た。
ファンの知りえないこと見られないことを見知って優越感に浸っているジャーナリストは、私の最も軽蔑する人種だけれど、顧みて、自分も、そんな嫌ったらしい種族になりつつあるんじゃないか、と心配になって来たのである。
佐藤希世子騎手にも、会おうと思えば必ず誰かが快く紹介してくれるに違いない。うまくすれば、親しくお話できる間柄になれるかもしれない。
けれど、今、私は、一ファンとしてパドックで彼女を見上げることに何とも言われない満足感を感じているのである。口を真一文字に結んで、凛々しく本馬場に向かう彼女に片思いの心持で密かにエールを送る瞬間が好きなのである。
そんな訳で、今しばらくは、佐藤希世子さんとはお会いしないでおこうと思う。お会いしないで、純粋無垢にファンとして競馬場で声援を送ろうと思う。
「希世ちゃん頑張れ!」と、フツーのオバサン旋丸は、今日も声援を送るのである。