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やっぱり馬が好き(第30回)  旋丸 巴

すれちがいの恋

 恋のスキャンダルは人間だけのものではない。

070119  我が友・谷さんの、ミクシィの日記を読んで笑ってしまった。谷厩舎所属のパーやんことニシキパール嬢(写真)に、熱烈なる恋心を寄せる馬が現れた、というのである。コブラタイガーなる牡馬君が、その恋するお馬。以下、谷さんの日記を引用すれば……

 「ずっとあっちのほうからパーやんを見つけては呼びかけ、うんと後ろにいたのに、気が付けば隣に並んでささやきかけ……。彼は本当にパーやんが好きで好きで仕方ないんです。他の牝馬じゃだめ、パーやんなんです。」

 おお、何と健気なコブラタイガー君でしょうか、と感動させられるけれど、当のニシキパールはと言えば、

 「一途な心に気付いているのかいないのか、知らん振りのパーやんでした。」というから、片思いは辛いねぇ、タイガー君。

 こんなにニシキパールが大好きなタイガー君だから、憧れのパール嬢と同じレースに出たら、きっと、彼女に先を譲り、他馬の追走を許さず、1、2着を独占。

 或いは、外枠と内枠に分かれたら、パール嬢目指してコースを大斜行。

 ……などと、妄想をどこまでも膨らませる私なのだけど、タイガー君とパール嬢は、悲しいかな、出走条件が全然違う。「120万円未満」のレースを走っているパール嬢に対して、「800万円未満」のレースに出走しているコブラタイガー。2頭が同一のレースに出ることは、現状ではかなり非現実的。だから、上記の我が妄想も空想上の一場面でしか有りえないのだけど……。

 それでも、調教では顔を合わす場面もたびたびとのことで、だから、タイガー君の切ない恋心も未だしばらくは続きそう。

 それにしても、人間から見れば、取りたてて印象的には見えないパール嬢。尾花栗毛も、ばんえい競馬の世界では、さほど珍しい存在でもなく、顔立ちで言えば、同じ谷厩舎のタケノダッシュの方が、黒々とした大きな瞳といい、優しい口元といい、数段愛らしい。馬同士では別の美醜の基準もあるのかしらん、と思うけど、谷さんによると

 「パールは、馬の中でも、もてる方じゃないんだけど」とのこと。

 そんな、一見、地味なパール嬢に、しかし、タイガー君だけは何かしら特別の魅力が感じられるのだろう。

 レースでは黙々と走る馬達。

 けれど、彼ら、彼女らにも、心があって、喜怒哀楽があって、切ない恋心だってある。そんな「心ある動物」が織り成す物語だから競馬は面白いのである。

 と、タイガー君の、いじらしい恋物語を聞いて、しみじみ競馬の良さを感じて……。おかげで、昨日も競馬場に行ってしまいましたよ。結果は勿論……。

 コブラタイガー君よ、もっともっと走って、オープン馬になって、重賞レースもどんどん制覇しなさいよ。そうしたら、種牡馬になって、ニシキパールとの恋も成就できる……かも。

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