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やっぱり馬が好き(第21回)  旋丸 巴

谷さんと辻本さん

 「な、何~~?! 谷厩舎~~?!」
 と、あられもない声を張り上げた相手は、辻本由美さん。ご存知、ばんえい競馬女性騎手第1号である。

   *   *   *

060707  ご案内の通り、騎手を引退した辻本さんは、十勝に牧場を構え、生産者として毎年、ばんえい競馬に駿馬を送っている。彼女と少しばかり面識があるのをいいことに、先日、何となく電話をしたら……。

 「牧場は母親に任せて、厩務員になったんだ」と言われて、仰天した。

 だって、5月に辻本牧場に遊びに行ったばかり。そして、そこで、生まれたての仔馬の世話や、種付けに忙しく立ち働く辻本さんの姿を見たばかり、なのである。それが、あれから僅か2カ月で厩務員に転身とは……?

 何か、よほど思うところがあったのだろう、と思って、辻本さんに尋ねたら、
 「うーん、思うところ……って別にないんだけどね。思うままに生きてる私だから」
 あはははは、と笑い飛ばされてしまった。ううむ、やっぱり辻本さんのパワーは凄い。

 因みに、辻本さんという人は、女性らしい気遣いの人であると同時に、「竹を割ったような」という言葉がそのまま服を着ているような、清潔無垢、豪放磊落な男性性も持ち合わせた、誠に気持ちの良い人なのである。

   *   *   *

 話は、厩務員に戻ったことを知らされて驚愕する場面に戻って……。しかし、そんなことで驚いている私に、更にもう一発、驚きのパンチが待っていた!

「で、勤務先はお父さんの厩舎?」と重ねて問うた私に、辻本さんの曰く

「いや、谷さんの厩舎」

 ここにおいて、私は冒頭の如く、あられもない声を張り上げるのである。

 いや、しかし、冷静に考えれば、谷さんと辻本さんは親友同士。だから、谷厩舎に辻本さんが勤めて何の不思議もない。不思議がないどころか、騎手経験も生産者経験もある辻本さんが厩務員としてサポートしてくれれば、谷さんも「鬼に金棒」。心強い助っ人に違いない。

 ちょっと驚かされたけど、これは素晴しい取り合わせだわ、と急に嬉しくなって、「じゃあ、頑張ってね」とエールを送って、電話を切った。

   *   *   *

 巨大産業に成長してしまったJRAとは違い、ばんえい競馬のシステムは、どこか家庭的で温かい。谷さんが辻本さんを厩務員に迎え入れて共に働く、なんてことが迅速に実現できるのも、小さな地方競馬ならではの話である。

 辻本さんが担当する馬はフナノカチ、セイウンステージ、タケノダッシュの3頭。この3頭が活躍すれば、「女性調教師・女性厩務員コンビの馬」として注目を浴びることは必至で……。

 もっとも、芯の強さ、行動力の凄さ、馬への愛着……何をとっても、そこいらの男性なんぞ問題にしないほどパワフルな、谷さんと辻本さん。だから、「女だから」なんてチャラチャラ祭り挙げてようとしても、決して軽佻浮薄なお神輿には乗らないだろうけど、ね。

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