偉大なる服部義幸調騎会会長
新聞で「服部義幸調教師1000勝」の文字を見たときは、思わず「おおーっ」と叫び声をあげてしまった。
「10月28日、第10レースでハマナカキングが優勝。これによって同馬の調教師である服部師が通算1000勝をマークした。ばんえい競馬史上6人目の快挙」
と、新聞各紙で取り上げられた服部調教師に、私は一度だけお会いしたことがある。
今年の2月、ばんえい競馬で活躍する人々が一堂に会した某パーティーでのこと。ばんえい界や地方競馬全国協会やらに日本馬事協会やら、何しろ、そういった関係の偉い方々が会場中央で華々しく歓談されているから、私のような下っ端は会場の隅で立食に勤しんでいたのだけど、そんな私より未だ端っこで、ひっそり佇む紳士がいて、それが他ならぬ服部調教師だった。
同席していた、厩務員にして画家、我が友でもある谷歩さんが紹介してくれて、初めてご挨拶申し上げたのだが、ばんえい競馬の上位で活躍し、調騎会の会長さんも勤められている偉い方なのに脂ぎったところが皆無の温厚な方で、そのお人柄に感心することしきり。
「服部先生はねぇ、イベントなんかに手作りの馬車で訪問されるんだよ」と、寡黙な服部調教師に代わって谷さんが教えてくれたから、「え、ポニーかなんかの馬車で行かれるんですか?」と尋ねると、同師は笑って、
「いや、ばんえい競馬に使う大きな馬で馬車を引くんだ。一般の人にも、ばん馬に親しんでもらわんとね」
呼ばれれば道内どこでも馬と馬車を用意して出かけられるという。札幌の場外馬券発売所Aibaの開設記念式典でも活躍されたし、服部師の馬車の訪問を待ち望む幼稚園や保育所は道内にいくつもある。
いやいや、道内ばかりではない。後で知ったことだけど、今年2月には、富山市にある富山市ファミリーパークに、自ら調教した2頭の馬と大型の馬車を送られた。20周年のリニューアル・オープンに際して「小額の予算で馬と馬車を導入したい」という同パークの要請に一肌も二肌も脱いで、損を覚悟で協力。大型馬車の運行を実現させた功労者でもある。
本業の調教師としてはコーネルトップ(ばんえいグランプリ、北見記念など31勝)など数多くの駿馬を育て、調騎会会長として地方競馬再建のために奔走、ばんえい競馬の普及のために手弁当で馬車の出前をする。
みんなに愛されてこその競馬、とスローガンを述べる人は多い。けれど、ここまで骨身を削って競馬のために尽くされている方を、寡聞にして私は知らない。
そんな素敵な服部調教師が1000勝という偉業を達成されたと知って、ちょっと涙目になってしまった私なんである。