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馬券おやじは今日も行く(第7回)  古林英一

馬具・馬装について

 小生、数年前、サボりサボりながら乗馬を習ったことがある。乗馬は習った、原付も乗っていたことがある、そして小型船舶免許も持っている。もちろん、自転車も乗る。ということで、小生、3競オートすべての乗り物を自ら操縦したことがあるのである。

 はっきりいって、どれも競技レベルにはほど遠いのであるが、乗ってみればなるほどなるほどとわかることもある。実は、乗馬を習おうと思ったのは、馬に触れ、馬にまたがれば多少は馬券的中率向上に寄与するかも……というスケベ心からである。当初は、「めざせ、武豊!」であったのが、ちょっと乗ったら「めざせ、華原朋美!」にトーンダウンし、さらに数日後には「せめて、暴れん坊将軍!」とどんどんトーンダウンを余儀なくされた。で、結局のところ、「馬糞(ボロ)拾い」だけが上手くなった次第である。

 競馬をはじめて四半世紀以上になるが、乗馬にチャレンジするまでは、正直なところ、馬具・馬装なんぞは触ったこともなかった。当然、馬装のやり方もちゃんと教わったのだが、身に付いたかといえば、実のところこれが怪しいのである。そもそも、ロープワークどころか、蝶々結びすら下手すれば失敗するド不器用な小生である。馬をつなぐのも満足にできないという体たらくである。情けない……。そういえば、小型船舶免許をとるときも、小生にとっては、ロープワークの実技が一番の難関だったような覚えがある。

 それはさておき、ばんばの馬具は立派である。頭絡やハミは乗馬と似たようなもの(もちろんサイズはビッグだが)だが、橇を輓曳するための馬具は独特だ。「ばんばは馬のお相撲だ」というのが最近の小生の主張だが、ばんばの馬具(なかでもガラ)はさしずめ化粧まわしといってもいいかもしれない。もっとも化粧まわしは実用品ではないが、ばんばの馬具はすべて実用品である。上級馬になると専用の立派な馬具が用意されるあたりも化粧まわしっぽくていい。

fig1 fig2

 熱心なファンの方々なら先刻ご承知なのだろうが、今回はばんばの馬具をご紹介することにしよう。まずこの写真(左)は全体像。それぞれの馬具の名前は
(1)胴引き
(2)背吊り
(3)吊り革
(4)よびだし
(5)ガラ
(6)ワラビ型
(7)梶棒
(8)引木(「どっこい」)
(9)馭者手綱
(10)ゼッケン
(11)腹帯

である。肩を包むように装着されるのがガラ、ガラを固定する金具がワラビ型。橇は腰ではなく肩でひく。したがって、橇の重量を肩全体でうけとめるための馬具がガラである。ガラの中身は籾殻だそうだ。この写真ではゼッケンが風でめくられて、背吊りはごく一部しか見えない。肩のあたりをアップで見たのが右の写真。モデルになってるのは松井厩舎のスミヨシセンショー号。シルバーの馬具がまことにおしゃれである。

fig3  橇のほうをみたのがこの写真。
(12)重量物
(13)「弁当箱」収納場所

 ばんば大会などでは胴引きはチェーンになっていることが多いみたいだが、ばんえい競馬では布と革でできている。離れたところから見ると、梶棒が馬の牽引力を橇に伝えているように見えるけど、実は梶棒がなくても橇を曳くのには支障はない。梶棒は馬が左右によれないようにガードしているだけのものだ。とはいえ、あの巨体がぶつかることもあるのだから、丈夫でないといけない。かつては木製だったそうだが、強度に難があったことから現在はグラスファイバー製である。もちろん、昔はグラスファイバー製の梶棒なんてない。グラスファイバー製梶棒のヒントになったのは、なんと、棒高跳びのポールなのだそうだ。

 重量物も様々な変遷を経て現在の鉄板になっている。最初は土嚢、コンクリートの固まりだったこともある。ばんば大会では今でもコンクリートの固まりを使っている。橇も現在は鉄橇だが、かつては当然木橇だ。現在開催中の岩見沢競馬場で、昔使われていた木橇が展示されているのでぜひご覧になっていただきたい。

 通称「弁当箱」……正式には何というのだろうか。騎手の重量を統一するために持つ携帯重量物である。小柄な佐藤希世子騎手や竹ケ原茉耶騎手などは、弁当箱というような可愛らしいサイズではない「弁当箱」を持たされている。

 ばんばの馬具はすべて手作り。かつては道内至るところに馬具屋さんがいて、こうした馬具をつくっていたのだが、今ではごくわずかな業者しか残っていないという。まさに工芸品とでもいうようなすばらしい馬具である。このあたりも「北海道遺産」に相応しいところといえよう。ちなみに、これらの馬具、一式あつらえれば数十万円はするという。ご自慢の馬にご自慢の馬具をあつらえる。これも馬主のステータスというものだろう。

 ところで、パドック裏は「装鞍所」という。ふと気がついたのだが、考えてみれば、ばんえい競馬に「鞍」はない。なぜ装鞍所なのだろうか?

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