以前のこのコラムで、昨年12月にデビューしたばかりで大活躍の、ばんえいの今井千尋騎手を取り上げたが、地方競馬ではほかにも若手騎手の活躍が目立っている。
佐賀では2020年10月にデビューした飛田愛斗騎手が、地方競馬におけるデビューから最速での100勝達成や、デビューから1年間での最多勝記録を更新(127勝)。さらに2021ヤングジョッキーズシリーズ・ファイナルラウンドでも優勝するなど、目覚ましい活躍で注目となったが、今年の佐賀リーディングで、その飛田騎手の上をいっているのが、昨年4月にデビューした山田義貴騎手だ。
5月28日現在の佐賀リーディングで、トップは相変わらず山口勲騎手で54勝だが、山田騎手が46勝で2位、飛田騎手が45勝で3位となっている。勝率でも山田騎手は14.2%と優秀な数字を残している(飛田騎手は13.3%)。
今年5月6日には通算100勝を達成、飛田騎手のデビューから269日という記録には及ばなかったが、およそ1年1カ月というのも相当速い。翌7日には101勝も達成し、すでに減量がなくなっている。
時は前後するが、山田騎手は3月26日にはリュウノシンゲンで九州クラウンを制し、重賞初制覇も果たした。
リュウノシンゲンに騎乗し九州クラウンで重賞初制覇を果たした山田義貴騎手(写真:佐賀県競馬組合)
リュウノシンゲンといえば、昨年春に川崎から転入。当初は山口勲騎手が主戦となって中島記念まで制し、一躍佐賀の古馬チャンピオンとなったが、山田騎手の父であり所属厩舎の山田徹調教師の管理馬であることから、今年2月の佐賀記念JpnIIIからは山田騎手が手綱をとっている。
リュウノシンゲンは2021年の3歳時にはダイヤモンドカップと東北優駿を制した岩手二冠馬。その後、川崎を経由し、前述のとおり佐賀に移籍。佐賀ではここまで14戦11勝。負けたのは、サマーチャンピオンJpnIII、佐賀記念JpnIIIという中央馬相手のダートグレードと、2500mの九州大賞典での3着だけ。その九州大賞典を制したグレイトパールはすでに引退。2着だったタガノファジョーロは、先日5月14日の佐賀スプリングカップではリュウノシンゲンの3着で、そのレースでは中央オープンから転入して姫路・白鷺賞を制したヒストリーメイカーも2着にしりぞけているだけに、佐賀1400〜1800mの路線ではまぎれもない現役古馬チャンピオンと言える。
デビュー2年目の山田義貴騎手とリュウノシンゲンのコンビには今後も注目だ。
一方、昨年22歳の若さで笠松リーティングとなったのが渡邊竜也騎手(今年3月8日で23歳)。昨年は笠松競馬場で164勝をマーク。2位の松本剛史騎手(91勝)に大差をつけてのリーディングで、1996年に川原正一騎手(現・兵庫)が達成した163勝を上回り、笠松競馬場での年間最多勝記録を更新した。また東海地区(名古屋・笠松)のリーディングでも、岡部誠騎手の297勝に次ぐ188勝で2位だった。
今年の笠松リーディング(5月29日現在)でも、86勝の渡邊騎手が2位の藤原幹生騎手(42勝)にダブルスコアをつける圧倒的な数字で、東海リーディングでも116勝の岡部騎手に対して渡邊騎手は89勝と、かなり差を詰めている。
5月23日に盛岡競馬場で行われた、2023地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップのファーストステージでは、出場騎手中最年少、22歳の福原杏騎手(浦和)がトップに立っていて、2位が25歳の落合玄太騎手(北海道)。そして渡邊騎手も3位(宮川実騎手・高知)とポイントタイの4位となっているように、全国のリーディングジョッキーが集結する同シリーズでも20代の若手騎手の活躍が目立っている。ファイナルステージは7月6日に園田競馬場で行われるが、笠松の渡邊騎手にも優勝のチャンスは十分にある。
ばんえい競馬も4月21日から新年度の開催が始まった。そして、シーズン最初に行われる重賞が、ばんえい十勝オッズパーク杯。
ばんえい競馬は、かつて旭川、帯広、岩見沢、北見の4競馬場で行われていたが、2006年度には廃止の危機があり、07年度からは帯広市が単独で開催することで存続したという経緯がある。帯広市単独開催となった"新生・ばんえい競馬"の初年度に新設されたのが、ばんえい十勝オッズパーク杯。なぜオッズパークが重賞のレース名になったかといえば、以前に詳しく書いたこちらをご覧いただきたい。
4月30日に行われるばんえい十勝オッズパーク杯の登録馬はすでに発表されているが、オープンのトップクラス勢揃いの豪華メンバーになりそうだ。
そもそも、開幕日のメインレースとして行われたスプリングカップからして、3月のばんえい記念の上位を占めた3強が揃って出走し、しかもばんえい記念と同じ着順での決着となった。
シーズン当初からこれほどトップクラスの有力馬が勢揃いとなるのはめずらしい。ばんえい記念は年にたった1度だけ、1トンという酷量のソリを曳くためその反動が大きく、例年であればシーズン当初は立て直しを図って休養する馬も少なくないからだ。
ばんえい十勝オッズパーク杯は、シーズン最初に行われる重賞だけあって、古馬(4歳以上)の重賞としては、もっとも軽い重量で争われる。ばんえい記念より300キロ近く軽いソリで争われるため、本来なら1トンで争われるばんえい記念とは求められる適性が異なるはずだが、過去の勝ち馬を見ると、ばんえい記念の勝ち馬・活躍馬が少なくないことに気付かされる。
ばんえい十勝オッズパーク杯の過去の勝ち馬は以下。
07:カネサブラック(牡5)
08:カネサブラック(牡6)
09:カネサブラック(牡7)
10:ナカゼンスピード(牡7)
11:カネサブラック(牡9)
12:ホッカイヒカル(牡8)
13:キタノタイショウ(牡7)
14:キタノタイショウ(牡8)
15:オレノココロ(牡5)
16:オレノココロ(牡6)
17:コウシュハウンカイ(牡7)
18:コウシュハウンカイ(牡8)
19:オレノココロ(牡9)
20:コウシュハウンカイ(牡10)
21:アオノブラック(牡5)
22:アオノブラック(牡6)
2022年のばんえい十勝オッズパーク杯。連覇を果たしたアオノブラック(右)に、2年連続2着のメムロボブサップ(左)/写真:ばんえい十勝
目立つのはリピーターが多いこと。そして2回以上勝っている馬は、いずれもばんえい記念を制しているか、もしくはばんえい記念で3着以内があるチャンピオン級の実力馬となっている。
第1回から3連覇を果たし4勝を挙げたカネサブラックは、11、13年にばんえい記念を制し、重賞通算21勝は当時の最多記録。
キタノタイショウは、オッズパーク杯2連覇を果たした14年度(15年3月)にばんえい記念を制した。
オレノココロは、17、18、20年とばんえい記念3勝。カネサブラックのばんえい重賞最多勝記録を更新し、その記録を25まで伸ばした。
コウシュハウンカイは、残念ながらばんえい記念制覇はなかったものの、6歳から11歳まで6年連続でばんえい記念に出走し3着が3回。重賞通算15勝は、立派なチャンピオン級と言っていい。
そしてアオノブラックは、先月のばんえい記念でメムロボブサップに接戦の2着。昨シーズン重賞4勝は単独最多だった。
さて、今年のばんえい十勝オッズパーク杯は、アオノブラックの3連覇なるのか。それとも、昨年のばんえい記念を制したメジロゴーリキか、今年制したメムロボブサップか。いずれにしてもこの3強を巡る争いとなりそうだ。
地方競馬では新年度となる4月以降、全国で11名の新人騎手がデビューする。
所属地は、北海道から2名、岩手、船橋、大井、金沢、笠松、名古屋、兵庫、高知、佐賀から各1名。近年、新人騎手は南関東からのデビューが多く、特に1年前は南関東8名のほかは佐賀2名という状況だったが、今年は北海道が2名のほかは全国に分散した。
その要因として、地方競馬教養センターのほうでデビュー地を分散させたいという意向もあったようだが、それ以上に、各主催者とも熱心に新人騎手を誘致したことも大きかったようだ。
地方競馬では、慢性的に騎手が不足気味の競馬場も少なくない。騎手はただレースで騎乗するだけでなく、日々、馬に調教をつける役割としても貴重な戦力だ。そのため近年になってほとんどの競馬場で、新人騎手を積極的に誘致するための優遇措置を講じている。デビューの際には馬具を準備するのにかなりの費用がかかるが、その購入費のための補助金を支給したり、デビューから当面の間、1騎乗ごとや1開催ごとに手当を支給するなどだ。
もうひとつ、昨年は地方競馬全体で年間の売上が過去最高を記録したように、売上好調なことも要因としてあるだろう。10年ほど前まで地方競馬は廃止が相次ぎ、財政基盤が大きくない競馬場では廃止という不安がつきまとった。それゆえ、比較的経営が安定していて賞金も高い南関東の所属を希望する新人が多かった。しかし現在ではどの競馬場でも賞金や手当がある程度満足できるレベルになり、そういう状況であれば、騎乗機会を得られやすい南関東以外の競馬場を希望するという新人騎手も少なくない。
後列左から、宮内勇樹(北海道)、所蛍(船橋)、加藤翔馬(金沢)、大畑慧悟(名古屋)、阿部基嗣(高知)
前列左から、阿岸潤一朗(北海道)、佐々木志音(岩手)、木澤奨(大井)、松本一心(笠松)、山本屋太三(兵庫)、合林海斗(佐賀)
ここではオッズパーク対象の競馬場に所属する7名を紹介する。
■佐々木志音(ささき・しおん/05.6.8生) 岩手・佐藤祐司厩舎
家が水沢競馬場の近くで、中学2年のとき競馬場に行って、人馬一体となってコースを駆け抜けている騎手を見て憧れた。
小学1年から5年まではサッカー、その後は空手や柔道をやっていたというスポーツ少年。自身の性格は「いつも明るく元気で負けず嫌い」という。目標は、岩手競馬のリーディング。勝ちたいレースはマイルチャンピオンシップ南部杯とのこと。
勝負服(胴白・赤縦縞、そで黒・赤一本輪)は、佐藤祐司調教師に考えてもらった。
■加藤翔馬(かとう・しょうま/05.4.24生) 金沢・加藤和義厩舎
父(加藤和義調教師)が騎手を引退するときのレースを見て憧れたという。最初は反対されたが、騎手になる覚悟を伝えたところ、賛成してくれたという。
自身の騎乗技術では、馬上でのバランスがよく、そこを追求していきたいとのこと。目標は、全国の重賞に呼んでもらえるような騎手になること。勝ちたいレースは、金沢で唯一のダートグレード、白山大賞典。
勝負服(胴橙・白十字襷、そで橙・白星ちらし)は、自分でデザインを考え、オレンジは自分のラッキーカラーとのこと。
■松本一心(まつもと・いちと/05.6.13生) 笠松・加藤幸保厩舎
小さい頃から騎手である父を見て憧れ、騎手を目指した。父(松本剛志騎手)と同じ厩舎の所属となり、父のことは「兄弟子」と呼ぶ。
自身について、「馬に対して柔らかく乗れる。馬を楽に走らせることができる」と長所をアピール。目標は、「東海リーディングを獲れるようにがんばります」とのこと。
勝負服(胴水色・白山形一本輪、そで赤・白二本輪)は、父の勝負服(胴青・桃山形一本輪、そで白・青二本輪)と同じデザインで色違い。
■大畑慧悟(おおはた・けいご/05.6.25生) 名古屋・倉地学厩舎
おじ(大畑雅章騎手)を小さい頃から見ていて憧れた。両親は「やりたいことをやればいいと賛成してくれた」という。
「ハミを抜いてリラックスさせて走らせることができる。ただ、手綱が長くなって雑になってしまうことがあるので、そこは改善したい」と自身を分析する。目標は、厩舎の兄弟子・丸野勝虎騎手のように結果を出せる騎手になりたいとのこと。勝ちたいレースは、東海ダービー。
勝負服(胴緑・黒ダイヤモンド、そで黒)は、丸野騎手と同じ色でデザイン違い。
■山本屋太三(やまもとや・たいぞう/05.12.6生) 兵庫・坂本和也厩舎
家が川崎で、川崎競馬場に連れていってもらい、小学3年のときの体験乗馬がきっかけで騎手を目指した。両親は最初から賛成して応援してくれたという。
小学3年から中学2年まで体操をやっていて、市の大会で総合2位に。最初は川崎の所属を希望したが縁がなく、公募で坂本和也調教師が手を挙げてくれたとのこと。目標は、誰からも信頼され、地方競馬の雄になること。勝ちたいレースは、賞金が高くなった地元の園田金盃。
勝負服(胴白・紫縦縞、そで紫・白一本輪)は、坂本調教師の騎手時代の勝負服のそでに白一本輪を付けた。
■阿部基嗣(あべ・もとつぐ/05.4.30生) 高知・西山裕貴厩舎
中学2年のとき、父と初めて東京競馬場に行って、騎手と馬との息の合った走りに感動したという。
小学1年から5年まではサッカー、その後は中学3年まで野球をやっていたという。出身は静岡県だが、売上が上がっていて注目される中で競馬がしたいと高知を希望した。目標は、誰にでも信頼され、憧れられるような騎手になること。勝ちたいレースは黒船賞。
勝負服(胴白・青十字襷、袖青・赤一本輪)は、高知では誰も使っていないデザインで、西山裕貴調教師の騎手時代の勝負服の色使った。ちなみに、ばんえいの菊池一樹騎手とまったく同じデザインだが、決めたあとに知ったとのこと。
■合林海斗(ごうばやし・かいと/04.6.14生) 佐賀・土井道隆厩舎
家は大分県で、祖父が中津競馬の騎手だった。小学6年のとき、父に小倉競馬場に連れて行ってもらい、かっこいいと思って騎手を目指した。
趣味がスケートボード、バス釣りという個性派で、目立つことをやりたかったという。目標は、佐賀競馬を代表するような騎手になること。勝ちたいレースは佐賀記念。
勝負服(胴紫・白玉ちらし、袖紫・白二本輪)は、自分の好きな色で、佐賀競馬の騎手では使われていないデザインにした。
NARグランプリ2022・年度代表馬となったイグナイターの父エスポワールシチーをはじめ、ホッコータルマエ、コパノリッキーなど、近年では日本のダートでチャンピオン級の活躍をした種牡馬の産駒が地方競馬を中心に活躍しているが、ダート血統の裾野が広がったぶん、ダート系マイナー種牡馬の活躍も興味深い。
1月22日の花吹雪賞(佐賀)を勝ったエイシンレミーの父エーシンモアオバーは、重賞初制覇が2012年、6歳時の名古屋グランプリJpnIIだが、このとき鞍上だった岡部誠騎手も、これがダートグレード初制覇となり、涙の勝利騎手インタビューが印象的だった。エーシンモアオバーは、その名古屋グランプリJpnIIと白山大賞典JpIIIで連覇を果たし、ダート長距離の逃げ馬として活躍した。
種牡馬となったエーシンモアオバーの産駒は2017年生まれが初年度産駒で、これまで血統登録された産駒は現3歳まで4世代でわずかに5頭。その数少ない産駒からエイシンレミーは重賞勝ち馬となった。母がエイシンベティー、生産が栄進牧場で、"エイシン(エーシン)"の平井一族の自家生産馬として育てられたからこその重賞勝利といえるだろう。
花吹雪賞を制したエイシンレミー(写真:佐賀県競馬組合)
中央から兵庫に移籍し、5連勝で今年1月3日の新春賞(園田)を制したアキュートガールも、父ワンダーアキュートの産駒としてここまで唯一の重賞勝ち馬。
ワンダーアキュートは中央でもダートグレード3勝を挙げているが、地方では6歳時のJBCクラシックJpnI(川崎)でGI/JpnI初制覇、7歳時に日本テレビ盃JpnII、8歳時に帝王賞JpnI、さらに9歳時にはかしわ記念JpnIを制するなど、息長く一線級で活躍した。
その父カリズマティックはアメリカからの輸入で、日本では平地のグレードを勝った産駒がワンダーアキュートのみだっただけに、ワンダーアキュート自身も種牡馬としてはあまり注目されることがなく、2017年の初年度産駒から現3歳世代まで、血統登録された産駒は53頭となっている。
昨年の湾岸スターカップなど名古屋で重賞4勝を挙げているブンブンマルは、ナムラタイタン産駒の唯一の重賞勝ち馬。
ナムラタイタンは、中央在籍時の重賞勝ちは武蔵野ステークスGIIIだけだが、岩手に移籍して1400mの岩鷲賞から2500mの北上川大賞典まで距離を問わず、約3年間で重賞12勝と、圧倒的な活躍を見せた。
2018年に生まれたブンブンマルが初年度産駒で、今年3歳の世代までで血統登録された産駒は33頭。2月23日に行われた、たんぽぽ賞(佐賀)で1番人気に支持されたゴーツウキリシマはブンブンマルの全妹で、これが勝てばナムラタイタン産駒として2頭目の重賞勝ち馬になるところだったが、残念ながら3着だった。
ナムラタイタンの父はダート種牡馬として大活躍したサウスヴィグラスだが、活躍した産駒には牝馬が多く、ナムラタイタンはここまでのところ唯一といえる後継種牡馬だった。しかし今年、ジャパンダートダービーJpnIを制してNARグランプリ2017の年度代表馬となったヒガシウィルウィンが浦河・イーストスタッドで種牡馬入り。その産駒の活躍にも期待だ。
また父ガルボは芝での活躍だったが、その産駒、ガルボマンボが昨年、高知二冠に加え、高知県知事賞を制するなど大活躍。今年2月にもだるま夕日賞を制した。
2017年生まれが初年度産駒で、今年3歳の世代までで血統登録された産駒は29頭という中から、ガルボマンボは今のところ唯一の重賞勝ち馬となっている。
同じく父シルポートは芝での活躍だったが、産駒のハクサンアマゾネスは、昨年まで金沢で重賞14勝という活躍。同産駒では、同じく金沢のハクサンフラワーが2018年に金沢プリンセスカップを勝っている。
マイナー種牡馬の活躍ということでは、少し古い話にはなるが、ほとんど注目されていないところから種付けが殺到するようになったエイシンサンディが忘れられない。
1993年生まれのエイシンサンディは、中央に入厩したものの不出走のまま引退。それでも種牡馬になれたのは、92年生まれの初年度産駒から大活躍したサンデーサイレンス産駒だったからと思われる。
エイシンサンディは96年の種付初年度には45頭と交配したが、その後、97年19頭、98年15頭、99年7頭と徐々に種付頭数が減った。しかしその初年度産駒のミツアキサイレンス(笠松)が、3歳になった2000年に兵庫チャンピオンシップ(当時GIII)を制すると、その直後から種付けの希望が殺到。なんと163頭と交配する人気種牡馬になった。
ミツアキサイレンスは、その後も佐賀記念GIII連覇に名古屋グランプリGIIを制するなど活躍。父のエイシンサンディは、種付頭数が増えたことによって、黒船賞JpnIII・3連覇などダートグレード9勝のセイクリムズンをはじめ、チューリップ賞GIIIを制したエイシンテンダー、北海道2歳優駿GIIIを制したエイティジャガー、プリンシパルSを制して日本ダービーに出走(9着)したベンチャーナインなどを出すに至った。
自身は不出走だった種牡馬が、たった1頭の産駒の活躍によって、復活どころか人気種牡馬として活躍するまでになった。
近年、地方競馬ではデビュー間もない新人騎手の活躍が全国的に目立っているが、昨年12 月にデビューして、いきなりトップジョッキーに匹敵するペースで勝ちまくっているのが、ばんえいの今井千尋騎手だ。
ばんえい競馬では売上が落ち込んだ2010年以降、新人騎手のデビューが途絶える時期もあった。しかし近年では売上も右肩上がりとなって、2019年以降は21年を除いて毎年新人騎手がデビューし、昨年12月には3名の新人がデビューした。そのひとりが今井騎手。
12月10日にデビューした今井騎手は、3戦目となった翌11日第9レースで初勝利。12日に2勝目を挙げると、19日には1日2勝、28日には1日3勝と勝ち星を重ね、そのデビュー月には43戦10勝という成績を残した。
12月11日、初勝利を挙げた今井千尋騎手(写真:ばんえい十勝)
その勢いは1月になっても衰えず、8日には1日4勝という記録も達成。この1月は、23日までに早くも16勝を挙げている。年が明けたばかりでリーディングというのもどうかと思うが、今井騎手は鈴木恵介騎手に2勝差をつけ、なんと2023年ばんえいリーディングのトップに立っている。
すごいのが、その勝率・連対率だ。今年ここまで74戦16勝、2着12回で、勝率21.6%、連対率37.8%はいずれもダントツ。勝率で2位が鈴木騎手で16.1%、連対率で2位が西謙一騎手で26.7%(6戦0勝、2着2回で連対率33.3%の林康文騎手は除く)だから、いかに今井騎手の数字が抜けているかがわかる。
冒頭でも触れたとおり、近年、地方競馬全体でデビューしたばかりの騎手の活躍が目立つが、もとは縦社会。かつて競馬の世界では、よほどの才能があるか、もしくはよほど何かに恵まれるでもない限り、デビューしたばかりの騎手が、トップジョッキーと同じように勝ちまくるということはほとんどなかった。
たとえばここ数年、ばんえいリーディングを争っている鈴木恵介騎手、阿部武臣騎手なども、デビューして何年かは目立たない存在だった。
ともにデビューは1998年(以下、勝利数はいずれも暦年でのもの)。そのデビュー年こそ減量の恩恵もあって、鈴木騎手28勝、阿部騎手35勝とそれなりの勝ち星を挙げたが、99年〜06年までの年間勝利数を順に記すと、鈴木騎手が38,16,17,23,25,55,71,107、阿部騎手が18,3,5,11,10,14,25,35。
鈴木騎手は年間10勝前後が続いて、はじめて100勝を超えてばんえいリーディングのトップ10に入ったのが9年目のこと。阿部騎手に至っては2年目以降、騎乗数自体が少なく、年間10勝前後という年が続いた。通算500勝到達は、鈴木騎手がデビューから10年、阿部騎手は14年もかかっている。
それゆえ、2020年12月にデビューした金田利貴騎手が、21年にいきなり94勝を挙げたときは、ばんえい競馬も時代が変わったと思わせるものだった。そして今井騎手は、それ以上のペースで勝ち星を重ねている。
果たして、今井騎手の勝率20%超という、ベテランのトップジョッキーのさらに上をいく快進撃はどこまで続くのだろうか。これにはデビューしたばかりのご祝儀的な騎乗依頼もあるだろうし、何より新人の10kg減に加え、女性騎手の10kg減という、計20kg減量の恩恵は大きい。平地の競馬では、新人の女性騎手は4kg減となるが、ばんえい競馬における20kg減は、平地の4kg以上に恩恵が大きいように感じる。加えて、この冬の異常なスピード馬場は、20kg減との相乗効果でさらに有利になっているかもしれない。
ばんえい競馬では通算50勝で10kgの減量がなくなる。今井騎手はこのペースで勝っていくと、今シーズン中(3月まで)に減量がなくなるかもしれない(女性騎手の10kg減は残る)。さすがに10kgの減量がなくなれば今のようなペースで勝ち続けることは難しいかもしれないが、それでもリーディング上位の争いにからんでいけるのかどうか、注目したい。