第31回 ばんえい競馬の申し子 長澤幸太
最後のジョッキーファイルは長澤幸太騎手です。
--- 騎手になられたきっかけを教えてください。おじいさんが馬主さんだったんですよね。
はい。周りにもいっぱい馬主がいるんで。家にも馬がいました。
騎手を目指したのは中学1年生くらいですかね。そのころから、冬休みと夏休みは服部厩舎に手伝いに行ってたんで。
--- 服部先生とつながりがあったのでしょうか?
小学生の時から(服部厩舎所属の)大河原騎手と知り合いでした。じいちゃんが知ってたんで。
--- 船山蔵人騎手と同じ道東の浜中町出身ですが、蔵人騎手のことは知っていましたか?
知ってました。小学校、中学校も一緒で、よく遊んでました。
--- 浜中では草ばん馬に乗っていたんですよね。
はじめて乗ったのは中学3年生くらいからですね。最初、難しくって……。草ばんばってコースが決まってないから、馬がまっすぐ走らなくって。
難しいから、やっていくうちにもっとうまくなって勝ちたいなって思って、どんどん乗り方を覚えていきました。
今はもう浜中では草ばん馬はやってないです。
--- 自然に騎手になる道を進んだのですね。中学卒業後に来ようとは思わなかったのでしょうか。
中学卒業してすぐ来ようと思ったんですけど、うちの(服部)調教師が最低高校は行っとけっていうんで行きました。
それとその頃、ばんえいの経営が微妙な状態だったから……。
--- でも、競馬場に入ったのが新生ばんえいスタートの年だから、高校の時に存廃問題が起きたんですよね。
もう、なくなったらなくなったでその時考えようと思ったんで。
うちの家族にも、その時考えれって言われました。
--- そして、騎手試験は一発合格。
奇跡の。
--- そんなことないでしょう!
いや、奇跡だよ!
--- そして1月10日、デビュー戦をリアルスペシャルで初勝利です。その時のことを教えてください。
すごい雪降ってたんで、勝つとかじゃなく、走路の中をまっすぐに人に迷惑かけないで走ろうと思ってました。
ゴール前は奇跡的に……(笑)
どっちが勝ったかわからなかった。
--- そしてここまで51勝(2009年7月23日現在)。素晴らしい活躍です。
今年のほかの新人よりはちっちゃい頃から馬も触ってるから。他の人と一緒じゃ子どもの頃、何をしてたんだっていうことになるんで。同じ新人には負けたなくい。一番乗ってるし。
厩舎の人もすごい応援してくれています。
--- 服部厩舎は大河原、鈴木恵介、細川とすごい騎手ばかり所属していますよね。
はい、教えてもらっています。怒られるし。主にカワさん(大河原騎手)が教えてくれます。一緒にご飯食べに行ったり。その時に話したり、レース終わってからも、どこがだめだったとか。
自分でビデオ見て、こういうところ失敗したなとか、確認もします。
--- 勝負服を見ても大河原騎手の影響がわかります。
パクり(笑)。
--- 貝和騎手が長澤騎手と仲がいいと言っていました。ばん馬の話をしたりしますか?
ばん馬よりプライベートの話ですね。若い感じの会話で(笑)。
サッカーチームも一緒に入ってるんで。
--- ばんえいリッキーズですね。
活動は週2回かな。火曜が社会人との試合で、水曜が練習です。
試合後にはばんばのティッシュと無料招待券を相手に配っています。
--- 何かスポーツはされていましたか?
野球です。高校ではセカンドとピッチャー。小中高って野球やってて、キャプテンでした。
--- なかなか時間はないと思いますが、プライベートはどうされていますか?
最近結婚したんで、早くに……。
--- 帰って来いと(笑)。騎手になったら結婚するとの約束を果しましたね。おめでとうございます。今は厩務員として働いている沙也佳さんですね。
キタノタイショウと共に
レース(1着に)持ってきても……すごいうるさいんですよ。帰ってきたら「(障害に)かけるの遅い!」
--- (笑)。同じ高校から長澤騎手のいるばんえいの世界に入られて頑張っていますよね。もともとばんえいは見ていたのでしょうか?
見てないですね。競馬場入ってからです。最初はもう、馬触るのもおっかながって……。
今はもう馬の背中に乗ったりズリ挽きしています。頑張ってるなーって。
--- なかなか男性でも出来ないことを、よくこなしていて素晴らしい女性ですね。さて、最近50勝して減量特典がなくなりました。
☆取れちゃった。
でも、10kg軽くなったからって乗り方変えようとは思ってないんで。
--- 以前より、特別戦など減量特典のないレースは乗られていましたが、10kgの違いは感じますか?
ゴール前とか、普段乗ってる馬でもあれ? こんなのかな? って。
たかが10kgだけどすごいなーって思いました。
--- 目標を聞かせてください。NARグランプリ新人賞に近いところにいますね。
出来たら取りたい。
取ることによってばんえいの宣伝にもなるし。
--- では最後に、ここを見てくれ!というところを教えてください。
障害!
騎手と馬が呼吸を合わせて上ってくところが見所かな。
--- ばんえいの場合、騎手と馬が6:4や7:3といいますが。
自分はほとんど馬かな?(笑)
あれだけの成績を残しているのに謙虚な姿勢の長澤騎手。技術だけではなく、このような姿勢が騎乗数に結びついているのでしょう。
長澤騎手はインタビュー後、大怪我をしてしまいました。蹄鉄を打っていた馬を持っていた時にその馬が立ち上がり、脚で顔面を蹴られてしまったそうです。即手術をしましたが、鼻と顎の骨は亀裂が入ったまま3週間で復帰。その日の第5レースで、初勝利となったリアルスペシャルで早速勝利をあげました。
病院から競馬場が見えていたそうで、もどかしい気持ちの中、体を鍛えていたそうです。
馬に乗れる楽しさを改めて感じたそうで、この経験を積んだ長澤騎手は鬼に金棒ですね。
長澤騎手がベテランとなり、平成のミスターばんえいと呼ばれるまでの姿を見守りたいと思います。
ジョッキーファイルはこれで最後となります。今までありがとうございました。
ばんえいがなくなるかもしれなかった時、一番強く思ったのは「この人たちを騎手でいさせたい、ずっと騎乗している姿を見ていたい」ということでした。
多くの人に騎手の素晴らしさを紹介したいと思っていた時にお話をいただき、自分なりに頑張ってきたつもりですが、まだまだ伝えきれない部分がたくさんあり、力のなさを痛感しています。でも「読んでからあの騎手のファンになった」と言われることがとても嬉しかったです。
これからも皆さんには、ばんえい騎手の魅力を感じていただいて、もっともっとばんえいにハマっていただきたいと思います。
その機会を作っていくのが『とかち馬文化を支える会』。9月18日には恒例の『騎手交流会』を行います。魅力を生で感じにぜひご参加下さいね!
取材・文・写真/斎藤友香