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2006年2月17日 アーカイブ

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やっぱり馬が好き(第14回)  旋丸 巴

2006年2月17日(金)

名優マルニシュウカン

 ばんえい競馬を主題として話題になっている映画『雪に願うこと』の試写会に行って参りましたよ、私も。本欄は映画評を記す場ではないので、評論、評価は省略するけれど、読者諸氏には、これだけは申し上げておこう。「映画の出来栄えはともかく、競馬ファンなら、是非、ご一見を。ばんえい競馬と、その裏舞台を見られる貴重な映画ですから」と。

 さて、試写会の後には、ばんえい関係者と製作スタッフが集まって、小さなパーティーが行われ、私も参加の幸運に恵まれた。因みに、このパーティーには、当情報局の編集長・斎藤修さん、矢野吉彦さん、古林英一先生も出席されて、私を含め執筆者揃い踏み。会場の一角に「怪しい集団」を形成していたのだけれど、まあ、それは余談として……。

Iseya  そんなパーティーで、しかし、何と言っても一人、オーラを発していたのが、主演の伊勢谷友介さんだった。何たって、背が高い、スタイルがいい、顔が小さい。もう一般人とは明らかに違うアトモスフィアを漂わせて、さすがは有名女優と噂されるイケメン俳優。(写真:右から2人目が伊勢谷さん)

 しかも、である。こんな天衣無縫、完璧な容姿の売れっ子であるにも関わらず、私の友人が握手を求めると、呆然するほどの爽やかな笑顔で握手に応じ、なおかつ「これからも宜しくお願いします」と、これまた輝く笑顔で宣もうたのだから……。うむむむむ。握手してもらった我が友人が日なたのチョコレートの如くグニャグニャになってしまったのも仕方なければ、見栄を張って握手を求めなかった私が嫉妬に悶絶したのも当然の成行き。

 と、すっかり伊勢谷レポート化してしまったけれど、そして、本当に伊勢谷さんは目がくらむほど格好よかったのだけれど、映画『雪に……』の中で、私が心ひかれたのは、実は、この美形俳優ではない。

Maruni  作中、最も秀逸な演技を見せ、誰よりも労苦を惜しまず真摯に映画に貢献した「魅惑の役者」、それは主役馬ウンリュウを演じた「マルニシュウカン」である。誰が何と言おうと、それが私の結論。(写真:マルニシュウカン)

 現役バリバリ、今正にレースに使われている、そんな馬が様々な無理難題を課せられ、それに応じた、というだけでも頭が下がるけれど、私が、この栗毛馬を「名優」と称する理由は、それだけではない。

 作中、主人公の男性(伊勢谷友介)とウンリュウ(マルニシュウカン)が心通わせる場面で、この馬は主人公に口をパクパクしてみせるのである。この仕種は、「スナッピング」と言って、群の下位に属する馬が上位の馬に対してする「服従」の仕種。つまり、この映画の中では、馬が主人公に「親愛の情」を示す、という意味を含めた「演技」なのである。

 そうした重要なシーンで、マルニシュウカンは、実に自然に主人公の肩口に唇を寄せ、柔らかく口を動かしている。

 これは本当に心温まる演技であって、そこいらの純愛映画のラブシーンなんか比較にならない「胸に染み入る名場面」。馬映画は随分観たつもりだけど、かほどの名演技が出来る馬は、海外にだって、そうはいまい。

 勿論、このマルニシュウカンを映画に提供して下さった馬主さんの英断と、映画製作に協力した久田調教師を始めとする厩舎関係者の尽力も忘れてはならないから、パーティーでは馬主さんに、観客を代表する心意気で「感謝」の意をお伝えしておいた。

 そして、また、過日、所用で帯広競馬場の厩舎を訪れた時には、マルニシュウカンにも面会させてもらい、この名優にご挨拶申し上げた。洗い場に繋がれた彼は想像より小柄で、しかし、なかなか芯の強そうな精悍な馬。その威風堂々たる姿を写真に収めたら、伊勢谷さんと握手できなかった悔しさも吹き飛んだ。

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