7月2日、水沢競馬場では、古馬による1400メートルの重賞・栗駒賞が行われる。
フルゲート12頭に、他地区からは北海道1頭、船橋1頭、大井2頭の計4頭が遠征してきた。岩手は何年か前から重賞のほとんどを他地区にも開放するようになり、当初は遠征馬もそれほど多くはなかったが、昨年あたりから遠征馬が目に見えて増えてきたような気がする。
地方競馬の場合、特に古馬の重賞レースではいつも同じような顔触れになることも少なくないが、他地区からの遠征馬が入ることによって、馬券検討の興味は格段に増す。
短期的には他地区の陣営に賞金をもって行かれてしまうというデメリットはあるかもしれない。しかし長い目で見れば、ファンの興味を惹き付けたり、それによって他地区でも追随して重賞を開放するようなところが出てくるであろうから、地方競馬全体のことを考えればメリットのほうがはるかに大きいと思う。
さて、栗駒賞だが、地元岩手勢の力関係は、前哨戦の姫神賞の着順どおり、タイキシェンロン、ベルモントシーザー、オリエントボスという順位づけでよさそうだ。特にタイキシェンロンは昨年11月以降は3着が1度あるだけで、それ以外は連対を外していない。距離についても、この1400からマイルあたりで力を発揮する。
南関東勢だが、ハタノアドニスは昨年のJBCスプリントGI2着でアッと言わせたが、その後はダートグレードで着外続き。ベルモントソレイユも2月の報知グランプリカップ3着があるだけで、1年以上勝ち星から遠ざかっている。バニヤンドリームはB1B2を接戦で勝ったばかり。と、いずれも決め手に欠ける。
ならば前々走の赤レンガ記念でジンクライシスの2着している北海道のタイギャラントでもイケそうな気がする。その赤レンガ記念では、一昨年まで岩手で活躍していたバンケーティングを6馬身ちぎっている。
そして地元勢と他地区勢の比較だが、今回は他地区勢にあまり強く推せるような馬がいないだけに、得意の距離でもあり地元2頭を中心に見てよさそうだ。連下に、タイギャラント、ハタノアドニス、ベルモントソレイユまで。順番はともかく、この5頭の組み合わせで3連単までイケそうな気がする。
◎タイキシェンロン
○ベルモントシーザー
▲タイギャラント
△ハタノアドニス
△ベルモントソレイユ
さらに、印はまわらなかったものの、気になる馬が1頭。全国をさすらう内田利雄騎手が手綱をとるローランボスコだ。昨年も、期間限定で岩手に所属しているときに、マーキュリーカップGIIIで騎乗した経験がある(12着)。また、4月のまんさく賞では、鞍上は内田利雄騎手ではなかったが、10番人気という低評価ながらタイキシェンロンを2馬身差で退け波乱の立役者となった。穴をあけるならこの馬だろう。
「交流元年」と言われたのが1995年のことで、あれからもう10年以上が過ぎた。中央と地方の交流、また地方同士の交流が当たり前のようになったことで、地方競馬もこの10年ほどでかなり変化してきた。
かつてほとんど中央競馬としか関わりがなかった社台グループが、最近では地方競馬でも共有オーナーの会員を募集するなどしてかなりの頭数を使っているということなども、その変化のひとつだろう。
そしてUAE・ドバイのシェイク・モハメド率いるダーレーグループの日本法人、ダーレー・ジャパン・レーシングの参入も地方競馬にとっては、ひとつの大きな「事件」だった。
当初は船橋が中心で、最近では大井にも所有馬が増えてきたが、今年の2歳馬からは、岩手にも進出してきた。
デビューはこれからだがパチョリという2歳牝馬が、馬主ダーレー・ジャパン・レーシングとして岩手に登録されている。
ちなみにダーレーの生産馬では、岩手ダービー・ダイヤモンドカップを制したオウシュウクラウンがすでに岩手で活躍しているが、これはダーレー・ジャパンの所有馬ではなく、馬主は西村専次氏。05年の千葉サラブレッド2歳トレーニングセールに上場され、このときは主取りとなったが、その後西村氏にトレードされたのだろう。
そうした縁があったからなのか、ダーレー・ジャパン所有のパチョリは、オウシュウクラウンと同じ櫻田浩三厩舎に入厩している。
パチョリの父は日本でも繋養されていたジェイドロバリーで、母はMarrubiumという血統。全兄の3歳馬ハーブポットという馬が船橋所属となっているが、ハーブポットがUAE産であるのに対し、パチョリはイギリス産。ジェイドロバリーを受胎した母馬がイギリスに送られて誕生した産駒なのだろう。
聞くところによると、パチョリだけでなくほかにも何頭かダーレー・ジャパンの所有馬が岩手に入厩してくるらしい。
岩手に入ったダーレー・ジャパンの馬たちが、今後どんな活躍を見せるのかはもちろん、それによって岩手競馬がどう変わっていくのかも楽しみなところではある。
28日に荒尾競馬場で行われる『九州王冠』は、99年に『九州サラブレッド王冠』としてスタート。当初は2150メートルで行われていたが、02年に1500メートル、そして04年からは1400メートルで行われており、7月中旬の吉野ヶ里記念(佐賀)から、8月中旬のサマーチャンピオンGIII(佐賀)へと、九州地区の1400メートル重賞路線となっている。
1500メートルになった02年以降毎年、佐賀からの遠征馬は1〜2頭だが、その佐賀所属馬が勝っている。例年、近い日程で佐賀でも古馬オープンの1400メートル戦が組まれているため、よほど重賞タイトルがほしい陣営しか荒尾まで遠征しないのだろう。
しかし今年は佐賀からの遠征は1頭もなく、地元荒尾勢同士の争いとなった。中央から佐賀に移籍し、いきなりトップの座を争っているヤマノブリザードは、九州王冠と同日の帝王賞GI(大井)に遠征。タイキシリウス、ランノホシ、イカルガなどほとんどの有力馬は25日に地元佐賀の1400メートルで行われた黒髪山特別に出走してしまった(勝ったのはイカルガ)。
というのも、重賞である九州王冠の1着賞金が100万円であるのに対し、オープン特別に過ぎない黒髪山特別が150万円なので、これもしかたないことなのだろう。
さて、前置きが長くなったが、地元荒尾勢同士の対戦だけに実力拮抗かといえば、そうでもなさそうだ。
テイエムデウスが断然の様相。年明けとともに中央から移籍し、以来荒尾では負けなしの5連勝。唯一の敗戦は、佐賀に遠征した重賞・はがくれ大賞典(6着)のみ。今回は、すでに勝負付けが済んでいるメンバーか、そうでなければ格下からの挑戦。テイエムデウスにとっては負けられない一戦で、ここは相手探し。
その筆頭は、A2からの挑戦だが、3月の大阿蘇大賞典で3着と好走しているフジヤマロバリー。それから、このメンバーならテイエムデウス以外では実績上位のトウショウゼウス。
テイエムデウスからだと絞らなければならないので、せいぜいこの2頭へ流す馬券で、金額の配分はオッズとの相談ということになる。
内田利雄騎手が、6月24日から8月15日まで岩手競馬で期間限定騎乗する。昨年に続き岩手では2度目のこと。
状況はこの1年で大きく変わり、期間限定騎乗も地方競馬のすべての地区で、それぞれの条件に沿った形で受け入れられるようになった。
1年前、こういう形で(当時は「短期所属替」と言っていた)騎乗が可能になったことは驚きとともに伝えられた。
当時、ぼくは少しでも早く状況を把握したくて水沢まで話を聞きに行った。
その年の3月限りで宇都宮競馬が廃止となり、居場所をなくした内田利雄騎手は、騎手免許は全国共通のものだから、1カ所にとどまらずに全国の競馬場を転戦して騎乗できるよう希望し、その道を模索していた。
当時から、2〜3カ月ずつさまざまな競馬場に所属して全国を回りたいという希望を持っていたが、それはかなり夢物語に近かった。しかし、その後、笠松、南関東(浦和)、兵庫と所属場所を替え、そして今回また岩手に戻ってくるという、思い描いていたことを最初の年から実現してしまったことには驚くばかりだ。
3000勝ジョッキーとはいえ、いわばアウェーの地で、有力馬はなかなかまわってこないという厳しい状況。それでも岩手では、船橋からの遠征馬でクラスターカップGIIIへの騎乗を果たした(11着)。
笠松では、かつて同じ北関東の高崎で活躍していた川嶋弘吉厩舎のタイガーロータリーの鞍上をまかされ、重賞・スプリントを制した。
昨年はJBCが名古屋での開催だったことで、その時期に笠松に所属してJBCにも騎乗できれば……という希望も見事に叶え、そのタイガーロータリーでJBCスプリントに出走した。
そうこうしているうにちに最大の目標だった南関東でも期間限定騎乗の門戸が開かれ、年明けからは浦和に所属して南関東で騎乗した。
こうやって活躍している場面ばかりを挙げていくと華々しいが、やはり生活は苦しいという。賞金の高い南関東で長期間騎乗できるなら別だが、賞金がギリギリまで切り下げられたような地区ではかなり厳しいという。
それゆえ、厩舎の空き部屋か、調整ルームの一室を借りて住むという生活が続いている。
栃木にいる家族と離れた生活を強いられることも、並み大抵の苦労ではないだろう。
さて、2度目の岩手でのシーズンがスタートする。
1年間全国の競馬場をさすらい、おそらくパワーアップしているであろう騎乗ぶりを、また岩手の地で見られるのが楽しみだ。
笠松1400メートルのサマーカップは、このメンバーならクインオブクイン本命でいいように思う。
前々走のオグリキャップ記念は2番人気に支持されながら6着に敗れたが、これは勝ったレッドストーンを負かしに行ってのもの。ダートグレードを中心に使われ、常に善戦していることからも、このメンバーでは実績上位。
しかし気になることがひとつ。クインオブクインは笠松1400メートルの重賞はひとつも勝っていないということ。そもそも、04年11月のJRA認定レースを勝って以来、出走すらしていない。前走のテレビ愛知オープンを別とすれば、近走は1800メートル以上のレースばかりを使われている。
しかし、ダートグレードなら話は別だが、ここは地区交流の重賞。1400メートルとはいえ、それほど流れは厳しくならないだろう。
距離適性という面では、タイガーロータリーやレジェンドハンターのほうが上かもしれない。
タイガーロータリーはJBCスプリントGI(12着)以来の出走だが、その前のレース、笠松1400メートルのスプリントは短期移籍の内田利雄騎手が手綱をとって見事な勝利だった。
サマーカップは昨年2着で、雪辱を期したいところ。
そして連覇を狙うのがレジェンドハンター。この馬ももう9歳になった。1900メートルまではさまざまな距離で活躍しているが、03年には1400メートルの全日本サラブレッドカップGIIIを制覇。そして昨年のこのレースも勝っている。以来、勝ち星はないが、近年は1400メートルあたりの成績がいい。
この3頭ならどれが勝ってもおかしくない感じだ。馬連は、おそらくこの3頭のうちの2頭で決まるのではないか。
穴を狙うなら、名古屋のマイネフォクシー。前走は名古屋のA1勝ちで、東海桜花賞3着もあるが、今回のメンバーと比較すると、近走(かきつばた記念は除く)の対戦相手は一枚落ちる。とはいうものの、オッズ的には穴にはならず、わりと人気になってしまうかもしれない。
◎クインオブクイン
○タイガーロータリー
▲レジェンドハンター
△マイネフォクシー