現役史上最多900勝という偉業を達成した神山雄一郎選手(栃木61期)。達成の瞬間の意外な気持ち、そして今の自分との向き合い方などお話を伺いました。
大津:900勝おめでとうございます。
神山:ありがとうございます。
大津:少し日が経ちましたが達成されたときのお気持ちをお伺いできますでしょうか。
神山:基本的にはホッとしました。
大津:喜びよりもですか。
神山:そうですね、良かったっていうかやっと出来たかなっていう感じです。
大津:重圧もあったのでしょうか。
神山:自分としてはあまり意識していなかったのですが、周りの人たちがかなり意識をしていたので、それに応えなきゃいけないっていう責任感が出てきて、その中でもなかなか勝てなかったので段々気にするようになってきました。
大津:神山さんとしては「900」という数字にはあまりこだわってはいなかったのですか。
神山:そうです、はい。ただ、やはりファンの方や関係者の方々は強く意識されてましたので競輪場に入った時とかそういう空気は常に感じていました。
大津:リーチをかけてから、なかなか勝てない時の心境というのはどうだったんですか。
神山:勝つのって難しいじゃないですか、9人もしくは7人全員が1着を狙いにいくので。
自分では普段と変わらない感じだとは思ってはいたんですけどね。でも、周りの期待感をとても感じていたので「なんとしても1着を取らなくちゃ。」という気持ちから練習に力が入りすぎてオーバーワークになっていたような気がします。
大津:確かにどこの競輪場でも神山さんの900勝というのは話題になってましたもんね。
神山:その重圧が積み重なってしまって、つい練習をし過ぎちゃいました。
大津:同じラインを組む選手からの神山さんへの思いも凄かったんじゃないですか。
神山:ありがたいことに、かなり気合が入っている選手もいたのですが、僕としては普段通りやってくれたら良いからっていう思いでした。
大津:とはいえ前を走る選手へのお客さんの声援もいつもとは違ったように感じました。
神山:そうですね、そういうのもあったので僕ではない選手もプレッシャーを感じて上手く走れなかったりとかあったと思います。
大津:ここまでお話を伺うと、冒頭のホッとしたってお気持ちに繋がってまいりました。
神山:達成するまでの何か月間は本当にキツかったですね。
大津:900勝を決めた時の周りからの反響は凄かったんじゃないですか。
神山:899勝からの次の1勝が長くて数か月も引っ張っちゃったので、どんどん周りや選手のボルテージも上がってきちゃってそれが良かったのか悪かったのか分かりませんが決めた後の反響はものすごかったですね。
大津:かなり連絡がありましたか。
神山:携帯電話に思い出せないくらい連絡が来てて、それに返信するのが大変でした。
大津:祝勝会とかはあったのですか。
神山:優勝したわけじゃないんで大々的にってのはなかったですけど、4人くらいで集まって一回飲みには行きましたね。
大津:記念品を作る予定はありますか。
神山:いずれ作ろうかなとは思うけど、作るのもタダじゃないから考えるよね(笑)
大津:地元のメディアでも取り上げられていましたね。
神山:宇都宮でのテレビや、宇都宮競輪場での報告会、宇都宮市長からも表彰していただきました。自分ではそこまで凄いことだってのは思ってなかったんですが嬉しかったです。
大津:報告会ではファンからどのような言葉をかけてもらったんですか。
神山:昔は叱咤激励が多かったんですけど、最近では褒められることのほうが多くなってきたんで複雑ですね。僕のことをずっと見てきてくれたファンの方々は僕と同じように年齢を重ねてきてるわけで、みんな歳と共に優しくなっちゃってるんですかね。
大津:勝ったレースと負けたレースでは、どちらが記憶に残ってますか。
神山:名のあるレースで勝てば思い出として残っているし、逆に負ければ悔しくて残っているし、どちらがっていうのはなくて両方覚えてます。
大津:700勝から800勝を達成するまでと、800勝から900勝への道のりは違いましたか。
神山:一番違うのは時間がかかったってことですよね。歳と共に1着を取る回数ってのは少なくなってしまうわけですから。でも、積み重ねてきた数ってのは一緒なので、時間はかかりましたが僕としてはすべて同じように頑張ってきたとは思います。
大津:900勝を達成した直後のインタビューで「練習は噓をつかない。」とお話されていたのが印象的でした。
神山:そうですね、練習の成果がいつ出るか分からないのでそれが一番辛いんですが、でもやっていないと絶対に無理なので、練習を続けるっていうのは自分の中で間違ってないことだと信じています。
答えがないんですよ、練習って。いまやってる練習の成果が明日出るかもしれないし、一年後に出るかもしれない。一年後に出る練習をやったとしても半年でやめちゃったら、その練習が実を結ばない内に引退するようになるんで、だから本当に難しいんです、練習を考えるっていうのは。歳を取ればとるほど、その難しさを実感します。
大津:今、ご自身の身体とどのように向き合ってらっしゃるのですか。
神山:向き合うってほどじゃないですけど、日々を一生懸命に生きてるって感じですかね。
正直言って一生懸命やっても結果が出なかったりするわけじゃないですか。今となってはその状態が何か月も続くわけです。だから、正直やけくそです。やけくそでやってる感じです。
大津:今までだってずっと一生懸命だったわけですもんね。
神山:みんな一生懸命だと思うし、諦めたら終わりなんで。その中で答えを探しながら、自分を痛めつけながらやって、その練習の成果がいつ出るか分からないのに、やり続けないといけないんです。
レース行って「今回も全然成果出ねぇじゃねぇか」って打ちのめされて帰ってきて、また考えて「今度はこういうことやってみよう」って、次の開催に行って、またダメで。良い時なんてホントないです。それの繰り返しで、もう5年も6年も経ってます。
大津:結果が出ないとモチベーションを保つのも難しいように思うのですが、それでも続けられるのは何故ですか。
神山:心のどこかで「オレはまだ出来るはずだ。」って自信があるんです。
出来るって言っても特別競輪で優勝できるとかそういうのではなくて、自分の納得する着を取る走りが出来るはずだって思えるんです。その気持ちが僕の中で消えてないのでやれているんです。
神山雄一郎という競輪選手に僕自身が期待してるんです。もちろんその期待の度合いは昔とは違いますけど、自分が納得する走りや着。まだやれるはずだって思うからやめられないんです。
大津:我々からするとGIでの活躍など、そういう所にフォーカスをあててしまうのですがそういうことではないってことですよね。
神山:そうなんです、たとえ特別競輪の舞台以外だとしても自分自身を納得させられる競技なんです、競輪ってのは。向き合えるんです、自分と。ファンの方は特別競輪での1着も、S級やA級戦での1着も価値は一緒だと思うんです。賭けの対象としてみれば。
だとしたらファンの方が、どんな位置にいようと僕らの1着を求めてくれるんだから「オレも頑張らなきゃいけないよな。」って気持ちになれるんです。極端な話、1着じゃなくても、車券で考えると3着でもお客さんの役には立ちますよね。「神山ってけっこう頑張ってんだから3着には来るんじゃねぇか。」なんていうお客さんがいて、頑張って僕が3着に入ったら喜んでくれる人もいるわけじゃないですか。それを味わいたいっていうのかな。
お客さんの役に立てなくなったなら仕方ないけど、まだやれるはずだって僕は思ってるんです。
大津:失礼な話をして恐縮なのですが、以前までとは神山さんに対するオッズも変わってきていますもんね。
神山:お客さんも大切なお金を賭けてくれるわけですから。その中で、もし僕が1着に来た時にオレを信じて買ってくれた方に大きい配当がいくってのも、僕は魅力として捉えられるんですよ。「オレを信じて買ってくれた人に、オレは万車券を出したぞ!」って。それも大きなモチベーションに繋がるんですよね。
大津:1倍台のオッズもあったと思うのですが、それとはまた違うヤル気に繋がるってことなんですね。
神山:そうですね、正直そこまでの責任感ってのは以前ほどはないけど、でも発送機に着くと変わらず同じ緊張感はあるんですよね。あの緊張感があるので、やっぱりオレはまだやれるんだろうなって思えるのかな。
大津:今の「神山雄一郎選手」のどんな走りをファンに見てもらいたいですか。
神山:どうですかね、ファンの方と僕ら選手では目線が違うと思うので難しいですけど、僕としてはなんとしても3着までに入りたいと思ってるんですよ。1着とは言えないんですが、3着までに入りさえすればオレを買ってくれたファンの人の為に頑張れるんです。今となっては、それも難しいことなんですが。だけど、それでも姿勢を崩さずに見せていきたいなとは思っています。
大津:最後にオッズパークの読者の皆様にメッセージをお願い致します。
神山:またS級で優勝したいです。あとはファンの為に車券に絡めるように日々練習を怠らずやっていきたいと思います。
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※インタビュー / 大津尚之(おおつなおゆき)
ソフトな見た目と裏腹にパワフルで安定感のある重低音ボイスが魅力。
実況、ナレーション、インタビュー、俳優など活躍の場は多岐にわたる。
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※写真提供:株式会社スポーツニッポン新聞社
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