
―まずは500勝達成おめでとうございます。500勝を達成した名古屋の最終日は、尾崎睦選手(神奈川 108期)の捲りに乗って最後は交わしたレースでしたが、ご自身の中ではいかがでしたか?
ありがとうございます。まずは最初の位置取りが結構手こずりました。最近のガールズのレースはスタートして態勢が整ってから、強い選手が前の方に上がって好きな位置を取られちゃうっていうパターンが結構あるんです。そういう面で尾崎さんには前の方に行ってほしくなくて、結構位置取りで動き回っていました。どうやって組み立てていこうかって悩んでいたところでペースが落ちて、結果的に真後ろになったので展開が良かったと思います。
―現在は賞金ランキング6位(インタビュー時点)ですが、今年はここまでいかがですか?
1月半ばの宇都宮の前に体調を崩してしまって少し入院して競争をお休みさせてもらって、自分の感覚的にはちょっと今年はスタートからあれ?っていう感じではありました。最近になってだいぶ自転車も固まってきて、レースに良い感じで臨めています。賞金ランキングも上がってきて良い位置にはいるんですけど、まだ4月なので頑張らなきゃなってところですね。
―レースの中で位置取りはかなり重要だと思いますが、その辺りは何を意識されていますか?
ガールズでは真後ろに強い選手にいられると抜かれてしまうし、隊列が整ってから自分で選びたいって選手も結構います。強い選手が後からゆっくり前に上がっていくと、その後ろにいた人は後方になってしまうレースが最近は多いんです。なのでできるだけ自分は3番手以内でレースを運びたいと思って前々を必ず意識してるんですけど、難しいですね。特に前団でレースが運んじゃうようなメンバーの時は、しっかり前団にいなきゃいけないと思っています。最近は本命選手の前に蓋をして下げさせるっていうレースも結構増えてきてるんですけど、簡単に引いちゃうと自分が動きたい時に蓋されちゃうので、脚を使って位置を取りに行くっていうのは常に考えてますね。
―最初に狙った位置が取れても、前の選手が他の位置に入り直して希望の位置取りでなくなってしまった場合はどう対応されていますか?
すぐに自分がどう位置を変えれば1着まで届くかを考えて、1回切る時もあれば先行選手を押さえに行ったり、捲りに構えたりと変えています。レースの中で1歩、2歩先を考えるっていうのもすごく意識して対処していますね。
―ゴールから逆算してレースを考えるというお話を以前されていたと思うのですが、レースの中でどの位置を取るか、途中でスイッチするべきかはご自身のゴール前のイメージから逆算されて考えるのでしょうか?
そうですね。大体ゴール前のイメージは2パターンぐらいに絞られるので、イレギュラーなことがない限りは「ここでもう外側にいないと届かないな」とかを考えながら走ってますね。ガールズって気持ちによって調子の波が違ったりもするので、前のレースで自信がついて流れに乗ってきている選手だと「あ、そこから行くんだ」とかデータにないことが起きます。そういう時は経験で反応してなんとか対処してるんですけど、やっぱり焦りますね。
―相手の脚力の消耗も計算して走るという話を聞いたことがあるのですが、具体的にはどのようなことを考えているんでしょうか?
まずは他の選手がその前のレースを何秒ぐらいのペースで走っていたとか、1周のタイムを見るようにしています。タイムが全てではないとは言いつつもデータが全てだと思うので、結構データで考えてることが多いです。自分が今出せるタイムと、その人が最近出してるタイムを照らし合わせてますね。突然11秒台が出せるとかはないと思うので、そこだけ頭に入れて、「この選手は多分12秒半ばぐらいで捲ってくる」とか「この選手が先行したら後半は12秒台後半になっちゃうだろうな」とか考えながらやってますね。なのでレース前はみんなのデータを全部叩き込んで入ります。結構女子の中でもそういうタイムの話もしていて、太田さんがGIの時にXに載せて下さるタイム計測もありがたく見させてもらってます。例えばオールスターのさとみな(佐藤水菜選手 神奈川 114期)の タイムを見て「でも全力でもがいてる感じじゃなくてこのタイムだな」とかをデータに入れて、「全力で走られた時とか前に目標がいる時はもっとタイムが出るな」って考えたり、「そうなると0.5秒ぐらい削った方がいいな」とかは考えながらやってますね。
―それをレースで走りながら考えているんですか?
そうですね。でもマイナスになることも多くて、例えば前回の競輪祭(女子王座決定戦GI)は太田りゆちゃん(太田りゆ選手 埼玉 112期)の後ろで離れちゃったんです。その時は自分が出せるタイムも分かってたし、低速から一気に速度を上げるのが苦手っていうのも分かってて補おうとはしたんですけど、やっぱりここがダメなんだなっていうのを痛感しました。そういうのに気づいちゃった時はレース中も結構不安ですね。やっぱりナショナルチームのメンバーは立ち上げ速度がすごく速くて、自分はそこがちょっと苦手なところなので課題です。タイム的には後ろで付いていけるだろうけど、速度を落としてから一気に行かれたらちょっとキツいかもっていうのを考えちゃいます。
―そうすると、例えば佐藤水菜選手や太田りゆ選手など、(元含め)ナショナルチームの強い選手がいる場合は、その後ろは小林選手としてはベストな位置ではないのでしょうか?
今のところはそうですね。勝つことを考えると、すんなり行かれた時にしっかり付いて行って真後ろからゴール前で差すってなると、ちょっと厳しいのかなっていう感じもありますね。さとみなのタイムを見た時も、11秒台で駆けてるのでその後ろにいたら0.2秒ぐらい削って差さなきゃいけないと思うと、まだちょっと脚力が足りないなって思うところは大きいですね。
―タイムは男子選手の方が気にしているイメージだったので、そこまでタイムを意識して走られているのは意外でした。
女子の中でもタイムの話自体はするんですけど、タイムのデータで(考えてレースをする)って話は他の選手から聞いたことはないですね。もともとは男子選手から、タイムを意識するとレースがやりやすくなるって教えていただいて、そこから意識してやってるんです。
―毎年新人選手もデビューしていますが、小林選手の戦法の変化はありますか?
ありますね。毎年レースの流れとかも変わってくるので、そういうのを見ながら何が最適なのか考えています。自分のベースはもちろん持ちつつも、その新しいレースに対応していくのは毎年の課題で考えてやってます。
―ガールズ競輪でGIが新設されて、賞金ではなくグランプリに出られる枠ができたのはどのように感じていますか?
オールガールズでしかもGIができたっていうのはすごく嬉しいですし、今年からオールスターもオールガールズでのGI開催になりますし、ガールズ競輪もここまで来たんだって嬉しさはあります。その反面、やっぱりGIを獲ったらグランプリが決まるってなるとそこに向けて調整が必要になるので、ガールズ競輪の1年に波ができてその難しさも痛感してますね。普通開催も勝たなきゃいけないけど、やっぱりGIを獲るためにしっかり練習して、そこに向けていかなきゃいけないっていう調整の変化が今ちょっと苦戦しています。
―男子選手のようにGIに照準を合わせてピークを作る戦い方に近づいたってことですよね。
そうですね。でもやっぱりまだ賞金で上がれる制度も残っているし、実際にガールズの場合は半分以上が賞金でのグランプリ出場なので。今まで通りの1年間の調整の仕方も残しつつ、GIに向けて調節しなきゃいけないっていうのが去年は難しくて、練習し過ぎてしまったり、逆に調整し過ぎとかもありました。今年はそのあたりも頑張りたいなと思ってます。
―選手生活で思い出に残っていることやレースはありますか。
直近で言うと、10周年記念でやった平塚のALL GIRL'S 10th Anniversaryです。あの時に1レースの1番車に選んでもらえたのが嬉しかったですね。印象に残ったレースでしたし、こういう企画のレースをガールズだけでできるようになったんだっていう感動もありましたね。 しかもデビューした平塚で呼んでもらって、オールガールズで1レース1番車ってだいぶ緊張しましたけど嬉しかったですね。
―1期生の小林選手は選手との交流も多いと思いますが、最近では荒川選手にふなっしーのウェアを作られていましたよね。
そうですね。ふなっしーさんに使用の許可を取るために初めて連絡させてもらいました。許可取りが厳しいって聞いていたのでダメ元で連絡したんですけど、「競輪選手の荒川さん、存じております」って快諾していただけたんです!
―あのウェアは小林選手がデザインされたんですか?
はい、ロゴをどうやって使うかを事前にふなっしーさんにも送って作りました! 絵とかはすっごい下手なんですけど(笑)、そういうのを作るのは結構好きですね。自分の練習着もデザインとかざっくりイメージを作って依頼しています。自分の猫のオリジナルの物を作るのも好きで、練習の合間にいつもやっているので、選手にも記念のジャージを作ることもあります。
―以前はガールズ選手同士でゲームもやられていましたが、最近もそのような交流はありますか?
はい、でもゲームをやり過ぎて練習時間が削られていたので、1回コンセントごと抜くってみんなに言って今はフェイドアウトしてます(笑)ウォーミングアップ中とかにゲーム配信を見て、前に一緒にゲームをやっていたメンバーと新しいゲームの話をするぐらいはありますけどね。前に1日オフを取ったら、マインクラフトをやってた時は12時間ぐらいずっとぶっ続けでやってて、、これはダメだ!と思って今は控えてますね。
―趣味や休日にハマっていることはありますか?
釣りは定期的に行ってます。釣った魚は自分で捌いてみたら達成感はあったんですけど、もったいないぐらい身が残っちゃってるのでいつも悲しいし、上手くなりたいです。今は釣ってきたら加工してもらいに魚屋さんに行ってます。やっぱりプロが捌いてくれる方が美味しいですね(笑)
―小林選手と言えば猫の写真をよく載せていますが、それぞれ名前の由来は何ですか?
いつもよく載せてる茶色い子(マルス)は、自分が3月生まれなので、3月の神様である戦いの神様マルスから名付けました。ジュピターは確か木曜日に来た猫ちゃんなんです。いっぱい猫ちゃんがいて引き取られていく状況で、名前を付けると愛着が湧いて手放すのが辛くなっちゃうので、 ざっくり名前を付けたりゴムの色で判断してた時の名前なんです。チミは、その頃にちみたんっていうハムスターのキャラクターにハマってたので、同じ白い色だからチミって名付けて定着しました。
―賞金で何か猫ちゃんに買うこともあるんですよね?
はい、最近で言うと猫の自動トイレと自動の餌やり機を買いました。結構お高めでしたけど、動作感知が付いていて誰がご飯を食べたかが分かるので、両方揃えて外出先から見ています。
―今回のGIオールガールズクラシックはナイターですね。小林選手は夜型とお聞きしたことがあるんですけど、練習も遅めに開始されるんですか?
そうですね、だいたい朝はゆっくりで8時か9時ぐらいに起きれば早いぐらいです。午前中の練習をする時は11時ぐらいから練習を始めて、最近は普通開催の時間に合わせて動いてます。ミッドナイトボケが結構酷いので早起きをテーマに頑張ってるんですけど、全然ダメですね(苦笑)でも普段からしっかり意識しなきゃなと思って、レースの時間に合わせることを今年は頑張ってます。自分の周りはみんな朝すっごい速いんです。基本的に自分は1人で練習するんですけど、例えば夏場に奥井さん(奥井迪選手 東京 106期) に会う時は、大体自分がバンクに行く時間には(奥井選手は)練習終わったよみたいな感じですね。
―お1人で練習されるのはモチベーションの面では問題ないですか?
今はあまりないですね。最初に1人練習に変えた時は結構苦しみました。やめようと思えばやめられちゃうので、しっかり追い込めない感じもあったんです。でも今はデータが結構しっかり出るので、そのデータと心を鬼にして頑張ってます。心拍やスピードメーターもありますし、人がいればタイムを計ってもらうようにお願いすることもあります。室内でやる時はワット数とかタイムも全部出るので、それを書き出して1番調子が良い時と比較してやってますね。
―あまり調子が良くない時は、どのように調子を上げていくんですか?
自分では調子が良いと思っているのに、思ったより数値が出てないってことは結構あるんですけど、その時は修正メニューが大体自分の中で決まってるのでそれをやってます。あとはそういう時に調子が良い時の感覚でレースに行くと立ち遅れてしまうことがあるので、今回は自分の状態が何割ぐらいだなっていうのを頭に入れてレースに臨むようにしています。
―今回のGIオールガールズはどう戦っていきますか?
今回は自転車が変わって初のGIなんです。レーススタイルはいつもと変えないんですけど、レースを見てるとどんどんペースが上がってきてるしスピードレースにはなると思うので、本当に一瞬の踏み出しに遅れないようにっていうのが自分の中のテーマですね。勝負権のある位置を取ってしっかり勝負します。
―確かフレームは時代に逆行して小さいフレームにされたんですよね。
そうですね。今はみんなLサイズを持ってるんですけど、自分はSサイズのフレームでやっと固まったかなって感じですね。 最初はみんなからMサイズとかLサイズを勧められたんですけど、実際に乗ってレースで使ってみて、結果的に小さい方が自分には合ってるなとは思いました。みんながMサイズとかLサイズが良いって言う意味もすごく分かるんですけど、自分はまだ取り扱えるほどの能力はないなと思ってSサイズにしました。
―GIオールガールズクラシックに向けて意気込みをお願いします。
まずは勝ち上がりが厳しいので、しっかり勝ち上がって決勝に乗って優勝争いできるように、1走目から全力で頑張りたいです。
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※インタビュー / 太田理恵
東京大学 大学院卒、GIでは自力選手のタイムを計測。 モデル出身で、現在は競輪MCや毎月のコラム執筆を中心に活動する。 ミス・ワールド日本大会2014,2015,2020特別賞受賞。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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