2008年のヤンググランプリ以来を獲得してから14年。初のGIIIを優勝した福島の飯野祐太選手(福島90期)にお話を伺いました。
大津:神秘の海・富山湾カップ優勝おめでとうございます。
飯野:ありがとうございます。
大津:初のGIII優勝となりましたが、お気持ちはいかがですか。
飯野:GIIIはなかなか優勝出来てなかったので素直に嬉しいですし、ホッとしています。
大津:飯野選手がGIIIを獲ったことがなかったのは意外でした。
飯野:そうですね、富山の後に大宮を走ったのですが会う人、会う人にGIII獲るの初めてだったんだねって言われました。
大津:実感は湧きましたか。
飯野:正直、ゴールした時は実感は湧かなかったんですが、競輪場を出てからメールとかが沢山入っていたので、そこでやっと実感しました。後援会の方からもメッセージが届いてたので嬉しかったです。
大津:タイトルについての意識というのはご自身の中でありましたか。
飯野:記念やタイトルを獲りたいって気持ちになってきたのは35歳を過ぎてきてからなんです。20代の頃は優勝を狙ってなかったわけじゃないのですが、自分の後ろの人が誰かしら優勝すれば良いやって考えて走ってたんです。
大津:何かきっかけはあったのでしょうか。
飯野:元々僕は欲がないんです。欲があったら20代の時に先行基本に発進役ばっかりしてないですし、今も欲があるかって言われたらアレなんですが、せめてGIIIくらい勝ってみたいなって気持ちに35歳を過ぎた辺りから思うようになったんです。
大津:飯野さんの後ろから何人くらいこれまで優勝者を出してきたんですか。
飯野:う~ん、何人だろう。500人くらいじゃないですか(笑)今のは冗談ですけど、現在GIに出場している北日本の人たちは大体優勝させていると思います。
大津:後ろを勝たせる先行のコツみたいなのはあるんですか。
飯野:相手の選手がどういう駆け方をするタイプなのか、自分がどうやって駆けたら相手が捲りに来れないのか、そういうペース配分は常々考えてやってました。
大津:同県の金澤幸司(金澤幸司選手・福島県91期)さんのTwitterを見たのですが、「今回はマジで獲りに来てる。」と言っていたのですか。
飯野:正直そこまでの調整をしていったわけではないんですが、今回は獲りたいって思ってて、競輪場に入ってからも「今回は優勝するから。」って感じで幸司には言ってましたし、獲るっていう気持ちで富山には入りました。
大津:相当な覚悟を感じる中で、初日は突っ張り先行をみせました。
飯野:後ろに宮城の竹内さん(竹内智彦選手・宮城県84期)と青森の佐藤さん(佐藤康紀選手・青森県73期)が付いてくれていたので3人で勝ち上がるんだったら少し早めでも先行したほうが良いと思っての判断でした。
大津:2周半から全て突っ張るのは容易なことではないように思います。
飯野:初日に関しては先行したラインが全部残ってなくて、全て捲りのラインで決まってたのでちょっと不安もあったんですが初日2周半駆けることによってどれくらい残れるかっていう自分の状態も確かめたかったんです。本当は確定板に乗れたらよかったんですが、結果4着でした。
大津:そこまでの流れを考えると、けっこうリスキーな選択だったんではないですか。
飯野:ちょっとヤバいなって思いましたね。走ってて重たいっていう感じもあったし、「これ2周半で突っ張っちゃったら、オレ残んないかもな」って思いつつ、でも気持ちでは負けないように攻めようと強気に行きました。
大津:2走目は取鳥選手(取鳥雄吾選手・岡山県107期)の番手を上手く取るようなレースになりました。
飯野:2日目は先行とタイミングがあったとこに飛付くっていう両面作戦を考えていました。もし取鳥の巻き返しが遅かったら先行しても良いなって思ってたんですが、ジャンの手前で来てるのが分かったので自分が飛付けるところに飛付こうと思ってました。
大津:飯野さんは作戦を綿密に考えるタイプなのでしょうか。
飯野:綿密に作戦を立ててしまうと、それをしないといけないと思ってしまうのである程度という感じで立てています。後は身体の反応に任せるってイメージです。作戦を決めちゃうと思った通りの展開にならなかった時に無駄足を使ってしまい、ダメなレースをしてしまったということも過去に何度もありました。
大津:準決勝戦は磯島選手(磯島康祐選手・青森県105期)の番手からのレースとなりました。
飯野:あのレースは作戦会議の時から磯島君が「前を取って全部突っ張ります。」って言ってくれてて本当に先行以外は考えていない組み立てだったので、まずはその気持ちが嬉しかったです。 結果的に野口さん(野口裕史選手・千葉県111期)に叩かれてしまって、僕らのラインは中団になったんですが、それでも直ぐに磯島君が巻き返してくれたので、磯島君の思いに応える為にも何としても自分が1着を取らないとという意識にさせてもらいました。
大津:自ら踏んだ手応えはいかがだったんでしょうか。
飯野:捲りに行った時に、野口さんの後ろの中村さん(中村浩士選手・千葉県79期)が車間を空けてるのか離れているか分かってなくて「あー、中村さん余裕あって車間空けてんのかぁ」って思ったんですけど、いざ行ってみたら中村さんが一杯一杯だったんで、これだったら大丈夫だって捲り切れました。
大津:初日は突っ張り、2日目は飛付き、3日目は番手戦と飯野さんの持ち味が随所に出てたのではないですか。
飯野:3日間全て違う戦いでの勝ち上がりでしたし、なんでも出来るっていうのは僕の強みかなと思っています。
大津:自力と番手戦では違いはありますか。
飯野:ここ最近は前で走るときよりも後ろを固めたときのほうが色々と考えることが多いですね。こういう展開の時にはこうなるだろうなとか、ここで内に来る選手は誰だろうなとかを頭に入れておかないといけないですから、番手の時のほうが頭を使います。
大津:前の選手が苦しくなった時に、自分がどのタイミングで出ていくのかも難しいような気がします。
飯野:そこの判断が自分ものすごく遅いんです。今までもそれで何回も失敗しているので判断が早い人っていうか、的確な判断が出来る人たちは凄いなって思ってます。
大津:我々からすると2段掛けが何で決まらないんだろうとか思ってしまう部分もあります。
飯野:2段掛けの時も前の選手がけっこう掛かってるなぁって思って、前を残せるんじゃないかって思うこともあるんです。それで何回も捲られた経験もありますし、もっとシビアに縦に踏んでたら勝ててたレースもあるかもしれないんですよね。たらればの話になっちゃうんですけど。
大津:さて決勝戦ですが北日本は4人での勝ち上がりとなりましたが並びはすんなりと決まったのですか。
飯野:そうですね、4人が集まる前に宮城の竹内さんが並びを決めてた感じですね。「先頭が根本(根本哲吏選手・秋田県97期)で、番手が飯野、3番手が自分で、泉(泉慶輔選手・宮城県99期)が四番手」みたいな。ただ、北日本の皆も結果的に同じ考えだったので、その並びはすんなりと決まりました。
大津:北日本勢の2番手ということで気合いも入ったんじゃないですか。
飯野:4車いる中での2番手ですからね。責任のある位置だったので物凄く集中していました。
大津:ただ相手もかなり強力な布陣できました。
飯野:決勝戦のメンバーを見た時に南関東勢は別線かなって思ったんですが、北井(北井佑季選手・神奈川県119期)-野口-近藤(近藤隆司選手・千葉県90期)で連携するってことだったので、そこは正直ヤバいなって思ってました。
大津:北井選手が先頭で結束ですもんね。
飯野:北井は今めちゃめちゃ強いですからね。でも根本も先行しか考えてなかったんで。「前取って突っ張ります。」って言ってくれて、その気持ちが嬉しかったです。レースが始まってからも根本の気持ちが凄くて安心して任せてました。
大津:根本選手の気持ちもある中で、やはり北井選手の巻き返しもありましたね。
飯野:残り2周半でもがきあった時に、もう北井君のほうが圧倒的にダッシュもスピードもあったので、これは出られちゃうなって正直思ったので、後は野口さんか3番手の近藤さんだけを飛ばせれば良いかなって判断したのですが、近藤さんが少し離れていたのが分かったので僕も少しだけ外に張ってやろうと。
そうすればそれ以上来れないはずですから、それが上手く出来たのがまずは良かったです。
大津:北井選手にカマされて、前の北井-野口とは少し車間が空くような感じになってしまいました。
飯野:結果的に3番手にはまった形になったんですが、北井も吹かしていたし苦しい状態の中で根本が前々に攻めてくれて最後は野口さんの内に行ってタイミングもずらしてくれましたし、本当に根本が何とかしようって気持ちが後ろで伝わってきて、その分自分が外のコースが空いて捲りに行けましたね。
大津:根本さんの諦めない姿が北日本勢に勝機をもたらしたんですね。
飯野:そうですね、根本があそこで外に行くと自分も外に膨らんでしまいますし、後は野口さんが番手から縦に踏もうとした瞬間に内に根本が見えたので少し腰抜けになったと思うんですね。その根本のおかげもあって最後は自分が野口さんに踏み勝てたんだと思います。
自分の踏むタイミングと野口さんの踏むタイミングが合ってヤバいとは感じたんですが、3コーナーを乗り越えられたので、あとは4コーナー我慢すればって考えてました。
大津:ゴールした瞬間というのはどうでしたか。
飯野:ゴールした時は「ああ、獲っちゃった。」っていうような感じでした。普段はガッツポーズしないんですが声援も多かったのでガッツポーズしようと思って。やっぱりお客さんの声援が凄いので嬉しかったです。
大津:「こんなご時世じゃなければ飯野さんを胴上げしたい。」とTwitterで投稿されている方もいました。
飯野:そこはコロナが収まった時に獲って胴上げしてもらえるよう頑張ります。
大津:今まで自分の後ろから数多くの優勝者を出した飯野さんが、番手戦で優勝するというのもドラマを感じます。
飯野:自分一人の力では絶対に獲れないと思ってましたし、やっぱり競輪というのはラインが重要ですし、ラインの大切さってのは僕が一番身に染みて分かってるので、そういう意味では北日本の後輩の後ろから優勝出来たってことは今まで自分がやってきたことが間違ってなかったのかなって思いました。
大津:GIの舞台で弟子の高橋選手(高橋晋也選手・福島県115期)との活躍という思いもあるのではないですか。
飯野:晋也は物凄く強いですし、GIでも通用する脚も持っているのですが、自分はまだまだ脚力は劣っているのでもっと脚力を上げていきたいです。
大津:先日の競輪祭では新山選手(新山響平選手・青森県107期)が優勝されました。北日本勢としても盛り上がっていきそうですね。
飯野:SSが4人で自力が2人もいるってのが自分の中では凄く嬉しいなって思うので、そこにしがみついて行けるよう頑張ります。
大津:今後の目標を教えてください。
飯野:やっぱりGIに出て結果を出していきたいです。そこに向けて縦脚は勿論ですし、新田(新田祐大選手・福島県90期)や響平の後ろが回ってきたときにしっかりと横が出来るようにしっかりと準備していきたいです。
大津:最後にオッズパークの読者の皆様にメッセージをお願いいたします。
飯野:皆様のおかげでGIII初優勝出来ました。ありがとうございます。来年はGIで一つでの上のレースで活躍出来るよう練習を頑張りますので応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 大津尚之(おおつなおゆき)
ソフトな見た目と裏腹にパワフルで安定感のある重低音ボイスが魅力。
実況、ナレーション、インタビュー、俳優など活躍の場は多岐にわたる。
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※写真提供:株式会社スポーツニッポン新聞社
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