地方同士のダービーグランプリと聞くと胸がざわざわする。しかも舞台は、かつて地方同士のダービーグランプリが行われていた水沢だ。
ぼくがまだ競馬関係のこうした仕事を始める前、初めて見たダービーグランプリは、金沢のミスタールドルフと、高崎のヨシノキングの一騎打ちで、打ちのめされるほどに感動した。その後はトウケイニセイの活躍を見に、何度も水沢や旧盛岡に足を運んだ。
今は中央との交流が当たり前となり、中央馬を負かさないことには日本一とはいえない。しかし当時は中央との交流がほとんどなく、そうした舞台がそもそもないのだから、地方全国交流を制すれば、それはすなわちダートの日本一といえた。
水沢で行われる地方同士のダービーグランプリには、そうした思いがあるのだ。
だから今回だけは想い入れで予想をさせていただく。
勝ってほしいのは、地元岩手では断然のロックハンドスター。大井に遠征したジャパンダートダービーJpnIでは9着、黒潮盃では5着と、期待の大きさからいえば完敗ともいえる成績だった。しかし地方同士なら地の利で十分に跳ね返せる。特に、時計の出やすい盛岡ではなく、砂の重い水沢が舞台なら実績に勝る南関東勢に必ずしも有利とはいえない。菅原勲騎手はダービーグランプリを2度制しているが、最後に勝ったのは94年のブラッククロス。あのときも実績的には劣っていて、地元馬ながら単勝7番人気という低評価で、地元リーディングの菅原勲騎手が地の利を味方につけての勝利だった。
相手には金沢のナムラアンカー。中央未勝利から金沢に転厩し、9戦8勝、2着1回。サラブレッド大賞典では2着に2秒差をつける大差勝ちだった。それでも全国が相手となれば、実力的には半信半疑だろう。鞍上の葛山晃平騎手に注目する。葛山騎手は岩手デビューで、騎手としては活躍したとは言えない成績で一旦は競馬を離れた。しかし今年金沢で騎手免許を再取得。そのサラブレッド大賞典が岩手時代も含めて重賞初勝利となった。かつては雲の上の存在であったであろう、菅原勲騎手に勝負を挑む。かつての同僚たちは、葛山騎手をどう迎えるだろう。
人気になるのは羽田盃馬シーズザゴールドだろうか。しかしかつてのダービーグランプリでは、こうした南関東のタイトルホースが人気になって敗れるシーンが何度もあった。93年の東京ダービー馬プレゼントは1番人気で10着。94年の羽田盃馬スペクタクルは1番人気で3着。95年の羽田盃馬ヒカリルーファスも1番人気で3着。シーズザゴールドは、東京ダービー4着以来5カ月半ぶりの実戦でもあり、死角がないとはいえない。
リュウノボーイは黒潮盃でロックハンドスターに半馬身差先着する4着。岩手でも盛岡芝のオパールカップを制した。実績的にはかなり見どころがあるが、岩手在籍時には水沢で3戦、南部駒賞でロックハンドスターから1秒3も離された3着が最高という成績。上位争いに加われるかどうか。
兵庫のハイパーフォルテは、前々走の兵庫ダービーが初のタイトル。前走、笠松に遠征した岐阜金賞では2番人気で7着に敗れているだけに、水沢までの遠征で、持てる力を発揮できるかどうか。
◎ロックハンドスター
○ナムラアンカー
▲シーズザゴールド
△リュウノボーイ
△ハイパーフォルテ
デビューから3戦3勝。いずれも2着に1秒ほどの差をつけ一方的なレースを続けているウルトラカイザーでたぶん負けようがない。前走、初の1750メートル戦も、スタートで楽に先頭を奪うとあとは持ったまま。鞍上の真島正徳騎手はほとんど何もしないまま3~4コーナーあたりではすでに後続と5~6馬身ほどの差をつけ、直線でもまったく追わずのゴールとなった。出走他馬とは、直接の対戦がなくても前々走2着のジュエルリング、前走2着のデロースを物差しにすれば勝負付けは済んでいる感じ。今後、どれほどの活躍を見せてくれるのか楽しみな存在だ。
相手にはデロース。前々走のフォーマルハウト賞では、ウルトラカイザーに5馬身差をつけられての2着だったが、前走同じく1750メートルのシリウス賞では2着のロイヤルキッスに1秒9の大差をつけ圧勝。前々走のウルトラカイザーの勝ちタイムを、同じ良馬場で大幅に上まわっているだけに、ひょっとするとという場面もあるかもしれない。ひとつ上の半兄は九州ジュニアチャンピオンを圧勝したネオアサティス。母のアイディアルクインは、大井の東京プリンセス賞2着があり、佐賀では牡馬相手に九州大賞典を制したという活躍馬の血統だ。
ジュエルリングも差はない。佐賀競馬場でのレースでは、ウルトラカイザー以外に先着を許しておらず、前走1番人気に推された荒尾の九州ジュニアグランプリは4着だったが、これはハイペースの先行争いに巻き込まれてのもの。ウルトラカイザーに真っ向勝負は難しいだろうが、どこまで差を縮められるか。
キングはデビュー戦3着のあと7戦連続連対と堅実な成績。デロースを負かした経験もあり、前走荒尾の九州ジュニアグランプリでも2着。今回も確実に上位には食い込んでくるだろう。
荒尾から唯一参戦のヌレエフクインは、九州ジュニアグランプリではジュエルリングとともに激しい先行争いを演じながらも、そのジュエルリングにクビ差先着する3着で、佐賀勢上位独占の一角に食い込んだ。今回はアウェーとなるだけに厳しいかもしれないが、不気味な存在ではある。
◎ウルトラカイザー
○デロース
▲ジュエルリング
△キング
△ヌレエフクイン
南関東以西の交流として行われている東海菊花賞だが、遠征馬が浦和から1頭のみというのはちょっと寂しい。笠松からの出走もないが、しかし名古屋勢の布陣が強力だ。
川西毅厩舎の看板馬、シンワコウジとヒシウォーシイが初の直接対決。マイネルアラバンサは中央準オープンから転入して、今年年明けに重賞3連勝。マルカハンニバルも準オープンから今年夏に転入して5戦オール連対。
この4頭以外は、オープンではやや頭打ちの成績で、浦和のアクセルファイヤーにしても中央から南関東に転入後、5着が最高という成績では厳しそう。
いずれにしても先に挙げた4頭の勝負だが、これまで直接対決が少なく、実力比較が難解だ。
シンワコウジは、前々走名港盃は6馬身差圧勝だったが、前走のオープン戦は直線ずるずると後退して5着に敗れてしまった。それがこの馬の実力ではなく、ここは巻き返しに期待したい。
マイネルアラバンサは、転入初戦の東海菊花賞で3着だったのと、中央馬相手の名古屋大賞典JpnIII以外は負けていない。梅見月杯ではキングスゾーンを負かしているだけに、今回も負けられない一戦。
マルカハンニバルは、名古屋に移籍後これが初の重賞挑戦。前走1400メートルのオープンではマイネルアラバンサにクビ差交わされての2着だけに、逆転を狙っている。
ヒシウォーシイは、3月のマーチカップから7連勝中。ただその連勝のうち6戦は得意の笠松コースで、あとの1戦は福山への遠征。地元名古屋でも3歳時に東海ダービー、そして昨年のこのレースを制しているが、今年の年明けからは3連敗。コースとの相性で狙いを下げた。
◎シンワコウジ
○マイネルアラバンサ
▲マルカハンニバル
△ヒシウォーシイ
道営ホッカイドウ競馬もいよいよ今シーズン最終日を迎える。来年以降の存続が確定し、ひとまず穏やかな気持ちで迎えられる最終日だ。もしこれがホッカイドウ競馬の終焉の日となっていたら、どんな気持ちだっただろう、などとは考えたくもない。
そして今シーズンのホッカイドウ競馬の象徴でもあるクラキンコが無事にこの大一番に出てきてくれたことでもホッとする。あらためて記すまでもないが、牝馬として史上初の北海道3歳3冠馬。父クラキングオー、母クラシャトルと父母仔による北海優駿制覇は、まさに快挙というべき記録だ。父クラキングオーは、わずか数頭の産駒の中からそうした活躍馬を輩出し、残念ながら10月24日に牧場で亡くなってしまった。そういえば、クラキングオーの産駒について、門別競馬場でお会いした生産者の倉見利弘さんに話をうかがったのが、スーパージョッキーズトライアルの日だったか、エーデルワイス賞の日だったかだから、クラキングオーが亡くなる数日前のことだった。クラキンコのほかに残されたクラキングオーの産駒は、1歳と当歳がそれぞれ1頭ずついるそうだ。クラキンコには、ぜひここは無事に通過して、来シーズンへ向けた大団円となってほしい。
相手はカゼノコウテイ。こちらは、やはり今年の地方競馬を象徴する1頭、JBCスプリントでJpnI初制覇を果たしたサマーウインドの半兄。中央準オープンから今シーズン転入し、7月から4戦3勝、2着1回。北海道での重賞初挑戦となった前走瑞穂賞では、ステイヤーズカップを制したマキノスパークを半馬身差でしりぞけての勝利。まだ底は見せていない。
3番手には、そのマキノスパーク。浦和から転入して4戦。ステイヤーズカップは2着のコパノカチドキに7馬身差をつける圧勝だったが、勝ち星はその1勝のみで、ほかは2着1回、3着2回と善戦まで。
昨年、重賞3連勝で道営記念まで制したコパノカチドキは、8月のオープン2着に続き、ステイヤーズカップも2着で復調を思わせたが、瑞穂賞では6着。ただ着差的にはそれほど離されていないだけに、連覇のかかるこの大一番で復活を期待したいところ。
タグハンターは今シーズン10戦8勝の上がり馬。レイクトゥーンは前々走のオープンでクラキンコに3馬身差の2着。このとき3キロ差はあったがマキノスパークに先着している。前走A2特別ではタグハンターにハナ差の2着。一発あれば、この2頭だろう。
◎クラキンコ
○カゼノコウテイ
▲マキノスパーク
△コパノカチドキ
△タグハンター
△レイクトゥーン
今回が重賞初挑戦となるが、エフケーアスコットを狙ってみたい。中央から今年春に転入、B1B2の一般戦からスタートし、ここまで9戦して3着を外したのは一度だけという堅実な成績でA1までクラスを上げてきた。A1特別初挑戦となった前々走は、4コーナーでもまだ中団という絶望とも思える位置からゴール前で差し切った。前走が今回と同じ初の1700メートル戦だったが、2番手を追走し、逃げたスマイリングフィルと3コーナーから一騎打ち。直線では一旦突き放されたが、最後は再びクビ差まで迫った。牝馬同士のここは重賞初制覇のチャンス。
相手はバージンサファイヤ。3走前の兵庫サマークイーン賞は3着だが、そのとき先着されたエレーヌ、キーポケットは不在。前走大井のTCKディスタフでも遠征組では最先着の5着と最低人気を覆す好走を見せた。09年6月ののじぎく賞以来、重賞3勝目の期待がかかる。
エンタノメガミは、前々走の秋桜賞で5番人気の低評価ながら人気のキーポケットをハナ差でしりぞけて久々の重賞制覇。このときはやや展開がハマッた感があり、今回は3番手評価まで。
笠松ガールズは、エレーヌが亡くなったのをきっかけにやや存在が薄くなったようにも思えるが、相変わらず果敢に遠征を続けている。コロニアルペガサス、トウホクビジンは、ともに勝ち星から遠ざかっているものの、重賞でもたびたび入着しており、引き続き調子次第では上位争いに絡んでくる存在。
秋桜賞4着のボニーシチーは連下争いまで。
園田チャレンジカップ連覇のホールドマイラヴだが、1400メートルにはめっぽう強いが、マイル以上では連対がないだけに、ここは活躍の舞台ではない。
◎エフケーアスコット
○バージンサファイヤ
▲エンタノメガミ
△コロニアルペガサス
△トウホクビジン
△ボニータシチー