
2月の岐阜開催において、53歳11か月5日でのS級優勝を果たし、S級最年長優勝記録を自ら更新した内藤宣彦選手(秋田67期)。
53歳という年齢でこの強さを維持している理由とは。そして今のモチベーションは。様々なお話を伺いました。
ナッツ:まずはS級最年長優勝記録の更新おめでとうございます。
内藤:ありがとうございます。
ナッツ:最年長優勝記録に関してご自身ではどう感じてらっしゃいますか。
内藤:2年前に更新してから結構時間が経ったんですけど、前回の記録はすぐ抜かれるんじゃないかなと思っていて、もう1回更新したいなっていう思いはずっとあったんですよね。
ナッツ:それが1つのモチベーションになっていたのですね。
内藤:そうですね。その前の週の川崎の決勝が「微差」で2着だったので、終わってからなんかずっとモヤモヤしていて。
川崎の時はゴールした時に抜いてないなというのは分かっていたのですが、結果を見たら微差という着差だったので、どんどん時間が経つにつれて悔しさというか、モヤモヤした気持ちが募ってしまったんです。それからの岐阜だったので優勝したい気持ちがありましたね。
ナッツ:川崎の悔しさをぶつける開催だったわけですね。
内藤:準決勝をクリアした時点で、メンバー的にもしかしたらこれは最後のチャンスかもしれないなと思っていて。
ここで優勝できなかったら、もしかしたらもう2度とチャンスないだろうなと思って決勝に臨みました。
川崎の時は宮城の和田圭(宮城92期)がいて、和田が準決勝で脱落した時点でチャンスだと思っていて、今回の岐阜は大槻寛徳(宮城85期)がいて、大槻も準決勝で脱落したんですよ。それで晋也(高橋晋也選手・福島115期)の番手が転がり込んできて。これはもうなんて言うんですか。巡り合わせといいますか、最後のチャンスをくれたんだなって思ってました。
ナッツ:決勝のレースに関しては、高橋選手がジャン過ぎからスパートして、内藤選手は追走してゴール寸前差し切った内容でしたが今回は交わしたなという感触はあったのでしょうか。
内藤:交わしたような気はするんだけど...という感じでしたが川崎のことがあるので、決定が出るまではずっとモニターを見てました。
そして1着になったのがわかってようやくホッとしましたね。周りの選手は優勝したよって言ってくれてたんですけど。
ナッツ:優勝が決まってからの周りの選手の反応はいかがでしたか。
内藤:対戦した他の6選手全員に「おめでとうございます」って言ってもらえたんですよ。
なかなかそんな風に言ってもらえることってまずないんです。みんな悔しい思いをしているわけなので。
ナッツ:本当に限られた時くらいしかなさそうですよね。
内藤:そうだと思います。みんな悔しいと思ってるのに、おめでとうと口に出してもらえたっていうのがかなり嬉しかったです。
ナッツ:前回最年長優勝記録を更新された青森の際も高橋選手と2日間連携をしていましたが、高橋選手との相性の良さはいかがですか。
内藤:やっぱり安心感がありますね。
凡走は絶対ないと思っていて、必ず仕掛けてくれるんですよね。
そしてすごく付きやすくて。なんて言うんですかね、余計な不安がないっていうか、行くのか行かないのかみたいなそういう部分がないんです。
不安がない選手でいつも安心して任せています。
ナッツ:内藤選手は近況好調だなっていう風に見ていて感じるのですが、ご自身の中ではどうなのでしょうか。
内藤:本当にもう流れが良いってことだけですね。
今に始まったことじゃなくて、何十年も特にやることは変わっていないというか。一生懸命練習しても疲れるだけなので、特別なことをやるっていう練習はやってないんですよね。毎日普通に当たり前に自転車乗るっていう感じでやってるっていうか、そんな感じなんです。
ナッツ:日々の積み重ねということですね。
内藤:そうですね。みんなはナショナルチームがやってるようなトレーニングや科学的トレーニングを取り入れて、ウェイトなりダッシュ練習なりやってるんですけど、私は昭和の練習っていうんですかね。そこまでガツガツは乗り込んだりとかもなくなったんですけど、変わらずそれなりの練習を毎日続けるっていう感じなんですよね。
ナッツ:その中で流れが味方してくれているような感覚なんですね。
内藤:そうなんです。あ、でも去年の夏くらいからちょっとセッティングをいじり始めて。
試行錯誤しながら半年くらいやってたんですけど、それが成績が上がり始めた11月あたりからちょうどマッチし始めたっていうか煮詰まったっていうか、良い状態になったんですよね。それからはほぼいじってないんです。
ナッツ:近況の好成績の1つの要因として可能性はそれもあるのですね。
内藤:フレームも含めて、パーツだったりメーカーだったり、色々な部品をちょっとやってみようかって感じでやってみたんです。
それからちょっと成績まとまってきたんですね。やっぱりそれが良かったんでしょうね。
ナッツ:セッティングをいじろうって思ったのは、何かご自身の中で変えたい部分があってということなんですよね。
内藤:はい。私は普段あんまりいじるタイプじゃないんです。ほぼいじらずに、こんなもんだろうって感じでやってきたんですけど、去年は成績が悪くてほとんど決勝にも乗れなかったんですよ。このままだと上位には歯が立たないと。
ちょっとこれはどうにかしなきゃダメだなと思っててセッティングをやってみた感じですね。
ナッツ:セッティングをいじるのは勇気がいりそうですし、もしかしたら悪い方向に出る恐れもありますよね。
内藤:それだったら戻せばいいだけなんです。
こっちの方がいいんじゃないかな、じゃちょっと試しにやってみようかくらいの感じなのがうまいこといきましたね。
ナッツ:そして内藤選手は落車がないというのも大きいですよね。
内藤:それは思いますね。このところずっと落車してないので。落車すると、やっぱり調子が悪くなる時があるので無事に走れていることは良いですね。
ナッツ:あとは53歳でS1という素晴らしい位置にいらっしゃいますが、今の競輪に対するモチベーションはどういった部分にあるんでしょうか。
内藤:モチベーションですか...難しいですね。笑
一概には言えないんですけど、やっぱりお金の部分は大きいですよね。
昔からそうなんですけど、自分にちょっと負荷をかけて物を買ったりするんです。それで支払いがあるから仕事しないといけない環境に。
ナッツ:あえてそういう環境に身を置いているのですね。
内藤:そうなんです。でも感覚的には普通にみんなが毎日会社に行くように、当たり前のように今日も自転車乗るかな、みたいな気持ちなんですよ。
ナッツ:仕事に行くのがちょっときついな、行きたくないな、みたいな時はないんですか。
内藤:嫌なのは嫌です。笑
でもルーティンというか、ご飯食べるくらいの当たり前な感じになってます。何時にあれやってこれやってみたいな。ほぼ決まってるんですよね。
ナッツ:その中でオフを取ることはあるんですか。
内藤:もう毎日自転車には乗ってますね。その日々の繰り返しなので乗らない日はないんです。
今は冬季移動で千葉の宮倉さん(宮倉勇選手・千葉58期)のグループにお世話になっているのですが、一昨年に千葉に中古のマンションを買ったんですよ。普通ありえないじゃないですか。笑
ナッツ:え、そうなんですか。確かにそれはかなり大きな買い物ですよね。
内藤:もうやらざるを得ない環境に自分を追い込んでるっていう感じでそれはそれで楽しいですかね。
ナッツ:負荷のかけ方が結構すごいですね。笑
でもそのくらいじゃないと内藤選手は気を抜いてしまったり、サボってしまうこともあるとご自身で感じていたり。
内藤:はい、多分そういう人間になってしまいますね。
全く練習しない感じになってしまうので負荷をかける環境にしていますね。
ナッツ:そして内藤選手は通算500勝にもあと約60勝まで来ています。そのあたりの意識はいかがですか。
内藤:意識はなくはないんですけど、9割方難しいんじゃないかなと思っています。
目標の1つではあるんですけどね。
ナッツ:難しいと思っているのはなぜですか。
内藤:今はまだ勝ち負けできていて年間10勝くらいはできると思うんですけど、果たして50代後半とかになって年間10勝もできるかって言ったらできるわけないじゃないですか。
ナッツ:特にこのS級の上位クラスで戦っているわけですもんね。
内藤:A級でも厳しいですよ。A級は強い若手も沢山いますし、下のクラスなら50代の年寄りが勝てるか、って言ったらそんな甘くないんですよね。
どこを走ったとしても、その年齢になると相当厳しいものがあるので、年間1勝とかしかできないんじゃないかと思うんですよ。
この先数年を考えると、470~480勝くらいで終わるんじゃないかなって思ってるんですよね。
そこまではいくと思うんですけど、そこからが年齢的にも年間2勝できるかどうか、というところで、60歳くらいになったら多分ピタっと止まるんです。
どうしても年齢を重ねると厳しい部分もあるだろうし、大体そのくらいで終わると計算しています。笑
ナッツ:すごく現実的なお話というか見方をされてるんですね。
内藤:そうですね。でももちろん500勝したいという目標はあるので頑張ります。
ナッツ:その為に前を回る選手との連係も大切になっていきそうですね。最近北日本の若手も多くなってきたのかなと感じますがいかがですか。
内藤:うーん、若手の数は少ないですね。
ぽつりぽつりと今やっとちょっと出てきたんですけど。20代の強い若手は西には沢山いるじゃないですか。
でも北日本は少ないですよね。ナショナルチームはいますけど、それを除くとなかなかね。
新山響平(青森107期)のような選手がなかなか出てきていないんですよね。
新田祐大(福島90期)も、もう40近くて若手とは言えないですし、本当に今は厳しいんですよ。特にGIレベルになると本当にいなくて。
中石湊選手(北海道125期)や山崎歩夢選手(福島125期)あたりに期待したいですよね。
ナッツ:その状況の中で内藤選手がこの成績を残せているのは本当に素晴らしいことだと思います。
流れが良いと仰っていますが、チャンスを掴む為の努力を日々されているからこそ掴めることができているわけですもんね。
内藤:そうですね。準備だけはしっかりとやっているので、チャンスをものにできるようには頑張りたいですね。
ナッツ:今後の目標を教えていただいてもよろしいでしょうか。
内藤:もう年齢的にも「上を目指して頑張ります」みたいなのはないです。笑
でもやっぱり現状維持じゃないけども、今の地位で戦うことを継続したいと思いますね。
やっぱりGIを走っていると楽しいんで。
ナッツ:GIは楽しいと感じるのですね。
内藤:はい。これは走ったことのある選手じゃないとわからないと思うんですけど、一流選手とも走れるし、一流選手と一緒に生活して、しかもタイトル争いをしているのを体感できる雰囲気って、やっぱりGIだけだなと。他のF1とか記念とは全く空気が違うんですよね。
タイトル戦っていう空気感なので、緊張感が前検日からも全く違うので、その空気は味わい続けたいっていうのはあります。
ナッツ:今後もGIで戦う内藤選手に期待しています。
では最後にオッズパーク読者の皆様にメッセージをお願いします。
内藤:かなり厳しくはなってきているんですけど、年配のファンの方も結構いると思ってレースに臨んでいます。
陰ながら期待されてると思って走っているので、その期待に応えられないこともあるかと思いますが頑張るので、今後も応援してもらいたいと思っています。よろしくお願いします。
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※インタビュー / ナッツ山本(なっつやまもと)
公営競技の実況に憧れ、一念発起し脱サラ。2022年別府競輪と飯塚オートレースの実況でデビューを果たすことになった期待の新星。
まだデビューから間もないが、競輪中継の司会も経験し徐々に活躍の場を広げつつある。星の観測と手品が趣味。
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※写真提供:株式会社スポーツニッポン新聞社
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