
昨年は3月のコレクション初優勝、更に賞金ランキング1位でオッズパーク杯ガールズグランプリに出場した坂口楓華選手(愛知112期)。グランプリのレースでは一気の先行策でレースを作りました。
昨年の振り返りを中心に、今年の意気込みもお伺いしています。
山口みのり:昨年1年はどんな年でしたか?
坂口楓華選手:皆さんが想像するような充実した年ではありませんでした。デビューしてから一番苦しい1年でした。
山口:意外でした。2024年3月に初めてのガールズケイリンコレクションの優勝があり賞金ランキングでは1位をずっと走っていました。どのような部分が苦しかったですか?
坂口:賞金ランキングは上位でいられたので、グランプリ出場に関しては大丈夫でした。でもタイトルを取ったことで、他の選手からの私を見る目が変わったと思いました。今まではそこまで意識されなかったのが、警戒される対象になってしまい予想外の反応だったので驚いたんです。
山口:思わぬ反応だったんですね。
坂口:はい。私はチャレンジャーでずっとやってきて、「強い選手を一人一人倒していこう」と上がっていっている途中だと思っていました。それが急に私が気付かない間に意識されて、タイトルを取ったことでより強くそれを感じました。タイトルを取れたのは良いことですが、その次の開催から一気にみんなの目が変わったんです。
山口:そんなに違ったんですか?
坂口:はい。今までは感じなかった、孤独を感じました。「タイトルを取ったりトップで戦っている選手はみんな孤独だよ」という話を聞いたことがあったんですが、それを実感しました。相談できる人も限られる、心情などを理解できる人は限られてくるので、今までもそうですがみんなが敵になります。私を倒しにくる選手が、私以外の6人になります。なのでどんどん自分が不利になる展開が続きました。ビッグレースでも今までは全く警戒されず自由に動けていたのが、それができない、全く動けないことが多かったんです。
そこで「私も、話に聞いていたあの場所まで上がってこられたんだな」と思えたんですが、試練だなと感じました。
山口:もう一つ上へいくための試練、ですか。
坂口:はい。昨年はそれを受け止めるのに時間がかかってしまったんです。「ここで戦っていけるのかな。本当にもう一つ上へいけるのかな」と不安が大きかったから、プレッシャーにも押しつぶされてしまいました。もともとそんなに勝負事に向いている性格ではないのでとても苦しかったです。
でもここまで来られたのは成長だと受け止めて、更に殻をもう一つ二つくらい破らないと、GIやグランプリの優勝は届かないのかなと思っています。
山口:ガールズグランプリ初出場は2021年、2023年は連勝記録を伸ばしました。その辺りから好調で警戒されていたように思いますが、「タイトルを獲得」した後は、それとは別物なんですか?
坂口:違いましたね。タイトル獲得はみんなから認めてもらえる特別なものになるんですが、そこから徐々にプレッシャーが厳しくなりました。「普通開催の女王」と言われることもあるみたいで、普段のレースでは「坂口楓華なら勝って当然」という皆さんの評価がオッズにあらわれます。
ビッグレースでも普通開催と同じ評価をしていただき、買ってくださっているファンの方がたくさんいて私から人気になっている中、プレッシャーを感じ動けないレースが続いてしまいました。本当は、私は緊張するのでオッズは見たくないんですが、どうしても目に入ります。レースでも私を仕掛けさせないように他の選手が動き、それを乗り越えられない苦しい時期が続きました。
その結果、ファンの方の評価が「坂口楓華は、普通開催では無敵だけどビッグレースでは全然だめ」という評価になっていったと思います。自分でもだめなのがわかっていたので悔しかったです。けどまずそれを受け止めて、見つめなおしていきました。
「なんで私はだめなんだろう。どうしてビッグレースになると大きい着が続くんだろう」とたくさん考え、たくさん悩みました。そんな1年でした。
山口:客観的に見たら一昨年より昨年の方が順調にいっているように見えて、乗り越えるものが大きくなるとそれだけご自身は大変なんですね。
坂口:そうですね。自分では毎年大きい目標を立てておらず「1年ごとに少しでも成長していたら合格」と思っていたんですが、その「少しでも成長」の部分のハードルがどんどん上がっていっているんだと気付きました。昨年の壁は大きかったです。
でもそれだけ上がってきたんだ、と思えますし、ここで諦めたらだめだと思っています。神様は越えられない壁しか与えないと思って、「絶対越えてやる!」と頑張っています。
山口:「トップの選手は孤独だよ」と教えてくれたのはどなたなんですか?
坂口:市田佳寿浩さんです。
山口:そうでしたか。連勝の時もそうでしたが、坂口選手の節目節目には市田さんのアドバイスがあるんですね。
坂口:はい。昨年崩れてしまった時も「ちょっと休んだらどう?」とアドバイスをもらい、福井に1か月ほど行っていました。自転車にも乗りたくなくて、実は「もう辞めようかな」と思った瞬間もあったんです。
山口:え......?そんなに思い詰めていたんですね。
坂口:はい、かなり追い詰められていました。でも、それも市田さんにしか相談できませんでした。私が経験してきたことは、市田さんはとっくに経験されています。家族にも、同期や仲の良い選手にも言えず、もし言ったとしても伝わらないんです。その時に「トップ選手は孤独なんだよ、それを経験した人にしかわからない感情がある。これはみんなが味わえる感情ではないし、そこまで上がってきたということだよ」と話してくれました。
それに私は納得したんです。市田さんがいたから「乗り越えよう」と思えました。
山口:辞めようと思ったのは、初めてのことだったんですか?
坂口:はい。そうですね。今までは思ったことはなかったです。昨年は、今思うと大変な1年でした。
山口:乗り越えらえる壁だ、と思えたことは良かったです。
坂口:はい。崩れてしまった時は、どこに向かっていけば良いんだろうと自分がわからなくなってしまいました。でもその時にしっかり考えて、自転車に乗らない期間を作ったり、気持ちを自分で受け止めたことで、「またレースに行こう、一戦一戦頑張っていこう」と前を向けました。再度モチベーションも高く、特に後半はしっかりと取り組めました。
山口:復調してきた時のガールズグランプリだったんですね。
坂口:はい。市田さんの前で崩れてしまった後に、自分を見つめなおして「しっかりしなきゃ」と思えたし、「もっと強くならなきゃ」とも思いました。そこを乗り越えたから11月の競輪祭女子王座、更にはグランプリを戦えました。「充分成長しているし、自信を持って走って良いんだ」と認められたことが良かったです。
山口:ではガールズグランプリ2024を振り返ります。苦しかった1年と話してくださいましたが、そこを乗り越えてのグランプリは、2023年とはどのような違いがありましたか?
坂口:私の中で大きく変化したのは、話をするようになったことです。石井貴子選手(千葉106期)、尾崎睦選手(神奈川108期)、石井寛子選手(東京104期)などはずっとトップで戦っていて、グランプリにも何度も出場されています。そんな選手と話をすると、それぞれに私と違う部分があると気付きました。
私は、「勝つ」ということよりも「自分のやりたいレースをする」ことに意識がいっていたんです。勝利を掴むために貪欲になるのではなく、自分のレースをできたことで満足するタイプでした、そうなってしまっていました。
山口:結果よりも、だったんですね。
坂口:はい。もちろん自分の納得いくレースができて1着を取れるのは凄いことです。そういうレースができたこともあったと思うんですが、結果が出なくても満足している時があると気付いてしまいました。
でもお客さんからしたら「それがどうした?」ですよね。皆さんが求めているのは1着だけ、勝者だけですから。応援してくださる人の中にはそうじゃない方もいるかもしれませんが、競輪選手をやっている以上、勝つことが一番です。でも私は長年それに気付けませんでした。
今、こうして実績のある選手たちと同じ舞台に立たせてもらい戦えるようになってきて、ライバルの選手の勝利に対しての貪欲さや姿勢を見て、コメントや記事も読ませてもらって「私に足りないのはこれだ」と気付きました。更に、買ってくださる方にはとても失礼なことだともやっと気付きました。そこから変わってのグランプリのレースでしたね。
山口:より結果を意識して走ったんですね。
坂口:はい。今後は勝つことに貪欲に、自分が勝てるレースを、手段を選ばずにしようと思っています。
山口:ではガールズグランプリ2024のレースを振り返ります。ご自身ではどんなレースをイメージしてましたか?
坂口:今までよりもたくさん展開を考えて臨みました。自分が勝てるようにはどうしたら良いかたくさん考えたんですが、全く違う展開になりました。佐藤水菜選手(神奈川114期)がスタートを取るとは思っていなかったので、その時点で私が考えた理想のレースは終わってしまいました。今までの私ならそこでそわそわしたり、焦ったりしたと思うんですが、今までと違ってスタートに立った時から腹がくくれていたので、弱気な自分はいませんでした。ちゃんと自分で勝負しよう、私にはそれができると自信もあったんです。そんな気持ちで臨みました。
山口:坂口選手の最終ホームでの一気の仕掛けでレースが動きました。あの位置から行こうと決めていたんですか?
坂口:いや、正直に言うと迷っていました。でも動かないと6番手のままで、自分より強い選手が前にたくさんいる。それで動かないのはだめだと思ったんです。
でもそう思えたのは、心にずっと留めている言葉があったからでした。
3月取手でのコレクションを優勝する前、ウォーミングアップのときでした。ビッグレースでずっと何もできずに終わるレースが続いていたので、古性優作選手(大阪100期)にアドバイスをいただきにいきました。そうしたら「俺の場合やけど」という前置きからお話をしてくれて、「最終ホームストレッチで8、9番手にいる時点で負けが確定している。その位置にずっといるくらいなら自分から動いた方が良い。動かないと負けが確定だけど、レースを動かして力を出し切ったらファンの方は怒らない。負けても、買ってくれてる人を納得させるレースをする。そうじゃないと失礼やから」と言ってくれたんです。
その言葉がずっと頭に残っていたので、私もグランプリのあの場所から仕掛けられました。1年間やってきて、ファンの皆さんが私を評価してくれたのは攻める走りだったと思っています。それを大舞台でできたのは、古性さんの言葉を思い出し「1年間仕掛ける走りをしてきたのに、この場所で何もせず終わっちゃだめだ」と仕掛けられました。
いろんなことが重なったグランプリでした。
山口:私が言うのもなんですが、本当に強いレースでした。
坂口:走っている最中のことは、実はもうあまり覚えていないんですけど、とにかく必死に踏みました。でも欲を言うと3着までには残りたかったです。そうしたら自分でも納得できる走りでした。最後の最後に追い込まれ4着だったので、複雑でしたね。
でもいつか私もチャンスを掴める時が来ると良いなと思って、頑張りたいと思います。
山口:頑張ってください!今年の目標はなんですか?
坂口:岐阜で行われる『オールガールズクラシックGI』を優勝することです。地元地区ですし、まずはそれを目指しています。
山口:ルーキー選手も強い選手が出てきていますが、その辺りはいかがでしょう?
坂口:特に気にしていません。それよりも今年は楽しみの方が大きいです。昨年の苦しかった1年を乗り越えられたので自信がつきました。「誰が来てもかかってこい!」って感じです(笑)
山口:頼もしい!(笑)
坂口:そんな感じで自信を持っていきたいです。
山口:勝ちにこだわるというお話も出ましたが、戦法もそれに応じて変わっていきそうですか?
坂口:そうですね。基本的には自分で力を出すレースをしたいんですが、自力自在で今年からは、新しい私を見てもらえたらと思います。
山口:位置取りを重視したり「差し」を意識する戦法をしようと思うと、練習は今までとは変わりますか?
坂口:変わると思います。差しができる選手はテクニックがあると思うんです。力を最後の最後まで温存するというのは、自力で普段戦っている選手にはないですから。力の強弱のつけ方が違うし、それを器用にできれば、もっと上で勝負できるようになると思うので、今までやっていなかった練習もやっていきたいです。
山口:新たな坂口選手も楽しみにしています。
坂口:ありがとうございます。
山口:グランプリ後の年末年始は、SNSを拝見したらゆっくりされていたようですね。リフレッシュもばっちりですか?
坂口:ゆっくりしすぎたかもしれません。今年はみんなのスタートが早く、すでに激戦です。私だけのんびりしている。でも、最初から頑張り過ぎちゃうと後から疲れが出てバテちゃうと思うので、焦らずにいきます。ちゃんとここから巻き返します(笑)
ゆっくりできたおかげで、今年の目標もちゃんと決めたしモチベーションも上げられました。今年1年やっていきたいです。
山口:頑張ってください。では最後にオッズパーク会員の方へメッセージをお願いします。
坂口:最初のGI『オールガールズクラシック(岐阜)』で優勝しガールズグランプリ2025の出場権を取ることを目標にして頑張っています。これからも応援していただけたら嬉しいです。
また今年1年ナショナルチームの選手も帰ってきたし、新人の強い選手もいて厳しい戦いになると思うんですが、楽しんで、そして自分の力で競輪界を盛り上げていけるように頑張りたいと思います。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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