昨年6年ぶりにオッズパークpresentsガールズグランプリ2024に出場した尾崎睦選手(神奈川108期)。久しぶりに走ったガールズグランプリと昨年1年間を振り返っていただき、今年の目標もお話してもらいました。
山口みのり:昨年は久々のグランプリ出場などありましたが、1年を振り返っていかがでしたか?
尾崎睦選手:前半のGI『オールガールズクラシック』と『パールカップ』で決勝に乗れて賞金が積み上げられ、賞金ランキングで良い位置にいられました。後は怪我なく1年間走りきることができたので、すごく良かったかなと思います。
山口:ガールズグランプリを走って「戻ってきたな」という気持ちはありましたか?
尾崎:はい。久しぶりに出させていただいたんですけど、本当に良いところでした!
山口:6年ぶりと聞き「そんなに出ていなかったんだ」とびっくりでした。
尾崎:そうですね。出られそうで届かない時期や、補欠も経験したので、グランプリに出るのは本当に難しいなとここ最近ずっと思っていました。昨年はやっと出られたなと、すごく嬉しかったです。
山口:もちろん毎年グランプリを目指していたと思いますが、昨年とそれ以前を比べて、何か変えたことや違いはありますか?
尾崎:2022年の地元・平塚グランプリに出るためにピークを持って行こうと思っていたら、失格で出られなくなってしまい心が折れてしまいました。その後は、気持ちが続かず投げやりというか、腐っていた時期がありました。でもそんな中でも私を応援してくれて、支えてくださる方がたくさんいたのでなんとか頑張れました。
そのぐらいの時期にちょうどGIの新設が発表され、男子のように「GIを取ればグランプリ出場権が与えられる」というシステムになりました。男子のタイトルホルダーの方も神奈川にはいらっしゃり、「タイトルホルダー」と呼ばれるのはかっこいいなと思ってたので、自分もなんとかタイトルが欲しいと、また頑張ろうという気持ちにさせてもらいましたね。
山口:GIの新設が尾崎選手の中では大きなことだったんですね。
尾崎:そうですね。GIができたことで救われたというか、それがなかったら今の自分は想像できないかなと思います。
山口:ただ2023年は全てのGIには出場できずに悔しい部分もありましたか?
尾崎:最初の『オールガールズクラシック』は出られなかったんですが、あの頃は「どうせGIなんて......」と不貞腐れていた部分もあったんですが、いざ走ってみると「GIってめちゃくちゃ良いな!」と思いました。雰囲気やお客様の数も違う。選手側も、みんながGIを優勝するために来ているのがわかるんです。こういうところで走らせてもらえるのは選手として幸せだなと感じ、モチベーションが上がりました。
山口:昨年は全てのGIで決勝進出と、1年を通して良い調子で走られたんですね。
尾崎:そうですね。もちろん毎回完全優勝、というわけではなく小さな波はありました。普通の開催で車券に貢献できなかったこともあったんですが、その中でもしっかり自分のやるべきこと見失わずにできたのは良かったかなと思います。
山口:レース内容もビッグレースも含めて、消極的なレースが少なかったというか攻めてたような気がしました。
尾崎:今までのビッグレースは単発レースが多かったこともあり「そのレースのその機会」はその瞬間しかないので、大事に大事にいきすぎて消極的な部分がありました。コレクションや、グランプリを過去に走らせてもらった時も「次いつ私がこの舞台に立てるかわからない」と、変に消極的なレースが多かったんです。
けど、GIだったら1年に何度かある。もちろんGIも簡単に出られる訳ではないんですけどね。GIで自分が今までやってきた事をどれぐらい出せるかをテーマにして、技術や脚力の強化もそうですが、メンタルの部分でもしっかりと上げていけるように、GIに合わせて気持ちの部分も整理して臨めるようにと意識してやっていました。
山口:オールガールズクラシックの準決勝のインタビューだったと思うんですが、「今回はタイトルを取りに来ました」と仰っているのを見ました。私の勝手な印象ですが、尾崎選手は「勝ちにきました」など強気な言葉を明確に口にしない印象があったので、意外でしたが格好良かったです。
尾崎:あの時は、きっかけがあったんです。私は弟子がいるのですが、入所のため養成所に送って行き、その時に滝澤先生(滝澤正光さん/日本競輪選手養成所所長)とお話しさせていただく機会がありました。滝澤先生に「GIを取りたい、とか、取れるように頑張ります、じゃGIは取れないよ。自分が取るんだっていう気持ちで入る。開催中も自分が取る、自分が優勝するって信じろ。疑わずに信じていけ」と言っていただいたんです。本当にその言葉通り、自分が取るという気持ちで久留米に入りましたし、レースを走っている時も自分が取ると思って走りました。
山口:素敵な話です。これからも取るまでは、取るぞっていうことを口に出していくんですね。
尾崎:はい。競輪選手になってから、いや選手になる前から、グランプリを取るというのは自分の夢ですし、そこにGIもできてくれたて目標が広がりました。なんとかGIを取るまで、しっかり頑張りたいなと思います。
山口:頑張ってください!そして今年の戦いはすでに始まっていて、選手の皆さん、追加も走っているようですね。
尾崎:今年はいつもよりも結構みんな賞金ランキングへの意識が早い気がしますね。今は体調不良なども出やすい時期ですから欠場も多く、開催もたくさんある中で人が足りず、走れる選手が限られてしまいます。走るというのは大変なことなので、追加だとスケジュールもタイトになりますし、走るからには結果を残さなきゃいけないです。大変ですが、しっかり体調を整えて頑張りたいなと思います。
山口:追加だった1月の松山はトップ選手たちが集まりましたね。
尾崎:そうでした。決勝戦とかはもうGIなんだなと思って走りました。でも逆に、普通の開催でGIみたいなメンバーと走れる機会は今まであまりなかったので、ありがたかったです。GIと普段のレースでは、どうしても雰囲気やスピードの違いは生まれてしまいます。松山は予選からGIみたいなスピード感でしたし、自分の中ではプラスになったかなと思います。
山口:男子と違って7車なのは普通開催も一緒ですもんね。
尾崎:そうですね。
山口:今年はグランプリが地元の平塚で行われます。尾崎選手にとっても、出場は目標の一つでしょうか?
尾崎: そうですね。今年の平塚グランプリへ向けては既に多くの方が応援してくださっています。地元でのグランプリというのは一度走らせていただいているんですが、他とは全く違う、素晴らしい舞台でした。今年の年末にそこで走らせていただき、さらに優勝ができたら本当に嬉しいし、みんなも喜んでくれるのかなと思うので、まずはそこを最大目標として、今年は何が何でも出場を目指して頑張りたいです。
山口:まずはタイトルホルダーへ、ですね。
尾崎:はい、GIを取ることが今の一番の目標です。そのために何をしなければいけないかをしっかり考えて、毎日悔いなく過ごしたいなと思います。
山口:そういう意味では昨年のグランプリ3着という結果は、今年のGIを戦うにはかなり優勢ですね。(注:グランプリ3着以内の選手は、全てのGIに出場する権利がある)
尾崎:本当に大きかったです!実はその権利のことは知らなかったんですよ。終わってから記者の方に教えてもらいました(笑)そんな権利もあるんだ!ってびっくりしたけど嬉しかったです。
山口:勝ち上がりの厳しい『オールガールズクラシック』は特選の位置付けのティアラカップからスタートしますし、有利ですよね。
尾崎:はい。良いものをもらったので、しっかりチャンスをいかせるようにしたいです。
山口:では、ガールズグランプリのレースをちょっと振り返っていきます。スタートして、各選手前を取る動きがありました。尾崎選手がまず先頭誘導員の後ろにいこうとした時に、佐藤水菜選手(神奈川114期)が前にきましたが、あの動きはどうでしたか?
尾崎:予想外でしたね。サトミナが前からレースをするとは思ってなかったです。一瞬どうするか迷ったのですが、一番人気の選手ですし強い選手なので、自分の目の前にいるというのは、私にとってもプラスかなと思って後ろにつきました。
山口:その後は、坂口楓華選手(愛知112期)が仕掛けてきた時はいかがでしたか?
尾崎:誘導員が退避したバックストレッチは強い向かい風だったので、前にいるサトミナは迷っているように感じました。スピードがそこで緩んだので、後ろから誰かがカマシてくるかもしれないなと思ったんですが、とにかく踏み出しのダッシュがみんな良いので、そこで離れちゃったら誰かにサトミナの後ろに入られてしまいます。それだけは気をつけようと思って、後輪だけを見て集中していました。
山口:一気に残り1周でスピードが上がり、坂口選手、石井寛子選手が前に出た後はいかがでしたか?
尾崎:その時は、追走をするので精一杯でした。最終バックストレッチでサトミナが踏み上げていった時にきつかったので、どうしようかと少し焦りました。「これは足が回り切っちゃってるぞ」と。でもそこを過ぎてからはちょっと楽になりました。ただその位置から優勝を目指すのに、外のコースは行けなさそう、他どこか空いているコースはないか探していたら、内側から石井貴子選手(千葉106期)も追い込んでくるのが見えました。内側を空けると入られてしまうので、そこは気を付けながらコースを探したんですが、ダメでしたね。終わった瞬間の感想としては、足が足りないなと思いました。
山口:そうなんですね。
尾崎:はい、足りなかったなって率直に思いました。もうちょっと自分に余裕があれば、バックストレッチからのコースどりも出来たかなとか、4コーナーでもう少し良い位置にいられたかもしれないな、と思います。
終わった直後にそう思ったんですけど、でもグランプリのあの瞬間で、自分ができることはやれたのかなと思います。グランプリに向けて準備もしっかりしましたし、練習もしたし、心の、気持ちの部分でもすごく良い状態で臨めたので、グランプリのレースに関しては自分がやるべきことはできたかなと思いました。
山口:グランプリへ向けての準備について、言える範囲で構いません。詳しく伺うことはできますか?
尾崎:12月は1本走らせてもらいましたが、競輪祭女子王座戦が終わった後は基本的にはグランプリに向けて集中しようと平塚競輪場で練習をしていました。男子選手の皆さんもすごく気を遣ってくださり、「どういう練習をやりたいの?」とか「どういう風にグランプリを走りたいの?」と聞いてくれ、練習も一緒に付き合ってしてくださいました。そのおかげで練習もすごく順調にできましたし、体調も良く毎日過ごせましたね。平塚の選手には感謝しています。
山口:素晴らしい環境だったんですね。平塚競輪場では壮行会もあったんですよね?
尾崎:はい。北井佑季選手(神奈川119期)と一緒に。皆さんに声を掛けてもらい寄せ書きをいただきました。それは玄関に貼って、毎日それを見て頑張ろうと思っていましたね。
山口:力になっていたんですね。
尾崎:はい!
山口:戦法やコースどりについてですが、言える範囲で構いません。以前はコースを探しての追い込みはあまり得意じゃないというお話を伺った記憶があります。今は全くなさそうですよね。
尾崎:何でもできる選手になりたいので、危なくない範囲でですが、他の選手に譲っちゃいけない部分もありますし、自分が主張するべきところはしっかり主張しないといけないなと思っています。
山口:ビッグレースでも主張する部分はされて結果を出していますもんね。
尾崎:もし引いてしまったら着が大きく変わる場合が多いです。でもそれを主張するためには脚力がないとできないです。自分を守るためでもありますし、脚力は磨いておかないといけないなと感じます。
山口:どんな場面でも余裕を持って、視野を広く走るためにはっていうことですかね。
尾崎:そうですね。グランプリはいっぱいいっぱいで、視野がちょこっとの点くらいしかありませんでした。もう少し余裕があれば「ここのコースかな、ここも空いている。こういう風にまくりにいってみようかな」と、選択肢も生まれます。
山口:では今年の強化していくところは主にそこですか?
尾崎:そうですね。グランプリでも感じたので、もっとやっぱり脚力をつけたいです。スピードや縦脚も足りてないですね。この前も松山予選2で太田りゆ選手(埼玉112期)とレースをした時に感じました。あのレースは自分のレース展開の作り方も下手でしたが、りゆちゃんのスピードとダッシュは本当に凄いものでした。そういう人たちと戦っていくためには、自分も少しでも近付かないとキツいので、そういう武器を自分も手に入れたいです。
山口:太田選手は昨年後半から競輪に専念ですし、今年はナショナルチーム組もGIは走りそうですもんね。
尾崎:そうですね。その中で戦うには自分にしかできないことを磨いていかなきゃいけないですし、そのためにはしっかり足も作っていかないといけないので、練習を頑張んなきゃなって思ってるところです。
山口:昨年1年は無事に怪我なく走りきれたと話していましたが、モチベーションの保ち方はどうしていたんですか?
尾崎:単純に楽しいので、モチベーションは自然と良いところで保たれていましたね。数年前はあんまり自転車に乗っているのが楽しいとは思わなかったんです。
山口:仕事だぞ、という意識ですか?
尾崎:それも少し違って、ただ賞金を積み重ねるためだけに走っていましたね。機械的にただ本数を一生懸命走って、賞金は今どれくらい積み重なったか、そこに感情はあまりなかったです。 2ヶ月間あっせんが止まって、休む機会があったんですが、その時に考え方が変わったというか、いろんなことを考えるようになりました。他の人の自転車に対する姿勢だったり、競輪に対する気持ちだったり、周りの人をとにかく見るようになったんです。今までは全然周りの人のことは見ていなかったなと気付きました。
山口:それはガールズ、男子問わずですか?
尾崎:はい。練習を一緒にしてくださる男子選手のことはよく見ていたので例外なんですけどね。開催に行った時には、他のガールズも男子選手も何をやっているか見ずに、「レースに行って賞金を積み重ねていただけ」でした。しかも、ただ数字上に積み重ねる。お金が欲しいとかレースに勝ちたいとかそういうんじゃなく、グランプリのために賞金をただ積み重ねにいってるだけみたいな。だからその時の私は、無駄なことをしないように控え室にずっといましたし、部屋に閉じこもっていましたね。
でもあっせんが止まり、グランプリ争いも厳しいぞとなった時ふと周りを見たら、そこで初めてみんなのことが見えるようになって、「そういうやり方もあるんだ」とか「そういう考え方もあるんだ」と気付き、いろんな人と話すようになりました。話すうちに、「あの子と比べて自分はどうだろう」「こういう練習もしてみようかな」と思うようになったんです。強い選手に直接質問しにいったりもしましたね。今までは疑問に思うことすらなかったのに。
そういう経緯で「じゃあこういう風に自分はしてみようかな」と考えるのが楽しくなってきました。それが自転車にも繋がって、レース内容はどうだったか、乗り方がどうだったか、少し変えてみようかと試行錯誤をすることが増え、「あれ、いっぱいやることあるな」と思うんです。
それ以前に比べて、単純に練習の量も増えましたし、やることが多くなり、時間が足りないなと感じることがありますね。それは切羽詰まった時間が足りないではなく、「あれもやりたい。これもやりたい。けど、今日はもう終わっちゃう。じゃ明日やろう。でももうすぐレースだ」みたいな感じの、前向きというか、楽しいから時間が足りない感覚です。
だからすごい楽しいんですよね。「GIを取るためには今のままじゃダメだ」と思ったのが始まりだと思うんですが、それが今も続いています。
山口:どなたに聞いた話が印象に残っていますか?
尾崎:日野未来選手(奈良114期)に違反訓練のときに「どういう感覚で踏んでるの?なんでそんなに進むの?」と聞きました。彼女もダッシュ力は凄いんですよ。後は「こういう練習してみようと思うんだけど、どう思う?」と聞くと、彼女が感じていること思っていることを答えてくれました。
平塚の選手だと松坂洋平選手(神奈川89期)や桐山敬太郎選手(神奈川88期)も結構アドバイスをくれます。実はそれまではお会いしても挨拶をするくらいで、そんなに話をしていただけるような感じじゃなかったんですけど、昨年くらいからアドバイスしてくださるようになったり、自分も疑問に思ったことを聞いたりしています。お二人もきっといろんなことを考えてあの地位にいると思うので、私がぶつかってる壁はもうすでに経験されてるんですよね。だから「俺はこうだったから、こうだと思うけど、それがあなたに合うかはわからない。けど、こうしてった方がいいんじゃない?」と経験を踏まえてアドバイスをくださいます。悩んでる部品やフレームがあった時も「続けていった方が良いと思うよ。続けていくと良いことあるよ」と言ってもらいました。
今までは師匠(渡邊秀明選手/神奈川68期)が軸で、ずっと師匠のアドバイスを聞いてきたんですがそれは変わらずに、そこからプラスアルファ他の方の意見が入ったり練習方法や乗り方を見て、だんだんと視野が広がる気がします。わからなかったらその方に直接聞きますし、聞いたら皆さんちゃんと答えてくれるんですよね。自分が悩んでいることがあった時は、意見をくれるのはありがたかったです。周りの方にも感謝してますね。
山口:それは尾崎選手が変わった、ではないですが、方向性を変えたなっていうのを皆さんが感じたのではないでしょうか。
尾崎:あー、確かに、自分が狭まってた視野をパンって広げたからもしれませんね。みんな本当に優しいんだなと思います(笑)
山口:トップ選手もたくさんいる中でずっと一緒に練習をされていたら、聞いた方が良い時は絶対ありますもんね。
尾崎:本当にそうですね。競輪はいろんな選手がいてクラス分けもされています。でもずっと長くやっている方は、練習を見たりお話を聞いていると「年齢を重ねても競輪選手として長く戦っていられる」理由が分かる気がしました。学ばせてもらってるのはありがたいです。
山口:尾崎選手が吸収することはいっぱいありますね。
尾崎:そうですね。時間が本当に足りないです(笑)周りから良いことはどんどん吸収して、何でもできる選手になりたいです。
山口:ありがとうございます。では、最後にオッズパーク会員の方へ向けて、今年の目標やメッセージをお願いします。
尾崎:ファンの方が応援してくださって、今、選手としてまだ一生懸命頑張れています。今年、地元平塚で行われるガールズグランプリで優勝して、その方たちと一緒に喜べるように頑張ります。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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