10月2日~4日に松戸競輪場で行われた『第1回オールガールズクラシック(GI)』。2つ目のGIとして、今回はナショナルチームの3人も参戦となりました。賞金ランキングではオッズパーク杯ガールズグランプリの出場は難しい中、佐藤水菜選手(神奈川114期)は見事完全優勝を飾り、その切符を手にしました。今回はレースの振り返りから、今後のナショナルチームのこと、年末へ向けてのお話を伺いました。
山口みのり:オールガールズクラシック(GI)、優勝おめでとうございました。
佐藤水菜選手:ありがとうございました。
山口:ガールズグランプリへの切符は意識していましたか?
佐藤:特別意識していた訳ではなかったです。ガールズケイリンの前走が西武園でのガールズドリームレースなんですが、その時は自分の力を出し切れずに終わってしまいました。松戸ではとにかく力を出し切って走りたい、その後で結果がついてきたら良いなという思いでした。
山口:内側で仕掛けられないのはやめよう、と意識していたんですね。
佐藤:はい。一瞬でも良いから風を切ってレースをしたいと思っていました。
山口:ナショナルチームの3人はオールガールズクラシック(GI)の選考順位が低く予選からのスタート、しかも初日は7番車でした。それはいかがでしたか?
佐藤:そうだったんですね。外枠だとは思っていたけどそれは知らなかったです。でも自転車競技ではくじ引きで内外が決まるので、特に車番はどうとかは気にしていないです。
山口:アジア大会から帰国後、翌日が前検日でした。体力的にもきつかったのでは?
佐藤:レースに対してしんどいなという気持ちはいつもあります。でもアジア大会の気持ちでそのまま入れたので、「前検日入れてあと4日、頑張ろう」と自分に言い聞かせていました(笑)
山口:そうでしたか(笑)
佐藤:はい。でもアジア大会までに練習は充分できていたので、レースは大丈夫だろうと思っていました。ただアジア大会も期間が1週間ほどあり、疲れはあったので「早く休みになれば良いな」と毎日頑張っていました。
山口:坂本勉さんが「国際大会は1日に複数回レースをする。ガールズケイリンは1日1走だからむしろ脚は休まる」と仰っていたのですが、その感覚はありますか?
佐藤:休まるというよりも、レースでの強度が足りないので最終日には脚力が落ちてないか心配になります。
山口:え?そんなに違うんですね。
佐藤:はい。だからこそ前検日に「体がきつい、練習をしすぎたかな」という感覚くらいで調子がキープできるような気がします。
山口:凄いですね。ではレースを初日から振り返っていきます。初日は長い距離を踏むレースでした。
佐藤:初手で後方になったので、上がっていった時に鈴木奈央選手(静岡110期)の前に入れました。私を入れてくださった形ですね。だからという訳ではないですが、「私を前に入れて良かった。メリットがある」と、鈴木選手にも周りの選手にも思われる走りをしなければ、と思いました。だから長い距離を踏もうと。最終的に後ろが野口諭実可選手(大分102期)と鈴木美教選手(静岡112期)が取り合う形で、鈴木奈央選手の前ではなくなってしまったんですが、それは見えていなくて「長い距離になってしまってもどこからでもいこう」と思ってゴールまで一生懸命に走りました。
山口:準決勝も激戦で、奥井迪選手(東京106期)の先行、日野未来選手(奈良114期)の捲りの上を捲ったレースでした。
佐藤:そうでした。まず気になっていたのは、外で並走していた吉村早耶香選手(静岡112期)でした。自分の仕掛けるタイミングがずれてしまうのが嫌だったので、本来は外の並走の選手に対しては前を追走してそのまま内側から行くのが正解ですが、私は吉村選手の外から仕掛けました。それは自分のタイミングがずれないようにです。4コーナーくらいから仕掛け、最終BSでは先頭に出られれば良いなと思っていました。
山口:日野選手の動きよりも吉村選手だったんですね。
佐藤:まず吉村選手でした。その次に一車前にいた柳原真緒選手(福井114期)、その次に日野選手と、私は目の前の選手を次々と見ていく感じですね。だから一人目の吉村選手を越えた時に「よし!」となりました。
山口:そうなんですね!
佐藤:はい。それで自分の安全に走れるコースを確保できていたし、スピードも落とさずにいられる状態を作れたので、レースとしては良い展開を作れたと思います。
山口:見ていた私は「佐藤選手は、厳しい展開かな」と思いましたが、良い展開だったんですか。
佐藤:はい、問題なかったです。焦って内側へいって自分のペースで走れない方が良くない、落ち着いて自分のペースで走れたら大丈夫だと思っていました。
山口:33バンクの松戸であの大外の捲りはなかなか行けないと選手に聞きますが、250バンクを普段走っているから問題ないんでしょうか。
佐藤:それはあると思います。あと、直前のアジア大会で走った中国のバンクが、大会のために作られた新しいバンクでとても癖があったんです。カント(傾斜)が不思議な感じと言ったらいいんでしょうか。そこで結果を出せた、走りきれたからこそ松戸は自信を持って走れていました。
山口:決勝も先に前にいた児玉碧衣選手(福岡108期)が動いた時についていきませんでした。今のお話に通じますか?
佐藤:そうですね。児玉選手についていって他の選手と絡んでしまうリスクよりも、レースが一旦動いた後に「次は自分の仕掛ける番だな」とレースを作り直す方が良いと思いました。ドリームレースでの内につまってしまったレースや、直近の世界選手権で自分のタイミングではない時に焦って仕掛けて、悪い結果になったことも頭にあったので、余計に「自分のレースをしたい」と思っていたんでしょうね。
山口:なるほど。では再度決勝を振り返ると、かなり強い雨が降っていましたが気になりましたか?
佐藤:豊岡英子選手(大阪114期)にいただいた撥水スプレーをサングラスにしていたお陰でレースもしっかり見えていました。雨なので後ろからレースをしたいなと思っていました。
山口:どんな理由があるんですか?
佐藤:雨の跳ね上がりを避けるのに好きに走りたかったし、私は雨の方がスピードが出ると思っているので後方でも問題ないという判断です。
山口:雨の方がスピードが出る?
佐藤:滑っている感覚なので、私はそう感じるだけです(笑)だから先行でも捲りでも展開は何でも良いかなと思っていました。
山口:落ち着いていたんですね。その他のポイントはどこだったと思いますか?
佐藤:児玉選手が仕掛けた時に、太田りゆ選手(埼玉112期)が追わず、後ろにいる私を見ていたんです。ということは太田選手は私を警戒している。「私を中心にレースを考えているなら、仕掛けるのは今ではなく遅らせよう」と決めました。準決勝の時と同様に目の前の選手を注目していたので太田選手の動きだけを見て、太田選手の捲りが久米詩選手(静岡116期)とスピードが合っていたので、その上をいきました。
山口:行こうと思ったタイミングはいかがでした?
佐藤:前の選手が止まったなと感じたタイミングで、今度は自分が仕掛けないといけない、と切り替えられました。仕掛ける準備はできていました。
競技からガールズケイリンに戻ってくると、ギアなど自転車も違いスピード感も全く違うため、自分の認識の差が生まれます。だから仕掛けるタイミングは自分の体の感覚を信じるしかないですが、それは余裕がありました。
山口:見事3連勝の完全優勝です。優勝後の同期での集合写真は良い写真でしたね。
佐藤:今まで同期が一緒と言っても柳原選手だけだったり、あんなにたくさんはいなかったのですごく嬉しかったです。
山口:次のGIは『競輪祭女子王座戦(GI)』ですが、そちらへの意気込みはいかがですか?
佐藤:GIの前11月16日~18日に伊豆で国際大会の『ジャパントラックカップ』があり、それが過酷なんです。1年で一番嫌なレースかもしれません(笑)ハードな日程で、去年は4日間だったんですが、今年は3日間と短縮されました。そこでのレース内容が不安なんですよ・・・。しっかりと出し切って、20日前検日だから19日はしっかり休んで競輪祭(GI)に向けての気持ちを作って臨みたいです。
山口:ハードですね。
佐藤:それよりも疲れなどの後遺症が心配です。ただ連戦をしても、ジャパントラックカップで良いレースが見せられたら、競輪祭(GI)への自信に繋がります。今はGIに向けてフレームを、競技のものからガールズケイリンのものに戻して練習をしているので、その部分は不安は除かれますね。
山口:オールガールズクラシックの後のインタビューで「ガールズグランプリの権利を獲得したので、次のGIはいろんなことを試したい」と仰っていました。言える範囲で良いのですが、どんなことを試したいですか?
佐藤:勝ちにこだわり過ぎずに、自分の限界を試してみたいんです。先行でも追い込みでも何でも。スタートだけは頑張って取りに行かないですが、それ以外は何でもしたいですね。
山口:ドームというのは佐藤選手にとっては有利ですか?
佐藤:はい。有利だと思うし、自分の真の力が発揮できる場所だからこそ挑戦したいなと思います。
山口:チャンスを見つけて、限界を超える走りですね。
佐藤:いいえ。チャンスを見つけるのではなく、3日間全開でいきます!
山口:おお!
佐藤:松戸もそんな感じで走っていたんです。後でコーチから注意されました。次もコーチを説得していきます。
山口:疲労の蓄積はありますもんね。
佐藤:はい、競技では1日何本も走ります。だからレースの途中でも自分が勝利を確信したら、体力温存のため力を抜くんです。松戸では、もちろん1着になるために走っていますが、勝利を確信したら余力を残すための走りになってしまったので、次の小倉は最後の最後まで踏み切るレースをしてみたいんです。
山口:見る方は楽しみです!
佐藤:でも他の選手もいるので、先行になるかもしれないし、3日間追い込みのゴール前勝負になるかもしれません。それはわかりませんが、どっちにしても限界に挑戦する走りをしたいです。
山口:今年はGIが3つ新設されました。優勝したらガールズグランプリの権利を獲得と、ナショナルチームの3選手にとってはチャンスが広がったと感じましたか?
佐藤:去年までは競輪祭の2枠が唯一優勝したらグランプリというレースで、特に去年はナショナルチームの3人が同じ組でした。だから3人のうち1人しかグランプリにいけない。葛藤も多くありました。今年はGIが3つ。だから「それぞれ3人が優勝を目指せるね」と言っていたんです。6月パールカップは国際大会があり出られませんでしたが、松戸は私が優勝でき、次の競輪祭(GI)は他の2人も優勝をできればグランプリに出場できるチャンスがある。2人は優勝を取りに来るし、私もドキドキします。でもGIの新設はナショナルメンバーにとってはすごく良いし、ポジティブな気持ちでレースに向かえます。
山口:GIの連覇という意気込みはいかがですか?
佐藤:それよりも、力を出したいという方が大きいです。賞金争いで下位の選手が優勝できるチャンスがあるというのは、面白いと思うんです。下剋上というか一発逆転できる。参加選手全員にチャンスがある。トライアルレースで結果を出した選手が出られるガールズケイリンコレクションも良いと思うんです。私が初めてビッグレースに出場するチャンスをもらったのもトライアルレースで決めたコレクションでした。だから同じシステムは好きだし、走っていてもワクワクします。
山口:ガールズグランプリに走ったことがない選手にとっては大きなチャンスですもんね。
佐藤:はい、グランプリという舞台を初めて走る選手との対戦は楽しみです。
山口:ガールズグランプリの出場選手が変わるというのは、翌年のガールズケイリン全体も大きく変わって面白そうです。
佐藤:お客さんもその方が面白いと感じてくれると思います。プラスの気持ちしかないですね。これは、もしかしたら選手よりもお客さん目線に近いかもしれませんね。
山口:聞いているとその部分は大きそうです。
佐藤:自分のことよりもファンの人の目線で見ると、競輪祭(GI)は「グランプリの権利を持ってる佐藤水菜より、権利を持ってない他の選手の優勝を見たい」と思う方もたくさんいるはず。私もお客さんの立場ならそう思います。だからこそ、競輪祭(GI)は勝ちたい気持ちもあるけど、限界を試せる良いチャンスです。どちらの気持ちでも楽しみです。
山口:ガールズグランプリへ向けてはいかがでしょうか?
佐藤:去年に比べて練習はしっかりできるスケジュールになると思います。レースについては問題ないと思うんですが、前夜祭が得意じゃないので、それが心配です。
山口:そうなんですか。
佐藤:人と関わるのが得意ではなくて(笑)ヘアメイクさんとかホテルの方とか、普段関わらない方もたくさんいるのが苦手なんです。毎年欠場したいとお願いしているくらい(笑)
山口:ファンの方は見たいですよ。
佐藤:いや、私以外の6人でお願いしたいです(笑)グランプリに出たい気持ちのが大きいけど、もし出たくない理由があるとすれば前夜祭です(苦笑)
山口:そんなに(笑)立川は佐藤選手が初めて走ったガールズグランプリですね。
佐藤:覚えてます。怪我をして走ったグランプリだったんですよね。ただ立川にはあんまり悪いイメージはないです。
山口:では良いイメージで年末も走れそうですね。現状のナショナルチームの練習内容はどのような感じなんですか?
佐藤:ウェイト、街道、バンク練習と、日曜以外は午前と午後で内容が違うなど、まんべんなくやっています。1週間前にメニューが配られるので、それにそって短距離チームみんなで練習をします。
山口:以前は「スケジュールがきっちり決まっている方が楽で良い」と仰っていましたが、それは変わりませんか?
佐藤:はい、信頼してやってきて強くなった自分がいるので、安心感があります。スケジュールが決まっているということは生活リズムが整いやすい。迷わなくて良いです。目標に向かって信頼してやれば大丈夫という確証があるから続けられます。
山口:目標というのは具体的には?
佐藤:競技で結果を出すことです。今ならジャパントラックカップで結果を出すこと。次のシーズンが年明けに始まる時も良い感じでスタートしたいです。
山口:オリンピックが決まるのはどれくらいなんですか?
佐藤:来年の6月頃ですね。
山口:そんなに直前なんですね。
佐藤:まだまだ勝負が続きます。まずは国際大会でポイントを獲得し、出場権を取れたら次は国内の選抜です。
山口:ありがとうございます。ナショナルチームのお話もたくさん聞かせてもらいました。
それでは最後にオッズパーク会員の皆様へメッセージをお願いします。
佐藤:たくさんの応援、いつもありがとうございます。『競輪祭女子王座戦(GI)』も第1回ですし、そこで優勝をできるように力を出し切ります。またガールズグランプリへ向けては、競輪祭(GI)を優勝できたら良い弾みになると思うので、それができるように頑張ります。引き続き応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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