5月の日本選手権競輪で行われた『ガールズケイリンコレクション2021京王閣ステージ』。優勝したのは佐藤水菜選手(神奈川114期)でした。3月松阪に続いてのコレクション出場でしたが、単発レースでは初優勝となりました。
レースの振り返りからゴールした時の気持ち、そして昨年から参加しているナショナルチームのお話も伺うことができました。
山口:『ガールズケイリンコレクション2021京王閣ステージ』優勝おめでとうございます。
佐藤:ありがとうございます!
山口:優勝後の率直なお気持ちはいかがですか?
佐藤:コレクションという大きいレースを優勝できたのは嬉しいですが、レースでは落車のアクシデントがあったので100%喜ぶことはできないのが素直な気持ちです。
山口:レースを見て私が感じたのは「佐藤選手が展開を支配していた」という印象でした。作戦はどう考えていましたか?
佐藤:最近レースで意識をしているのが「レースをコントロールすること」なんです。今回も「レースを支配」することを目標に臨みました。
女王の児玉碧衣選手(福岡108期)は強いので私ももちろん意識をしており、私よりも後ろの位置にいたので児玉選手の動きを注意しながら仕掛けました。
山口:では詳しくレースを振り返ります。佐藤選手は3番手でレースを進めていきました。打鐘あたりから前の二人とは車間をあけていましたよね。それは作戦だったんですか?
佐藤:そうですね。前が詰まっていると気持ちにも余裕がなくなります。「車間をあけても前は捕まえられる」と自分の脚に自信もあったのであけていました。
車間をあけると後ろの選手にもプレッシャーになるんです。そういう意味もあり車間をあけていました。
山口:児玉選手の仕掛けにあわせて捲りにいく、というのも想定していたんですか?
佐藤:はい。後ろの選手がいつ仕掛けてくるかはわからないのでいつでも捲れる準備はしていました。もし来なかったら自分が勝てるタイミングで踏み出そうと思っていたら、ちょうど児玉選手が捲ってきていたのであわせて出ていきました。
山口:児玉選手の捲りは佐藤選手の真横まで来ていましたが、焦りなどはなかったですか?
佐藤:特になかったです。捲る選手にとっては、3車併走の一番外(児玉選手の位置)が一番きついと思うんです。その展開を想像して走っていたので想定内でした。
山口:余裕を持って1着でゴールできましたか?
佐藤:そうですね。でも最終2センターあたりで接触した音が聞こえた時は集中力が途切れてしまったんですが、もうゴール目前だったので必死に踏み込みました。
山口:この優勝で賞金ランキングでも上位にきましたね。
佐藤:今はナショナルチームの活動があり、なかなか去年のようにガールズケイリンのレースに参加することができない分、今回の優勝は大きな積み重ねになります。また今年も、オッズパーク杯ガールズグランプリが少し見えてきたのかなと思います。
山口:3月にもガールズケイリンコレクション松阪ステージを走っていますが、今回はまた違った選手たちが走るコレクションでした。雰囲気の違いはありましたか?
佐藤:初出場の選手もいて展開が読めませんでした。でも逆にそういうレースの方が自然体でいられたので、私は走りやすかったです。
山口:ビッグレースの優勝は昨年の競輪祭での3日制『ガールズグランプリ2020トライアルレース』がありますが、今回は単発レースでの優勝です。何か違いはありますか?
佐藤:単発レースは今まであまり良い思い出はありませんでした。私は普段のレースもそうですが、3日間のレースで最後の決勝へ向けて調子を上げていくタイプだと思います。予選2日間の反省を決勝に向けて改善していく、というイメージですね。なので1日で全部出し切る単発レースは、今まで戦略や調整の部分でもうまくできませんでした。
でもナショナルチームでの活動を通して自分の脚力に自信がつき、3日間の『グランプリトライアルレース』で優勝するという結果が出たことでその自信が深まりました。私の中で、ガールズグランプリに出場が決まった以上の価値のある優勝でした。トップ選手が集まるグランプリトライアルで優勝できた事で「自分の脚力がトップ選手に追いついてきた。同じステージで戦える」と思えました。
それがあったから「今後のコレクションなどの大きなレースも優勝できる」という自信もつきましたし、今回の優勝に繋がっています。でもその優勝もナショナルチームに参加しての脚力アップなので、全てが繋がっていますね。
山口:なるほど!ではここからはナショナルチームのお話を伺います。先日の香港での『UCIトラックネイションズカップ』ですが、佐藤選手も出場されたんですよね?
佐藤:はい、私も走りました。でもハロン(200mの助走付きタイムトライアル)のタイムも目標には届かず、本番特有の緊張感に負けてしまったと感じています。課題や反省点もたくさん見つかりましたが、手応えもありました。
山口:具体的にはどんなことですか?
佐藤:スプリントという1対1で走る種目に出場しました。ゴールに先着した方が勝ちで基本的には2本先取です。でも「1/8決勝」は1本取れば勝ち上がりとなっており、私は国際大会では初めての一発勝負を経験しました。
しかも運が悪いことに、くじ引きで苦手な先行側(インコース)になってしまったんです。私は後ろから攻める方が得意なので先行側は苦手意識があったんですが、落ち着いて冷静に走ったら勝てたんです!「苦手な前からの攻めでも勝てた」という自信になりました。
次の「1/4決勝(準々決勝)」は太田りゆ選手(埼玉112期)との対戦でした。太田選手は全日本トラック選手権でもスプリントを優勝していてとても強い選手なんです。私は今まで1本目は勝てても2本目は取れず、最終的に3本目も取られて敗退というのが多かったんです。今回も1-1で3本目を迎えましたが、「1/8決勝」を苦手な先行で勝てたという自信を持って走った結果、太田選手に勝つ事ができました。
ガールズケイリン選手としても、ナショナルチームの先輩としてもすごく尊敬している太田選手にスプリントで、人生で初めて勝ててすごく嬉しかったですし、自分の成長も感じられました。
その後の「1/2決勝(準決勝)」では小林優香選手(福岡106期)に負け、「3,4位決定戦」では梅川風子選手(東京112期)に1-1で3本目を取られて負け、4位でしたが、大きな収穫、成長を感じられた大会でした。
山口:12月にインタビューをさせていただいた時には「ハロンのタイムが縮まり成長を感じられた」と仰っていましたが、それ以外に戦略面でも成長があるんですね。
佐藤:まだ私は技術的に足りないことも多く、特にスプリントは駆け引きや技術が必要な種目なので、1本走っては勉強、また走って勉強と、日々学ぶことがあり新鮮です。ナショナルチームの他の選手に比べてダッシュ力も足りないし自信もないので、それを日々の練習で成長し少しでも追いついていきたいです。
山口:ナショナルチームの活動も約1年ですが、多忙なスケジュールや体調管理などは慣れましたか?
佐藤:体調管理が実はまだまだ苦手です。自分で良い感触だと思ってもタイムなどの結果が出なかったこともありました。オーバーワーク気味みたいです。自分の限界値が見えていないからやりすぎてしまう。そこは未だ勉強中ですね。それができての一人前だなと思います。
山口:今後国際大会に出場する時には、シビアに自己管理が必要なんですね。
佐藤:はい。今回の香港大会でのPCR検査やスケジュールなどがかなりシビアでした。それを経験した分、今後のガールズケイリンの単発レースもプレッシャーに感じないかもしれない、と思いました。とても貴重な経験だし、それを覚えていって今後ガールズケイリンにも活かしたいです。
山口:そのように、苦しかった経験も次にプラスへ繋げて考えられるのは素晴らしいですね。
佐藤:脚力などはまだまだ自信を持てていないし、それは考え方としてはマイナスだと思うんですが、その分プラスに切り替えていける時はそうするようにしています。
山口:ナショナルチームでの今後の目標は何ですか?
佐藤:次の大会がいつになるのかはまだわからないので、明確な目標はないんです。でもまずはタイムですね。ハロンの世界トップレベルのタイムが10秒1なので、まずは小林優香さんが持っている日本記録の更新を目指して高めていきたいです。
今回の香港大会ではスプリントとケイリンの2種目に出場しどちらも4位でした。3位と4位だと表彰台に上がれる、上がれないの差があり、たった1つですが大きな差です。表彰台に毎回上がれる選手になることを目標に頑張りたいです。
山口:ではガールズケイリンの目標はいかがですか?
佐藤:次走は6月10日からの松山G3の4日制に参加します。初めての4日制で、挑戦の気持ちも込めて完全優勝を目標にしました。それが達成できたら一番良いんですが、しっかりと4日間自分の力を出して戦いたいです。
山口:メンバーも強力ですね。女王・児玉碧衣選手、同期では柳原真緒選手(福井114期)もいますね。
佐藤:京王閣のコレクションで児玉選手に勝ったことがマグレと言われないように、皆さんにも認められるような走りができるように頑張りたいです。
山口:でも先ほどのお話では、単発レースより3日間かけて調子を上げる方が得意とありました。期間が長い方が佐藤選手にとっては良いのでは?
佐藤:4日制が初めてなので、3日間の調整と同じで良いのかがわからず今は心配もしています。でも条件は参加選手みんなが一緒ですし、私だけが弱音をはいていられません。これからもガールズケイリンのビッグレースや国際大会に参加するのであれば、キツイ状況は出てくると思うのでそれに備えて、しっかりと調整し良い結果を残したいです。
山口:年末へ向けての思いはいかがですか?
佐藤:ナショナルチームのスケジュールでガールズケイリンのレースへの参加が減り、昨年のように賞金の積み立てができません。なのでコレクションの優勝賞金は大きい積み立てですが、まだ明確にはガールズグランプリは見えていないですね。
今斡旋が入っている目の前のレースで勝つしか賞金ランキングを上げる方法がありません。失敗がないようにというプレッシャーもありますが、今は、6月の松山と青森を大切に走りたいです。
山口:ありがとうございます。それでは最後にオッズパーク会員の方へメッセージをお願いします。
佐藤:いつも応援してくださってありがとうございます。日本でレースを走る姿をお見せする機会は少なくなってしまいましたが、走るたびに強くなっている私を見せられるように、これからも練習を一生懸命頑張ります。これからも応援よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
-------------------------------------------------------
※写真提供:公益財団法人 JKA