東京オリンピック、日本代表に内定した脇本雄太選手(福井94期)。オリンピックの延期が決まったときは自転車競技ナショナルチームから離れることも頭をよぎったと言います。しかし、気持ちを立て直し、迎えた高松宮記念杯競輪では、自身2度目のGI完全優勝。日本代表に加え、競輪界を代表する脇本選手に高松宮記念杯競輪の振り返りとオリンピックに向けて、そして、これからの抱負も伺いました。
星野:高松宮記念杯競輪は完全優勝おめでとうございます。
脇本:ありがとうございます。
星野:昨年末の競輪グランプリ以来、半年振りの競輪でしたが、振り返っていかがですか?
脇本:体の面での調整は問題なかったんですが、半年空くことが今までなかったので、初日は競輪に対する気持ちの整理がついてなかったですね。
星野:気持ちの整理とは、具体的にはどういうことですか?
脇本:競技と同じ感覚で走って、日本の競輪で勝てるかといえばそうではないので、そこをどう結びつけるのか、戦略的なものが噛み合ってなかったんです。でも、一走して修正は出来たと思います。
星野:脇本選手が競輪から離れている間に、ビッグレースでタイトルを獲り続けていたのは、中国地区の松浦悠士選手(広島98期)と清水裕友選手(山口105期)でした。この活躍はどうご覧になっていましたか?
脇本:自分もその場で走りたいなと思っていました。なので、初日から対戦出来たのは良かったですね。レースが終わってから、松浦とお互いにこんな風に走ろうと思っていた、なんて話をしました。そんな時間が改めて、日本の競輪を走っているんだなという実感になりました。それに、松浦は向上心がすごいんです。どんな練習をすればいいのかといった話もよくします。平原さん(平原康多選手・埼玉87期)もなんですが、自分の練習をやりつつ、ナショナルチームの練習も取り入れたりして、さすがだなと思います。
星野:そして、近畿勢との連携も久々だったと思いますが。
脇本:競技のように一対一ではないので、どうやったらラインで決まるのかと思って走っていました。近畿勢もたくさん勝ち上がっていて、別線になることもありましたが、それは嬉しいこと。今後、GPに向けても近畿から一人でも多く出場するにはどうしていったらいいのか、これも課題になってくると思います。
星野:戦い方としては、2日目以降は先行勝負でした。脇本選手自身、大きな舞台でも先行で戦っていらっしゃいますけど、その辺りはいかがですか?
脇本:先行して逃げ切るというのは難しいことですが、自分の中で「武器」はこれしかないと思っています。僕から見れば、松浦みたいに自在な立ち回りが羨ましいです。でも、いつまでもこの武器が通用するとも思っていませんし、いつかはここにケリをつける日が来ると思います。体力の限界もあるので、後3年くらいですかね?
星野:3年ですか?今のパワーからすると、短いような気もします。
脇本:それだけ、一走一走、限界まで力を出しきって戦っているってことです。それに、自分自身、村上さん(村上義弘・京都73期)に憧れているところもあるので、何でも出来るようになりたいという所を見据えてます。村上さんは自力でも、誰かの後ろを回る時でも器用に走っているし、切り替えも出来ている。僕の最終的な目標ですね。
星野:その目標とされる方が同じ近畿地区にいらっしゃるというのも大きいですよね。
脇本:そうですね!プライベートでも交流がありますし、開催も一緒になったら色々な話もさせていただけます。また連携するのも楽しみにしているんです。
星野:そして、GIの完全優勝についてはいかがですか?
脇本:GIで優勝したいって気持ちはありましたが、特に完全優勝には意識がなかったですね。今回は決勝戦を走った後、敢闘門に戻った時に、周りはおめでとう!って空気じゃなかったんです。どちらかと言えば、お疲れ様!って感じでした。強すぎだろ!って言葉もありました。
星野:それは、場内(スタンドにある特設スタジオ)から見ていても同じ空気でした(笑)祝福というより、静まり返ったような...本当に強すぎる!の一言でした。
脇本:そうだったんですね(笑)でも、僕自身も同じ気持ちだったかもしれません。オリンピックでメダルを獲ることが当面の目標なので、初めてGIで優勝した時のような気持ちではなかったですね。それだけオリンピックにかけているんですよ。
星野:そのオリンピックが延期となったときはいかがでしたか?
脇本:一時は代表から身を引くことも考えました。でも、恩師のブノワ(ブノワ・ベトゥ短距離ヘッドコーチ)から掛けてもらった「強くなるために一年の猶予をもらえたんだ」という言葉が胸に刺さり、高松宮記念杯競輪で新たな一歩を踏み出す気持ちになりました。
星野:競技と競輪を両立させるために、今はどんなメニューで取り組んでいらっしゃるのですか?
脇本:やはり競技の練習がメインなんですが、競輪が近くなればその練習を取り入れたメニューをナショナルチームに提案しながらやっています。効率重視のメニューですね。でも、そのメニューを最大限に取り入れる、力に変えるにはどうすればいいのかは日々考えながらやっています。
星野:オリンピックとなるとその全力で取り組む日々が4年という長期にもなりますし、継続していくのは並大抵の事ではないと思います。すごい精神力だなとも思うのですが、支えになっているものはなんですか?
脇本:オリンピックでメダルを獲る事への執着心ですね。すごく泥臭いですが...。ナショナルチームに入れば簡単に強くなれる気がするんですが、それなりの覚悟がいるんです。そこを継続させていこうと思えば、支えは他人ではなく自分自身の気持ちだと思います。
星野:そういった姿や気持ちが、オールスターファン投票2年連続一位に繋がっているのかと思います。
脇本:びっくりしています。投票期間に競輪を走っていませんでしたし、その間に活躍していた中国勢が票を集めると思ってましたから。オールスター競輪はオリンピックと同じ時期だったので、万全の状態で望みたいと思っています。
星野:また、静まり返るくらいの強いレースを待っています。では、最後にオッズパークの会員の皆様へメッセージをお願いします。
脇本:今年のオールスター競輪の舞台は昨年と同じ名古屋競輪場なので、昨年のリベンジと思って走ろうと思います。今度こそ優勝目指していきます。そしてオリンピックでは更に強くなった姿を見てもらいたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 星野めぐみ(ほしのめぐみ)
大阪府出身。タレント、アナウンサー、競輪キャスターとして活躍中。
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※写真提供:株式会社スポーツニッポン新聞社