自転車競技の日本代表としてパリオリンピックに出場した佐藤水菜選手(神奈川114期)。その後の平塚競輪での女子オールスター競輪では完全優勝と強さを見せたレースになりました。オリンピックと女子オールスター競輪の振り返りと、今後についてもお話を伺いました。
山口みのり:パリオリンピック、女子オールスター競輪とお疲れ様でした。そして女子オールスター競輪では優勝おめでとうございます。
佐藤水菜選手:ありがとうございます。
山口:ではまずはオリンピックについて伺います。事前にフランスで合宿をされていたようですが良い感触で入れましたか?
佐藤:はい、タイムも出ていたし、ストレスも排除できるように自分の中でも準備していたので問題なく入れました。
山口:中継を見ていたのですが、タイムを期待されている選手の一人でしたね。
佐藤:機材の進化をすごく感じていました。バンクもすごく軽くて「ここならワールドレコードが出るバンクだな」と多分みんなが感じていたと思います。私の感覚では、自己ベストを0,2秒は上回るな、上回らないとだめだなと思っていました。それだけコンディションが良かったです。男子を見ていても感じたので、自分の持っている日本記録の更新は当たり前だなと思っていました。
山口:大会を通してレースを見たのは私は初めてだったのですが、すごくテンポよく進んでいくんですね。
佐藤:今回のオリンピックはあれでもゆっくりと何日かに分かれてレースをしていました。本当だったら1日に4~5走するんです。だから私はちょっと苦手なタイプの日程だったんです。1日でやりきる方が得意なんですよ。
山口:そうだったんですね。初めてのオリンピックはどんな気持ちで臨まれましたか?
佐藤:レースはいつもと同じだから特に意識はしていませんでした。ただチームで自分にとって不利になることを取り除けなかったので、良いパフォーマンスを出せた日もありますが、そうじゃなかった日もあったので、終わった今の感想としては悔しさが勝ります。
山口:そうでしたか。
佐藤:自分の精神的な弱さがすごく出てしまいました。今後、競技に対してどうしていくかを考えさせられる大会になりました。
山口:まずはケイリンが始まりましたね。
佐藤:はい。ケイリンの初日とスプリントの初日は、メンタル的にも良い状態でレースを迎えられたんですが、それ以外ではそうではありませんでした。コーチに相談をしたんですが、いろんな問題があり私にとってはすごくやりにくい環境になってしまいました。しかもそれは今後もついて回るものなんです。自分で努力して改善はできない部分のため、今後チームとしてどうしていくか、話し合う必要があります。
山口:対戦相手どうこうではなかったんですね。
佐藤:そうなんです。
山口:スプリントではハロン(200mTT)で日本記録と一時的ですがオリンピック記録も更新されました。先ほど仰っていたように記録ラッシュでしたね。
佐藤:タイムが出る良いバンクでした。予選を突破するには10秒5は切らないといけないと思っていました。
山口:予選を突破され1回戦はタイム差がある選手との対戦になるんですよね。
佐藤:はい。さっきも言いましたが1回戦は良いコンディションでレースを迎えられたので、万全な体制で自分のパフォーマンスを出し切れました。
山口:2回戦の相手は東京オリンピックの金メダリスト、ケルシー・ミシェル選手(カナダ)でしたね。
佐藤:そうですね。以前スプリントで対戦をしている選手だったので私にとってはリベンジのレースでした。しっかりと勝ち切れて、レースも作れたので良かったです。
山口:日をまたいで3回戦がエマ・ヒンツェ選手(ドイツ)との対戦でした。
佐藤:その日が自分のさっき言った精神状況がすごく悪い日だったので、走るときには動揺もあり相手に自分の弱い面を見せた形になってしまい負けて悔しかったです。自分でも「ここが山場だな」と思っていたので、勝てなかったことについては「この状態だとやっぱり勝てないよな」と思いました。
山口:悔しい結果でオリンピックが終わったとのことですが、すぐ平塚でのレースがありました。切り替えはできましたか?
佐藤:はい。女子オールスター競輪については自分の精神的な問題は全くない環境だったので、なんならオリンピックより良いパフォーマンスができるんじゃないかと気合いを入れていきました(笑)
山口:そうでしたか(笑)日本のファンの皆さんは嬉しいですよ。
佐藤:今までオリンピックに向けて競技に専念している中で、ドリームレースに選んでもらって走らせてもらえるので、ここは逆に優勝しないとだめだなと思って走りました。
山口:オリンピックを総括するといかがですか?
佐藤:今後の競技人生を、すごく考える大会になりました。
山口:「自転車競技が好きだから短距離だけに絞る訳ではない」という記事を見ました。中長距離という選択肢もあるんですか?
佐藤:私は自転車競技が好きなので続けたい気持ちは大きいです。でもさっき言った自分自身の問題で、練習環境は変えられない。競技を続けたい理由は好きだからですが、競技を続けられない理由も同じところにあります。自分の人生を考えたときにどっちにいくかで大きく変わる、そんな局面にいます。
山口:さて、オリンピックが終わり、帰国して空港から平塚競輪場へ直行でしたね。
佐藤:到着して、空港に妹弟子の高木佑真(高木佑真選手・神奈川116期)が迎えに来てくれていました。フランスへ行くときも見送ってくれたんです。彼女の顔を見た瞬間に全ての嫌なことが癒され、良い気持ちで競輪場へ入ることができました。競輪場へ着いてからも、朝イチなのに同期の日野未来選手(奈良114期)と柳原真緒選手(福井114期)が出迎えてくれました。そこからは嫌なことは全て忘れて前向きな気持ちで走れました。
山口:そう言えば、豊岡英子選手(大阪114期)がパリへ応援に駆けつけていたんですね。
佐藤:そうなんですよ。会えなかったんですが、来てくれているのを知ってめちゃくちゃ愛を感じました。すごく嬉しかったです。ケイリンの日はだめでしたが、スプリントの初日は見に来てくれて良いところを見せたいなと頑張れました。
山口:同期の愛ですね。では平塚でも同期3人で過ごしたんですね。
佐藤:日野選手とは指定練習も一緒にしました。ダッシュも一緒にしたときに彼女のダッシュ力にびびりましたよ、今ガールズで一番強いんじゃないかと思います。すごく努力もしてると思うし気持ちも強い。しかもギャンブルも好きだから、お客さんの気持ちもわかる。それが良い方向にいかされていますよね。一緒にもがかせてもらった時に力強さを感じて焦りました。レースでも強気なレースをしていたから「展開次第では負けるな」と思いました。
山口:そうだったんですね。まずはドリームレースでしたが想定はしていましたか?
佐藤:セッティングを合わせていなかったので、練習でサドルの高さを調整しました。でもそこは今まで自分でやってこなかったので実は調整を失敗したんです。レースを終えてから「走りにくそうだったね」って言われました。自分でも周回中にそれを感じていたので、特に組み立ては決めていなかったけど、一瞬の勝負だなとは思っていました。
山口:スピードもすごく乗っているように思えましたが、実はそんな感じだったんですね。
佐藤:はい。1着だったので言える話です。
山口:続いて準決勝は佐藤選手の前で、残念ながら落車がありました。
佐藤:落車が起きる前に外に膨らんでいたので「内にきりこんでいこうかな」と思ったんですけど、「そんな甘いことはしちゃいけない」と思いとどまった時に落車がありました。落車があった後は焦って仕掛ける選手が多いので、逆に自分は落ち着いて一息入れてレースに向き合おうと思いました。冷静にいられたし、最終バックストレッチからは自分のタイミングで捲りに行けました。
山口:最後に決勝戦を振り返りお願いします。
佐藤:気持ちが高ぶっていたのでスピード良くいけたけど最後は失速しました。結果として優勝できたので良かったです。同期で日野選手も決勝に乗っていたので同期1、2なら一番嬉しかったですね。もう一人の同期の柳原選手は準決勝で落車してしまったけど、それがなければ決勝に乗っていると思ったから私は悔しかったし、その思いを私は背負って走っていました。日野選手も、話してはいないけどきっとそう思っているんだろうなと。その分も二人で力を出して優勝争いをしたいなと思っていました。
山口:久しぶりにお客様の前でのガールズケイリンのレースを走っていかがでしたか?
佐藤:あんなに暑い中、たくさんの方が来てくださっていたので「暑いよね、大丈夫かな」と心配しました。私でもレースの3分間という短い時間ですらしんどいのに、見に来てくれている方は昼間から長い間外で見てくださっていますしね。
山口:応援も受けての3連勝でした。終わってすぐは小田原記念(GIII)でトークショーがあったんですよね。
佐藤:すごくたくさんの方が見に来てくださいました。その日も暑くて、私もロードレースで行く予定が暑さで断念しました。でもそんな暑さも吹っ飛ばすくらいの声援をもらいました。「直接声が聞きたかったから来たよ」という声があったり、私もナショナルチームや今後の話を直接することができて、パワーをもらいました。
山口:SNSではラーメンを食べたという投稿を拝見しました。他にも解禁したものはありますか?
佐藤:食事などは個人管理なので別に食べても良いんですけど、私は過去に悔しい思いをしたからかなり厳しく食事は管理をしていました。もともとの食生活が悪かったので、そこからすごく気を付けていたから、オフになってその反動で毎日ラーメンを食べていました。ポテトチップスとかも久しぶりに食べましたね。でもラーメンが一番でした。
山口:もともとラーメンは好きなんですか?
佐藤:好きです。だから制限していたときは動画を見たりしていました。実際に食べて幸せでした。
山口:気持ちの面でもリラックスはできましたか?
佐藤:はい。オフは一日の半分くらいは寝ていました。暑いのが苦手なので外に出る元気もなく、毎日寝て過ごしてました。
山口:それまで世界中でレースをしていたんですもんね。
佐藤:はい。なのでオフは満喫した、というよりも寝ていましたね。
山口:今の練習拠点は伊豆なんですか?
佐藤:はい。先日から練習が再開しています。決められたメニューでずっとやっています。
山口:今後のナショナルチームの活動については言える範囲でどのような予定ですか?
佐藤:次のロサンゼルスオリンピックまで継続するかはまだ決めていません。でも10月にある世界選手権は出る予定です。そこで金メダルを取ればガールズグランプリは出られるはずなので、頑張りたいです。そこで決められたら最高ですね。
山口:そうなんですね。11月の競輪祭女子王座戦(GI)だけじゃないんですね!
佐藤:そうなんです。でも実際世界選手権で金メダルを取るのは、ガールズグランプリを優勝するよりももっともっと難しいと思うので、頑張りたいですね。
山口:今の目標は何ですか?
佐藤:まだまだノープランなんですよ。今のところは9月前半の全日本自転車競技選手権ートラックに出るというのはパリオリンピックを走る前から決まっていたので、そこを目標にしているくらいです。
山口:まずはそこなんですね。
佐藤:はい。その後に競技を続けるかどうかを少しずつ考えたいかなと思います。
山口:ガールズケイリンの予定は9月14日からの前橋ナイターが入っていますね。こちらは予定通り走りますか?
佐藤:はい。ここは走る予定です。
山口:では最後にオッズパーク会員の皆様へ、前橋へ向けての意気込みをお願いします。
佐藤:もしかしたら女子オールスター競輪よりも疲れがたまっている可能性もありますが......一生懸命優勝を目指して走るので、応援に来てくれたら嬉しいです。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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