長きに渡り競輪界のトップクラスに名を連ねるものの、GPは2006年の京王閣を最後にケガの影響もあって13年間遠ざかっている。しかし、今年、共同通信社杯直前の賞金ランキングは第4位。油断はならないものの、ほぼ年末の大一番の切符は掴んだ、といってもいいだろう。自力全盛の時代の中で、追い込み選手としてのプライドを持ちながら、佐藤慎太郎選手は今、どのように考え、そしてどこを目指していくのか?じっくりとお話を伺いました。
橋本:月並みですが、まず、今年ここまでを振り返っていかがでしょうか?
佐藤:今年急に良くなって結果が出ているのではなく、3年くらい前から新田(祐大選手)のスピードに対応するための練習はしていて、去年ぐらいから少しずつ成果が出てきたかなぁ、というそんな手応えはあったんです。
橋本:具体的にはどんな練習の取り組みをされたのですか?
佐藤:普段は追い込み選手としてレースには臨んでいるんですが、もう練習の時は自力選手になったつもりでやってますね。
橋本:ということは、かなり長い距離をもがく様な、そんな感じですか?
佐藤:そうですね。練習では、もう人の後ろについて抜く感覚を、みたいなことは一切やらないですね。自分の脚力をひたすらあげるような、そんなトレーニングばかりしています。
橋本:やはり、今の競輪の流れだと最終的にはタテ脚勝負みたいな話になってくるんですか?
佐藤:結局のところ、今の競輪っていうのは追い込み選手がいなくても成立する競輪だと思うんです。だから、自力の選手の後ろに自力選手がついてもレースとして成立しちゃうんで、その流れに対応するには、自分も自力で勝負できる脚が必要だと思いますね。
橋本:そんな中で、今追い込み選手としてレースで果たせる役割って何だと思われますか?
佐藤:まずはやっぱり競走で車間を斬って、ブロックを決めてワンツーするってことじゃないですか。前を走る選手の信頼を勝ち取るのは口であーだこーだいってもレースしかないんですから。やっぱり、漢字の競輪って言うか、俺はそういう人間っぽいのが好きですね。
橋本:そういう意味でいくと、まさに先日のオールスターでは、北日本の人間っぽさっていうのを凄く感じました。
佐藤:そうですね。壱道(菅田選手)だって、ポッと出てきた選手じゃないですし、自分が勝つレースを選んでも何もおかしくないと思うんですよ。そんな中で、ああいった捨て身の先行を見せたということはもの凄く意味のあることだと思いますね。
橋本:あの時の並びはスンナリ決まったんですか?
佐藤:最初は一成(渡邊選手)が前で走るって言ったんですよ。「新田に気持ちよくオリンピックにいってもらいたい」みたいな話はしてましたね。だけど、それは壱道がやるってことになったんで。
橋本:今のお話を伺ってると、かなり北日本の中でも以前の雰囲気と変わってきているような気がするんですが
佐藤:そうですね。以前は、みんなやっぱり能力が高いんで、自分が勝つレースをっていう意識が強かったような気がしますね。北日本で別線勝負なんてこともありましたし。ただ、やっぱりGIなんてみんな強いんだから、やっぱりラインの力がないと、そうそう簡単には勝てないですよ。
橋本:青森記念でも、藤根(俊貴)選手が男気を見せましたしね~
佐藤:藤根あたりはしばらくは発進役でしょう(笑)これまで新田や一成がやってきたこと、響平(新山選手)がやってきていること、それを藤根や高橋晋也(115期、8月大宮で特別昇班、現A級2班)が受け継いでいってくれたらいいですね。
橋本:近畿地区なんかはそういうところが本当にうまく回っているような感じがしますよね。
佐藤:そうですね。以前から本当に近畿の戦い方を見ていると正直羨ましかったですね。だけど、今、北日本地区の流れも、それに近づきつつあると思いますよ。今が序章ですね。
橋本:いやぁ、それにしてもこのままいけば13年ぶりのグランプリですよ。
佐藤:去年の賞金ランキングをみると、もう大丈夫かなというのはありますけど、まだ、ビッグレースは3本残っていますし、油断はできないですね。
橋本:奈良の全プロでしたっけ?大怪我されてからの紆余曲折を知っているだけに僕も感慨深いものがあります。
佐藤:あの時は、もう医者から走れないんじゃないかって言われてましたからね。もう、走れるだけで喜びを感じていましたよ。
橋本:そこから、再び最高峰のステージに戻って結果を出し続ける大変さを考えると、本当に頭が下がります。今年、佐藤さんは43歳になる訳ですが、年齢的なものを感じることはありますか?
佐藤:それは全く感じません!(笑)練習も普通にやっていますしね。ただ、強いて言うならば、かなりハードな負荷をかけた練習をやった時なんかに痛みがでて、それがしばらく続く、というようなことはたまにあって、それは老いかな?なんて思ったりすることもありますが(笑)
あと、打ち上げで若い奴と飲んでたりすると、自分はオジサンになったな、というのは正直あります(笑)
橋本:それは旬の話題とか、そんなのですか?(笑)
佐藤:それもありますけど、もう飲みに行ってても11時半くらいには眠くなってきて、12時には布団に入りたくなってくるんですよ。昔は、有坂(直樹)さんとかいましたからね~。朝までコースなんてのはざらにあったんですけど、もう、それはなくなりましたね。そこもホントは若い奴に負けたくないんですけど、最近はもう、それは負けてもいいのかな、と思えるようになってきました(笑)
橋本 そこまで若い選手に勝っちゃったら、もう大変ですよ。
佐藤:でも、上には上がいますからね~。やっぱり神山(雄一郎)さんなんかは、現役だしライバルだから言いたくないですけど凄いですよ。何より「俺は神山だ」というのがないんですよね。今でも、若くて強い選手に近づいていって「どんな練習やってるの?」なんてやってますからね~。変なプライドがあったらそんなこと絶対にできないですよ。
橋本:あれだけタイトルを獲ったのに、まだまだ強くなりたい、勝ちたいという欲求が衰えないっていうのは本当に素晴らしいですね。その点では佐藤さんも負けていないんじゃないですか?
佐藤:以前、お客さんから『「どんな展開になっても1着を狙いにいきます」って以前どこかのインタビューで話したことに感激した!』という手紙をもらったことがありました。絶対にどんな展開になっても諦めない、勝ちにいく、これは生涯貫いていきたいですね。
橋本:佐藤選手は車券では確実に外せない選手です!
佐藤:そう思ってもらえるのが本当に嬉しいですね。競輪選手はそうじゃないと(笑)その気持ちがなくなったら終わりでしょう。45歳でGIを獲った、松本整さん(H16高松宮記念杯)の記録を塗り替えるというか、そこを目標に、うん、目標はそこですね。そこということにしておいてください(笑)
橋本:分かりました(笑)では、最後に共同通信社杯に向けて一言お願いします。
佐藤:とにかく、どんな開催であろうと1戦1戦ですね。とりあえず、決勝に乗るとかそういうのは勝ち上がっていった結果だと思うんで、まずは一つ一つ1着を目指して頑張りたいと思います。
橋本:ありがとうございました。
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※インタビュー / 橋本悠督(はしもとゆうすけ)
1972年5月17日生。関西・名古屋などでFMのDJを経て、競輪の実況アナウンサーへ。
実況歴は18年。最近はミッドナイト競輪in小倉を中心に活動中。
番組内では「芸術的なデス目予想」といういいのか悪いのかよく分からない評価を視聴者の方から頂いている。
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※写真提供:株式会社スポーツニッポン新聞社