9月26日に行われた、ばんえい競馬の4歳シーズン三冠の二冠目、銀河賞は、7→10→6番人気という決着で、3連単は100万8700円の大波乱となった。
ばんえい競馬の重賞では、2017年2月12日黒ユリ賞(勝ち馬:キタノミサキ)の213万6910円が最高配当で、次が2013年11月24日ドリームエイジカップ(勝ち馬:トレジャーハンター)の163万6860円、今回の銀河賞は重賞ではこれらに次ぐ3番目の高配当だったとのこと。ちなみにばんえい全レースでの最高配当は、2019年4月29日第1レースの284万4100円となっている(いずれも賭式は3連単で、五重勝・七重勝式は除く)。
銀河賞は、なぜそれほどの高配当になったのか振り返ってみたい。
ひとことで言えば、"人気薄の逃げ馬"ということになるだろう。ただ平地の競馬で"人気薄の逃げ馬"といえば、人気のない逃げ馬が単騎で逃げて、それを軽視した人気馬たちが互いに牽制しあって逃げ馬をとらえきれず、というもの。しかし今回の銀河賞でそれとはちょっと異なるのが、人気薄の先行馬複数が逃げ切ってしまったということ。これはばんえい競馬特有のセパレートコースがひとつ要因となったと考えられる。
レースが終わって、結果と枠順を見て、ハッ!と気づいた。今回、人気を集めた近走の実績馬4頭が、7〜10番の外枠に固まっていた。一方で先行してそのまま行ききってしまった人気薄上位3頭は1〜3番だった。
ばんえい競馬は、なんとなく見ていると第2障害からが勝負のように思えるが、本質はそうではない。
もう何年も前、元騎手で引退後に亡くなられた鈴木勝堤さんから現役のときに聞いた話が強く印象に残っている。
曰く、「第2障害の手前に着いた時点で、八割方、勝負はついている」と。
勝堤さんは、ときに大げさな表現を使うこともあるので話八分としても、第2障害に到着するまでに、相当に騎手同士の駆け引きが行われているということだ。
第1障害から第2障害の間では、騎手は自分の馬の脚色や手応えだけでなく、相手の馬の脚色や手応えも見ながら、息を入れたり刻んだりしている。そしてどれだけ余力を残して第2障害を仕掛けていけるか。それが勝敗を大きく左右する。
我々見ているファンとしては、第2障害をひと腰で越えたか、二腰、三腰かかったか、もしくはヒザを折ってしまったか、などで一喜一憂することがほどんどだが、じつはそれはレース全体のほんの一部でしかない。
それで先に触れた今回の枠順だ。
人気の実績馬が外枠のほうに4頭。第2障害までの中間点では、当然、近くにいる相手がライバルと思い、互いを意識することになる。
一方、すいすいとレースを引っ張ったのが、人気4頭からはやや離れた3番ヤマトタイコーの渡来心路騎手だった。2番フォルテシモも、これに連れられるように動いていった。
外枠人気馬の騎手たちも当然その動きを見てはいただろうが、しかしライバルは近くにいる。それだけに第2障害で仕掛けるタイミングも難しかったのではないか。
ヤマトタイコーの渡来騎手は、人気の一角ゴールドハンターが第2障害の下に到達する前のタイミングで仕掛けていった。そして難なくひと腰で越えたが、手前の人気馬たちの動きを見ていると、これはいかにも早仕掛けに見えた。
しかしそれは人気馬たちを中心に見ていたからであって、このときのやや軽い馬場(水分量2.2%)ではそうではなかった。ヤマトタイコーに、フォルテシモも続いた。この2頭の先行勢が早すぎたのではなく、結果論ではあるが、人気有力勢が溜めすぎた。
ひとつ誤算があったとすれば、断然人気キョウエイリュウが障害でヒザをついてしまったことか。もしひと腰なら3番手のコウシュハボブと同じようなタイミングで越えていたはず。ただそれにしても楽に逃げ切ったヤマトタイコーをとらえるまでは難しかったと思うが。
人気馬の中では第2障害でおそらく最後に仕掛けたゴールドハンターが、障害を越えてからの自慢の末脚で4着まで押し上げた。それでも先行勢をとらえきれなかったのは、やはり人気有力勢は互いを意識しすぎて仕掛けるのが遅かった、という結果ではなかっただろうか。
そしてもうひとつ。世代限定の重賞で50kgも60kgもハンデ差がつくと、ハンデを背負った馬たちはよほど能力差がないと勝ちきるのは難しい、ということもある。
逆にいえば格付けの妙で軽ハンデとなった馬が狙い目となる。今回でいえば3着のフォルテシモは、B1を連勝してもなお今回B1格付けで、牝馬の20kg減もあってトップハンデのカイセドクターとは60kg差の690kg。ただ勘違いしないでほしいのは、ハンデ差が大きいときに単純に最軽量の馬を狙え、ということではない。フォルテシモはここ7戦ですべて3着以内の好走。現在の格付け以上に力をつけていたと考えられる。
また、勝ったヤマトタイコーは、ばんえいダービー2着、柏林賞3着という重賞実績があっても人気がなかったのは、近走の着順からだろう。しかし過去の重賞実績で賞金を稼いでしまった馬は、実際の能力以上のクラスに格付けされたことで、自己条件では惨敗が続くということはある。それが今回は同世代同士の対戦となって、カイセドクターより30kg軽く、またキョウエイリュウより20kg軽い720kgは有利だった、と考えることができる。
ちなみに、予想で△を付けたフォルテシモ、▲のヤマトタイコーについては、予想の段階でもそのようなことを書いていた。
ところが今回、そうした理屈も及ばないほど激走したのが、2着のコマサンダイヤだった。近走の成績からA1格付けの730kgではいかにも厳しい。それゆえの最低人気だったのだろう。しかしそのコマサンダイヤにしても、イレネー記念、ばんえい大賞典という同世代同士の重賞で2勝という実績があった。
余談にはなるが、同世代同士の重賞で50kg以上のハンデ差があっても勝ちまくったのが今年9歳のセンゴクエースだった。4歳時のポプラ賞、銀河賞、5歳時のポプラ賞では、いずれも最大60kgのハンデ差をものともせず、いずれも完勝。センゴクエースはやはり10年に1頭出るか出ないかという別格の馬だ。
有力馬同士の駆け引きや、微妙な重量差、その上での馬場水分量や、さまざまなことが作用しての100万馬券だった。