地方競馬の各地に根ざした重賞レース名について紹介する第4回(最終回)は、ホッカイドウ競馬とばんえい競馬(過去の回はこちら、第1回、第2回、第3回)。
ホッカイドウ競馬でその地の象徴といえば、赤レンガ記念。『赤レンガ』とは北海道庁旧本庁舎のこと。1888(明治21)年に建てられたレンガづくりの建物は、1969(昭和44)年に国の重要文化財に指定され、見た目のとおり『赤れんが庁舎』と呼ばれ親しまれている。
日本中央競馬会理事長賞という名称で1964(昭和39)年に始まった重賞だが、赤レンガ記念となったのは1988(昭和63)年から。今年が第57回で、ホッカイドウ競馬では道営記念(今年で第63回)に次いで、歴史を重ねた伝統のレースとなっている。
当初は函館や札幌(JRAではなく道営の開催)で行われ、赤レンガ記念となってからも、旭川、帯広、岩見沢、門別で行われたこともあるが、札幌を代表する観光スポットでもあり、門別単独開催となる2010年以前は札幌競馬場で行われることが多かった。
なお札幌観光協会のウェブサイトによると、北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)はリニューアル工事のため2019年10月1日から2022年度まで休館となっている。
旭岳賞の『旭岳』は、旭川市と同じ上川支庁にある火山。旭川の近くということでは、旭川競馬場がある当時に始まったのかとも思ったが、まだ今年で第6回。門別単独開催となったあとに新設された。標高2291mの旭岳は、北海道ではもっとも高い山。そういう意味では北海道のひとつの象徴ともいえる。
そして今年新設されたのが、ウポポイオータムスプリント。今シーズンのホッカイドウ競馬の開催日程が発表されて初めて見た時は、『ウポポイ』って何?と思った。
ウポポイとは、アイヌ文化の復興・発展のため今年オープンした『民族共生象徴空間』の愛称で、一般投票によって決められたもの。新型コロナウィルス感染拡大防止のため開業が延期されていたが、7月12日にオープンしている。
場所は白老町で、新千歳空港から車で約40分。門別競馬場からもそれほど遠くないだけに、道外から門別競馬場に行くという方は、訪れてみてはいかがだろうか。
最後は、ばんえい競馬。
ばんえい競馬の象徴といえば、年に一度1トンのソリで争われるばんえい記念だが、レース名としてばんえい競馬の歴史を伝えるのは、旭川記念、岩見沢記念、北見記念、帯広記念という4つの重賞。
ばんえい競馬は2007年度から帯広競馬場での単独開催となったが、それ以前は旭川、岩見沢、北見、そして帯広の各競馬場を移動しながら行われていた。
その4市の持ち回りで開催されていた時代、それぞれの競馬場を代表する古馬重賞が、それぞれの"記念"レースだった。それゆえもっとも歴史の浅い北見記念でも、今年度の回次が41回という伝統の重賞だ。
ちなみに4市で行われていた当時、旭川記念だけは4歳馬限定の重賞で、古馬重賞は旭王冠賞だった。それが帯広での単独開催となった2007年度からは"記念"レースとして統一する形で旭川記念が古馬重賞となり、旭王冠賞というレース名は廃止された。
現在でも4つの記念レースは、古馬の主要重賞として「4市記念重賞」などと呼ぶ人もいる。
3・4歳混合の重賞・はまなす賞の『ハマナス(浜茄子)』は北海道の花。またWikipediaによると石狩市をはじめ北海道の3市9町の花ともなっている。
個人的なことだが、はまなすといえば、「知床の岬に はまなすの咲くころ」という歌詞で始まる『知床旅情』という歌を思い出す。俳優の故・森繁久彌の作詞・作曲によるもので、のちの1970年代初期に加藤登紀子の歌で大ヒットした。
2歳シーズン三冠の一冠目、ナナカマド賞の『ナナカマド』は、Wikipediaによると旭川市をはじめ北海道の9市17町の木とされている。
ばんえい競馬で忘れてはならないのが、イレネー記念の『イレネー』。日本でも世界でも、顕著な活躍馬の馬名をレース名にしたものはめずらしくないが、ばんえい競馬におけるイレネーは特別なもの。競走歴はなく、1908(明治41)年にフランスから輸入された種雄馬(重種馬では種牡馬ではなく種雄馬という)。家畜改良センター十勝牧場のウェブサイトによると、イレネーは18年間で579頭の産駒を出し、そのうち196頭が種牡馬になった。またその直系の子孫を合わせると、イレネーの系統からは559頭もが種雄馬になったという。
日本の重種馬の改良に偉大な功績を残したことで、帯広競馬場の入口にはイレネーの銅像が建立されている。