2011年1月8日の初騎乗初勝利後、29日には減量特典のない特別戦でも勝利。10月には重賞初騎乗初勝利のほか1日5勝(1日最多勝利タイ)など、ばんえいの新人騎手記録を次々と塗り替えている島津新(あらた)騎手(21)。いずれもばんえいからは4人目となる、2011年度日本プロスポーツ大賞新人賞、NARグランプリ2011の優秀新人騎手賞を受賞。デビュー年にばんえい新人史上最多の86勝、3月5日現在通算95勝を挙げており、100勝目前だ。
斎藤:2つの新人賞受賞、おめでとうございます。引っ張りだこですね。
島津:あちこち行って、正直ちょっと疲れましたね。白鵬は大きかった! 内藤大助選手は、同じ北海道出身だからか、世間話をずっとしゃべっていました(笑)。東京でご飯も食べましたが、混んでるし、帯広の方が美味しいかもしれません。
斎藤:新人賞はデビュー時からの目標でしたね。いつ頃獲れると思いましたか。
島津:重賞獲ったとき(10月16日クインカップ、重賞初騎乗で4番人気のキタノサクラヒメで勝利)。重賞に乗りたいなぁとはずっと思っていました。勝ててほっとした。キタノサクラヒメは、ここを勝ってクラスが上がり、重量も増えて苦戦しています。
斎藤:新人賞受賞のインタビューでは「勝利数には満足しているけど、内容に満足していない」とコメントしていましたね。満足できない点を具体的に教えてください。
島津:レース運びですね。勝てるレースで勝てなかった。今、悩みどころです。キタノサクラヒメのように、今まで勝ってきた乗り馬たちが、クラスが上がって勝てなくなっています。なんとか勝てない馬を勝たせたい。負けても、馬に山を上げる自信をつけさせるような、次につながるレースをしたい。最初からそうしたいとは思っていましたが、最近は実際に考えられる余裕が出てきました。
斎藤:50勝して、減量特典がなくなったあとも苦労したようには見えませんでした。その余裕はどこから来るのでしょうか。
島津:そんなことないですよ。星(減量)が取れた後は苦労して、藤野さんにアドバイスを聞いたりしました。がむしゃらにやっていたら、秋ころには余裕が出てきた感じです。
斎藤:えんじ色の勝負服は、同じく道南出身の藤野俊一騎手を参考にしたそうですね。
島津:父が持っていたシマヅショウリキ(99、00年ばんえい記念など重賞9勝)に乗るなど仲がよかったので、昔から知っていました。今でも尊敬しています。酔っ払って電話かかってきたりしますが(笑)。
斎藤:さて、騎手になったきっかけを教えてください。競馬場に来て1年半、一発合格でしたね。
島津:祖父、父が馬主でした。北斗市は草ばん馬も盛んなので、子どもの頃からポニー引っ張っていました。騎手になろうと思ったのは保育園くらいの時かな。ばんえいの存続が危なくなった時にどうしようか悩んだこともありますが、父のつながりで岩本利春調教師にお世話になりました。
斎藤:1年たって変わったと思うことはありますか? ファンレターとか来るでしょう。
島津:ふけたなぁって...(笑)。写真撮られるのは慣れました。インタビューはまだちょっと...(笑)。ファンレターは来ないですよ。バレンタインのチョコもこなかったです...。(好きな)タイプはおとなしい子です。
斎藤:3月13・20日に放映されるNHKドラマ『大地のファンファーレ』には、主役のライバルとしてエリート新人騎手が出てきますが、モデルは島津騎手じゃないですか?
島津:いや...どうかな(笑)。ドラマには一瞬出ています。ちょっと笑ってますが(笑)
斎藤:普段はどうやって過ごしていますか。また、仲がいい騎手はいますか?
島津:厩務員作業があって遊ぶ時間がないから...釣りは好きです。夏は1人で海に行きました。普段は1人で行動しますが、謙(西謙一騎手)や幸太(長澤騎手)とよく話します。
斎藤:「ケン」や「コウタ」って...先輩ですが、そのように呼ぶんですね。厩舎で、みんなでご飯を一緒に食べたりはしないんですか?
島津:自炊しています。料理はそんなにしないけど...米は炊きます。カップラーメンは食べないです。体によくないから。170センチ60キロです。食べても太らないんです。寝たら元に戻る。弁当箱(騎手重量を合わせる重り)は、佐藤希世子元騎手にもらったものを使っています。
斎藤:よく特別で騎乗しているのはアグリミズキですね。
島津:かわいいですよ、まじめで。おでぶちゃん。1100キロくらいあります。めんこいです。今担当しているのは、父が持っているハヤテショウリキ、アウルメンバー、キュートエンジェル。キュートエンジェルかわいいですよ。でぶだけど。あとは、春にテスト受ける2歳馬。ニシキウンカイの下です。動物は全般好きで、イヌ飼ってます。名前はナナ。(レースでは)逃げるのは楽ですが、追い込みが好きです。
斎藤:乗ってみたい馬、レースはありますか?
島津:ニシキダイジンかな。本当のオープン馬というのがどのような馬か、乗ってみたい。レースでは、大臣賞(ばんえい記念)もですが、イレネー記念も勝ちたいですね。2歳の(最高峰)、っていうのはかっこいい。
斎藤:ばんえいの見どころを教えてください。
島津:馬の迫力や大きさはもちろんですが、そりの上で踊るような、騎手の動きを見てほしいです。僕は藤野さんの左パンチを真似します!
斎藤:扶助として、そりの上で体を揺らすんですよね。左パンチは右手に持った手綱で馬の左側のお尻をたたく時。
島津:はい、邪魔にならない程度に。藤野さんは独特のリズムがあって、きれいなんです。
斎藤:今後の目標を教えてください。
島津:馬を育てられる騎手になりたいです。左パンチ見てください(笑)。馬券、特に島津新の馬券を買って!
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
ばんえい競馬で現役最多勝の3205勝(1月9日現在)をあげ、"ミスターばんえい"金山明彦元騎手(現調教師)の3299勝に迫りつつある藤本匠騎手(49)。
昨年は日本プロスポーツ大賞の功労賞も受賞した。騎手会長としてもばんえいを盛り上げ、今年度はリーディング3位につけている。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。
藤本:叔父さんが馬主で、15歳の時に勧められて競馬場に来たんだ。はじめは騎手になるつもりはなかったけど、所属した本沢政一厩舎にいた金山さんに試験受けてみれ、っていわれて。それでも厩務員長かったんだよ。6年やった。
金山さんがいるから本沢厩舎には馬が入るし、金山さんには騎乗依頼がいっぱい来るから、それで乗れない馬にも乗せてもらっていた。初勝利のキタノウルフも特別戦だったし、新人の時から一般・特別関係なくたくさんの馬に乗せてもらっていた。この頃は、金山さんのほかにも久田(守)さんや工藤(正男)さんなどの名騎手がいて、目の前で学ぶことができたし、周りの人に恵まれていたよね。
斎藤:金山調教師に教わったことで、印象深かったことは。
藤本:新馬慣らすときの調教の仕方だね。今も大切だと思ってるよ。ハミのかけ方に対しては厳しかったよ。暴れても、若馬だからしつけていかないと。怒らないといけないし、逆にほめてもやらないといけない。ズリ引きでも、俺はだらだら歩かせるのはいやだから、きちっとハミをかける。その積み重ねが大切で、勝ちにつながると思っている。重要な部分だ。馬も人も、努力しなければ上に立つわけないんだ。
俺は、自分でしないと気がすまない方だから、全部自分で納得いくまでやる。ちゃんとやらないと、騎乗停止になるようなレースになるし。どんな馬でもどこかで花開くこともあるから、若馬は大事に乗ってやらないとだめ。馬が自分で自信もってくるといいレースするから、そこを人が見極めることも大事だ。
斎藤:思い出の馬はサカノタイソン(19連勝、ばんえい記念など重賞6勝)でしょうか。
藤本:サカノタイソンは毎回1番人気だから、その中で勝つことの度胸をつけさせてもらったよね。ばんえい記念を初勝利したテンショウリも、勝つとは思わなかったから思い出に残っている。
斎藤:繁殖生活を送っていたアンローズ(岩見沢記念3連覇など重賞10勝)も昨年亡くなってしまいましたね。
藤本:岩見沢は強かったね。ひと腰で上がるタイプだから、傾斜のきつい帯広は合わないのさ。調教でだいぶよくなったけど。ばんえい記念が岩見沢や北見だったら獲ってたんじゃないの? おとなしい馬で、調教やレースで苦労したことはなかった。忘れ形見のキタノキセキ(牡3、初年度産駒)も走ってるよね。9歳まで走って、あれくらいの仔を出すんだからたいしたもんだ。
斎藤:1月3日の天馬賞(ファーストスター)をはじめ、乗り替わりの勝利が多い気がします。私が驚いたのは、2009年の旭川記念で、追い込み馬のフクイズミを先行させて勝ったレースでした。
藤本:乗り替わりっていうのは馬が動くものなんだ。そりゃ乗り方が違うんだから馬は驚いて動く。癖のある馬ほどそうだ。もちろんレースは見ているからどんな馬なのかはわかるけど、先入観で決め付けるよりは、その時のレースの流れが一番大事。型にはめちゃうのもよしあしなんだよな。
斎藤:どうやって流れをつかむのでしょう。
藤本:いいポジションにいるのが大事だけど、それより、レース前の調教で馬の足りないところを補ったり、体力つけたりしているから。やってないと、どこまで無理していいかわからないけど、これだけやってるんだから、って自信があるからレースを組み立てられる。逆にいつも同じ馬だと、馬も慣れてくるから、メリハリをつけて調教している。途中まで厩務員さんにやってもらってから、厳しい乗り方をすることもあるよ。
斎藤:調教は何時頃からつけているのでしょうか。
藤本:レースがある日は、5時~7時半の間に障害で12~13頭の調教をつけている。レースがない日は8時くらいまでズリ引きすることもあるよ。
斎藤:これから期待している馬はいますか。
藤本:マゴコロ(牝3)はセンスが良くなってるね。身が入ってきた。ブラックパール(牝4)もこれからもっと良くなっていく。ホクショウダイヤ(牡9)かい? 720~30kgくらいまでならこなせるんだけど、(負担重量を多く)積むと、障害の動きがまだ固いんだよな。それ以上でもうまく(末脚が)切れるようになればいいね。
斎藤:藤本騎手は札幌出身ですが、今は帯広に家がありますよね。
藤本:俺はたまたま(運が)よかったよね。他の騎手は他の3市(06年度まで開催を行っていた旭川、岩見沢、北見)に家を建てた人が多いから。4人いる子どものうち、3人は独立したから今は嫁と娘1人しかいないんだ。帯広は本当に寒いけど、雪は少ないし、夏はからっとして住みやすい。食べ物、特にスイーツおいしいからね。豚丼もあるし、温泉もあるし。
斎藤:さて、金山元騎手の最多勝(3299勝)まであと100勝を切りました。来年度には達成できそうですね。
藤本:ケガなく、病気せずにコンスタントにしてれば......。でも、金山さんのころは今より開催日数が少なかったから、たまたま数が並んだっていっても、越えたことにはならない。今の日数なら、金山さんは5000勝くらいしていたと思うよ。1日の最大騎乗数も今(7鞍)より少なかった(6鞍)しね。
これからだと、(鈴木)恵介が匹敵するくらい。あいつは脂が乗ってるよな。俺もだけど、30~40歳の頃が最高だった。45を過ぎるとちょっときついなぁ......(笑)。たまに恵介に追い負けすることあるもん。
斎藤:藤本さんは、あまり病気した話を聞きませんよね。
藤本:20年くらい前に手にひび入って1カ月乗らなかったくらいかな。まぁ、熱あってもあばら骨にひび入っても乗るし。丈夫だから。
斎藤:では最後に、ファンに一言お願いします。
藤本:雪が降りながらも一年通してやってるんで、足を運んで、生でばん馬の吐く白い息を見てください。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
3月27日のばんえい記念で、前哨戦のチャンピオンカップ(2月27日)を圧勝したカネサブラックに騎乗する松田道明騎手にお話を伺いました。
2月28日現在、通算1341勝。今シーズンは115勝でばんえいリーディング3位です。
緻密な計算で200メートルのコースを研究しつくし、周りをあっと言わせてレースを盛り上げるばんえい界のヒールジョッキーでもあります。
斎藤:まずは、騎手になったきっかけを教えてください。夕張市出身ですね。
松田:家はメロン農家。家に馬がいて、馬好きなので騎手目指して競馬場に来ました。
斎藤:勝負服は吉田勝己さんと同じですね。
松田:家(夕張)の近くに社台ファームがあるからね。同じくらい活躍したいと思って。
斎藤:思い出に残るレースはありますか?
松田:ないなぁ...。あまり覚えていないんだよね。相当悪い癖とかは覚えてるけど。
馬のことは体で覚えるから。どのレース、と言われても出てこない。後ろはあまり見ないんだ。
斎藤:騎手として大事なことはなんでしょうか。
松田:いい馬を選んで乗る。そうじゃないと騎手はやっていけないから。調教で乗ってみて、ハミのさわり具合や反動をみる。トータルして、バランスがいい馬や癖の少ない馬を選ぶ。騎手っていうのはそういうものだと思うよ。
斎藤:では、期待の若馬を教えてください。昨年のばんえいダービーを勝った、ミスタートカチはいかがでしょう。
松田:派手さはないけれど、この馬も登坂力がある。早いタイムが向かない馬だから、古馬になって時計かかるレースが増えたら、もっと結果を出すんじゃないかな。
4歳なら、シルクタローはね......去勢手術の影響がまだ残ってるんじゃないかな。馬体がしっかりしたら力つけてくる。楽しみはこれからだよ。なんとかいい方向に持っていきたい。
斎藤:3歳馬だとフナノコーネルでしょうか。
松田:コーネルトップの仔は若い時きままな性格を出すから、乗りこなすの難しいんだ。登坂力がある馬だね。今年の3歳には1頭強い馬(オイドン)がいるけど...。
斎藤:コーネルトップといえば、マルミシュンキですね。先日亡くなってしまいましたが...。
松田:ああ......。自分がいろんな馬に乗れるきっかけになった馬だわ。コーネルトップらしく気ままだけど、強かった。
当歳から何度か見てたんだ。大きな馬体のわりにバランスが良くて、知り合いのオーナーに「欲しい」って言ったんだけど、他の人に買われちゃって。それでも、オーナーの宮本さんに話したら「乗ってみるかい」って言ってくれて、馴らし(馴致)からやった。瞬発力があった馬だったわ。
この馬のお陰で、度胸はついたね。わがままを許しながら乗ることを覚えたし、スピードに慣れることもできた。
サラブレッドもそうだけど、ばん馬も生まれた時の姿が競走馬の体型になるんだよ。
斎藤:カネサブラックについて教えてください。ばんえい記念が近づいてきましたね。
松田:小さいけれど、バネが良くて柔軟性がある。あまりに柔らかい筋肉の馬、そうはいない。性格は繊細なんだよ。馬に対してもおとなしい。ちょっとでもハミが悪く当たると、こずむ(体を固くする)。だから、呼吸を合わせて、できるだけロスを少なくすることを心がけている。
本当はこの馬にとっては、軽い馬場の方がいいんだよ。3分以内のレースがベスト。だから、本番に向けてはいろいろと考えてるよ。違った乗り方とかね。作戦だから言えないけど(笑)。なんとか獲りたいね。
斎藤:ばんえいに来るファンに一言お願いします。
松田:ファンに見てほしいのは、第2障害の手前の、馬と人間の呼吸。止まる動作と、そこで馬と話しながら、タイミングを狙って勢いをつけて前に出る。その瞬間。それは騎手の考えや能力によって違うから、いろんな動きがある。人馬一体の気迫を見てもらいたい。
ゴール前のシーソーゲームもいいけどね。それまでに、どこで止めて馬を休ませるかが大事だから。今年は馬場が重いし、障害も(1月22日から)10センチ高くなったから面白いと思うよ。
馬も辛いけど、人馬が気持ちを盛り上げながら、前に進もうとしているから。
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※インタビュー / 斎藤友香
11月1日に通算1000 勝を達成したのが鈴木恵介騎手。ここ数年で急ピッチに勝ち星を量産し、今年度もばんえいリーディングトップの座を守る大活躍。ファンからも絶大なる信頼を集めている。
昨年度(09 年4月〜10 年3月)は前人未到の年間200 勝を達成した。
200という数字を意識したのは11月頃ですね。その前の年度が173 勝で終わって、それまでの年間最多勝記録に1つだけ届かなかったんですよ。だから昨年のシーズン当初174 勝が最初の目標でした。それがある程度見えてきたとき、次の目標を200 勝にしたんです。ただ、その数字が近づいてからは冷静さを欠いたというか、ムダに力が入ったレースがいくつかありましたね。
それでも着実に勝ち星を積み重ね、シーズン終了まであと2日に迫った3月28日に大記録達成となった。
いやあ、本当にホッとしましたね。肩の荷が降りたな、そんな感じがありました。改めて振り返ると200 勝って本当に大変ですよ。周囲はまた今年も、という目で見ているようですが、競馬は自分だけの努力で結果が決まるわけではないですし、継続するのは難しいことだと思います。
その年間200 勝を達成したあとに臨んだばんえい記念では、惜しくも3 着という結果。勢いに乗っての初制覇とはならなかった。
あのばんえい記念は、まさに夢を見ましたね。1トンを引っ張っているのにナリタボブサップが第2 障害をひと腰で登りきったときには、乗っている自分がビックリしました。そのあとはなんとかゴールまでもってくれと思いながら追ったんですが、やはり1トンですからね。1回止まってしまったら、もういい脚は使えません。それにあのときは1、2着馬がとなり同士で競り合う形。ボブサップは少し離れたコースでしたから、その分もあったと思います。それにしてもばんえい記念を勝つのは難しい。少しずつ近くには来ているんですが......。
しかし、あのときのレースぶりは観客に強烈な印象を残した。今年こそと期待するファンは多いはずだ。
その通りだと思います。でも今シーズンは砂も入れ替わりましたし、障害の高さも変わりました。だからまた一から挑戦という気持ちで臨むつもりですよ。
鈴木恵介騎手は今年でデビュー13年目だが、ここ5 年間で700 勝以上。一気に急上昇という感がある。
新人のときは、そこそこ乗れたしそこそこ勝てたんですよね。でも減量期間が終わってからは、どちらもサッパリ。それが3 〜4年続きました。イライラしましたし、実は騎手に向いていないんじゃないか、とも思いましたね。でもそんな時期にふと『自分の気持ちが新人のままだな』と思い当たったんです。デビューの頃はいろんな人が気にかけてくれることで、ある程度は回っていきます。そのことに気づいたとき、他力本願の気持ちを忘れて調教や作業を一所懸命することに決めたんです。そうしたら少しずつ騎乗依頼が増えてくれました。でもそこで心がけたのは、すぐに結果を出そうと考えないこと。短気な性格を出さず、普段から冷静に。そして馬を怒らないように。その思いは今も続いています。
ばんえい競馬で多くのファンが注目するのは第2 障害以降だが、本当の勝負どころはその前にあるのかもしれない。
まずパドックで馬に乗るときが最初の勝負。直接またがりますから、そのときの自分の気持ちが馬に簡単に伝わってしまいます。だから馬場入場で人馬の呼吸をチェックするのは重要だと思います。
そして200メートルをどう組み立てるのか、というのが次の勝負。ぼく自身が念頭に置いているのは、第2 障害の下に着くまでに、どれだけ馬に負担をかけずに勝てる位置をキープできるかということ。つまりペース判断ですね。そのためには他馬の能力の把握が重要です。その正確さが結果に結びつく大きな要素なのかもしれません。
わずか200メートルの競馬だが、奥深いのがばんえい競馬の面白さ。新人騎手がいきなり活躍する例が少ないのも、経験がモノを言う競技の特性なのだろう。
それは大いにありますね。ばんえいのレースは馬に息を入れさせることが重要ですが、人も息を入れる必要があります。それが体でなんとなく理解できてきたかな、と思えたのは最近ですよ。本当にどこまでいっても勉強です。結果は良くてもレース内容に納得いかないこともありますし。
しかし競馬ファンのなかで、馬ソリに乗ったことがある人はほとんどいないはず。その ため、観客には競技の奥深さが、なかなか伝わりにくい面がある。
レース中も「叩け!」とか「早く仕掛けろ!」というお客さんの声がよく聞こえるんですよ。何で止まるんだと(笑)。でも、そういうのに惑わされてはダメですね。
ぼくはレースの前に自分の乗る馬を調教するとき、馬が自分の声を聞き分けてくれるようにと思いながらやっています。もしかしたら、馬を動かすには叩くよりも声のほうが重要かも。声をかけたら動いてくれることって、けっこうあるんですよ。
考えることや実行することの多さが、ばんえい競馬の難しさなのかも。となると、普段 から平地競馬以上の努力が必要だ。
ナイターの時期も昼間開催の時期も朝のスタートは同じ2 時。だからナイター期間は寝るのも30 分とか、本当に仮眠です。それだけにシーズンが終わったときは、3月までよく頑張ったなあという達成感でスカッとした気持ちになります。でもその前にばんえい記念があるんですけどね。本当にそれは1年を締めくくる大きな目標です。
最近はパドックで「無理するな!」というような声がかかることがあるらしい。
「ぼくが来たら配当が安いかららしいです。でもそんなことを言われたら、『よおし、勝ってやる』と逆に火がつきますよ」
短気で負けず嫌いというのは、ばんえい競馬においてはマイナス要素。しかし鈴木恵介騎手はそれを制御する術を知っている。となると、彼の天下はしばらく続いていくことになるのかもしれない。
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鈴木恵介(ばんえい)
すずきけいすけ
1976年10月7日生まれ てんびん座 AB型
北海道出身 服部義幸厩舎
初騎乗/ 1998年1月10日
地方通算成績/ 7,995勝1,017勝
重賞勝ち鞍/帯広記念、ホクレン賞、黒ユリ賞、 ポプラ賞、ばんえいダービー、ばんえいグランプ リ、北斗賞2 回、天馬賞、ばんえい菊花賞、クイ ンカップ2回、ヒロインズカップなど18勝
服色/胴白・紫蛇の目ちらし、そで白・桃3本輪
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※成績は2010 年11月18日現在 (オッズパーククラブ Vol.20 (2011年1月~3月)より転載)
今年3月のばんえい記念をニシキダイジンで制し、6月には通算2000勝を達成。信頼度も抜群でファンも多く、今シーズンばんえいリーディング2位の藤野騎手にお話を伺いました。
斎藤:ばんえい競馬に来たきっかけを教えてください。
藤野:出身は道南の森町。うちには牛と馬がいたんだ。小学校の時は近所のばん馬大会に出たり、馬で畑起こしたこともあるよ。
高校中退してからは、札幌のガソリンスタンドで働いていたのさ。やめて実家に帰った時に、近所の馬主さんに「遊んでるんなら競馬場入れ」ってすすめられたの。それが20歳の時。
斎藤:厩務員から、騎手を目指したのはなぜでしょうか。
藤野:すんげーかっこいいべや。だって、その当時活躍していたのは、木村卓司(元調教師)、久田守、金山明彦、岩本利春(3人とも現調教師)......。俺は7年目で受かったな。
受かったら、3月に那須の教養センターで研修があるのさ。新人騎手と制裁多い騎手が受けるの。5泊6日くらいあったかな。最後の日に初めて隣の部屋に行って、制裁を受けて来ていたどこかの騎手のところに行ったら、酒飲んで見つかってな。制裁受けて、1開催乗れなくてデビュー遅れたんだ。
研修から帰るときに家に電話したら、うちの長男が生まれてよ。忘れもしない日だ(笑)。 デビューの日は、朝の調教が終わってから一度寝たら、寝過ごして、検量に遅れて戒告よ。また怒られた。
斎藤:大物ですね(笑)。
藤野:最初の頃は、1日に1、2頭しかレースに乗れなかったな。若手騎手の減量特典も、今みたいに年数はなくて、30勝未満だけだったし。
デビューから10年くらい経った頃かな......、当時所属していた宮崎正徳厩舎にフジリキって馬がいたの。すんごい好きだったの。キレイな栗毛でな。レースぶりが好きなのさ。2障害手前に着くまでが早いんだけど、全然障害登らないの。障害から降りたら、ゴールまですんごい早いの。
違う騎手が乗ってたから「俺にやらしてくれ」って言ったんだ。調教でハミ変えたりして、障害登らせて。それからたくさん勝ったよ。数乗るようになったのはこのあたりからだな。
斎藤:シマヅショウリキ(ばんえい記念連覇など重賞9勝)について教えてください。
藤野:友達の親父が持っていた馬だから、能検からずっと乗せてもらっていたんだ。体は小さいし、腰のあたりが生まれつき不自由だから、頂点(ばんえい記念)まで取るとは思わなかった。フクイチが、初の3連覇なるか、って盛り上がっているときに、それ阻止してな(笑)。登坂力がすばらしかった。
斎藤:スーパーペガサス(ばんえい記念4連覇、重賞20勝)はいかがですか。
藤野:途中から乗ったからな。乗りたいとは思っていたけど、まさか俺に回ってくるとは思わなかった。オイドン(現2歳最強馬)に似てるよ。走るのが好きで、前に行くことしか考えていない。いい意味で、バカなんだわ。普段はおとなしいのに、レースになると自分で前に行くタイプだから。オイドンも、ペガサスみたいになるぞ。
ペガサスは、顔がかっこよかったよな。死ぬ1カ月前に一度会いにいったんだ。でも近づけなくて、遠くから見てた。寝たきりだったもの。それでも首から上は動くからこっちを見るんだ。その顔はかっこよかった。それは変わらなかった。
斎藤:ニシキダイジンについて教えてください。ばんえい記念は、前日に話を聞いたとき「勝つのは難しい」とおっしゃっていましたよね......。
藤野:荷物(負担重量)を考えれば、得意だからチャンスはあると思ったよ。ダイジンの厩務員の佐々木一夫さんは、俺が山本幸一厩舎にいた時に一緒だった人なんだ。レース後「カズさん、やったな。」っていったら「やったー」ってな。今も調子はいいし、1月2日の帯広記念を焦点に仕上げてるよ。
斎藤:レースで大事にしていることはなんでしょうか。
藤野:うーん......10頭いる中で、目標となる馬の様子を見ることかな。俺、無理なレースすることあるから制裁も多いんだよ。
障害上がらない馬が好きなんだ。自分がやって、上がったら面白いでないか。ここで上げたら勝てるかな、この位置で届くかなって、レースの楽しみあるべや。
そう言ったら、癖馬を頼まれるんだ。それをまた、俺は喜んで受けるんだ(笑)。その時? ハミ変えたり、攻め馬を工夫するんだ。平地競馬の騎手みたいに背中に乗るんなら、ハミと人間が近いしょ。それでもよれることがあるのに、ばんえいは伝える方法がハミしかなく、しかも遠い。だから馬との戦いだ。グリーンのホースの間を走らせるのが仕事だもん。
斎藤:騎手生活24年の結晶ですね。
藤野:先輩から教えられたからな。騎手に大事なのは、考え方に柔軟性があるかどうかだと思う。それと、研究熱心なこと。調整ルームの娯楽室に、レースのビデオがあるんだ。若いやつには「何回も見ればいいしょ」って言うんだ。他の人が、自分が乗っていた馬をどう乗って勝ったか。今の若い騎手は、あまり見ないものな。時代も違うけれど、おとなしいもの。
斎藤:では最後に、ファンに一言お願いいたします。
藤野:大きな馬の走る雄大な姿を見に来てください。
帯広記念でのニシキダイジン? 前の方にいます(笑)。
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※インタビュー / 斎藤友香