
春日賞争覇戦を制し自身3度目の記念優勝を飾った神奈川の松井宏祐選手(神奈川113期)に喜びの声、そして今年の目標を伺いました。
大津:春日賞優勝おめでとうございます。
松井:ありがとうございます。
大津:3度目の記念優勝ですがお気持ちはいかがですか。
松井:ラインで決めることは出来なかったのですが、ラインの中から優勝者を出すことが出来たのでホッとしています。
大津:今年は一本休んでのスタートとなりましたが状態はどうでしたか。
松井:体調を崩してしまい強度の高い練習が出来なかったり肺も弱っていたので不安をもちながらの奈良記念参戦でした。
大津:その不安材料はレースにどのような影響を及ぼすのですか。
松井:強度の強い練習をしないと身体に力が入らないんです。
その為、レースでは良い感覚で走れずに後半がもたなくなったりします。
呼吸が整わないと長い距離はキツくなりますね。
大津:奈良バンクの印象はどうですか。
松井:先行選手は333は得意だと思っています。
一回出切ってしまえば後ろからの仕掛けも併せやすいです。
なので僕は333バンクは悪いイメージはありません。
前回の記念も小田原の優勝でした。
大津:今節は初日特選から濃いメンバーが揃いましたね。
松井:グランプリ王者の古性さん(古性優作選手 大阪100期)や勢いのある群馬の佐々木(佐々木悠葵選手 群馬115期)とか隙がないメンバーばかりでした。。
大津:神奈川3車でしたし風を切るイメージは強かったですか。
松井:自分の調子を確かめるためにも先行したいと思ってましたね。
大津:古性選手が自力ではなく自力自在のコメントでしたが、粘られるという意識もありましたか。
松井:もちろんありましたけど。ある程度早めに強く踏めば飛びつかれないかなと考えて走ったつもりなんですが飛びつかれてしまいました。
初日特選ですし初日から危ないことは出来ないだろう、飛び付きはないだろうという思いもありましたが、そこで飛び付いてくる古性さんは意外というか、やはり隙のない選手だなって敵ながら感じました。
大津:番手が粘られた時はどういうことを考えながら走っているのですか。
松井:内で粘られるか外で粘られるかにもよるんですが後ろを固めてくれた選手が走りやすいように駆けるようにしています。
大津:南関は自力選手が揃っていて並ぶケースがあるので、どうしても位置を狙われる可能性もありますもんね。
松井:そうですね、そこでもしっかり勝ちきれないといけないと思っています。
大津:松井さんはご自身が番手を走って狙われた時の対策などは練習でしているんですか。
松井:いや、僕はしてないです。
僕はラインの先頭を任されることが多いので先頭での走りの練習しかしてないです。
大津:番手を走る時のやりがいや難しさはどのように感じでいますか。
松井:前を走るときは自分が駆けたいタイミングで行けるんですが、番手だと前の選手がどこから踏み出すとか分からないので難しいです。
ある程度作戦では考えるんですが作戦のようにはいかないですね。
後ろを回るようになって番手の選手の大変さも分かるようになりました。
大津:決勝は道場選手の番手でしたが並びはすんなり決まりましたか。
松井:道場君(道場晃規選手 静岡117期)が準決勝終わった段階で前で頑張らせてくださいって言ってきてくれて郡司さん(郡司浩平選手 神奈川99期)も僕の後ろを固めるって言ってくれたんで、すぐに決まりました。
大津:どのような作戦でのぞまれたのですか。
松井:道場君は腹を括って先行するって言ってくれたので2番手3番手でやるべきことをしっかりやろうと話していました。
大津:初日特選で古性選手が横の動きがあったので、スタートを取られると厄介だなって考えもありましたか。
松井:それはありましたね。
万が一、飛び付かれたら絶対にその位置を守ってやろうと考えてました。
大津:ただ2番車の郡司さんもスタート早いですし、その辺りはとても心強かったのではないでしょうか。
松井:僕もスタートが早ければ良いんですが、なかなか難しくて郡司さんに助けられてばかりです。
大津:レースは南関が前で中団が近畿でした。松井さんはどういうところに気をつけて走っていましたか。
松井:一番後ろのラインの佐々木君が押さえにくるだろうと思ったので、まずは道場君に踏み遅れないようにっていうのと、古性さんがそのあと直ぐに来たときには僕自身で出来ることを最大限やろうと考えてました。
大津:最終ホーム付近から古性選手が踏み上げてきました。
松井:スピードが良いので絶対に僕の先に自転車を出されないようにと縦に踏ませてもらいました。
準決勝で川越君(川越勇星 神奈川111期)が先行してくれた時に、僕はあまり良い感じで踏めなかったのでそこは強く意識しました。
準決勝も決勝も全開で踏んだんですが走り方は変えました。
大津:それはどういうふうに変えたのですか。
松井:ガチャガチャにならないように修正して走りました。
大津:勝負所では真後ろに古性さんが入ったのは分かっていたのでしょうか。
松井:1コーナーで後ろで音がしたのは分かったのですが実際にどうなっているかは全く分かってなかったです。
とりあえず全力で踏むしかなかったので無我夢中で走ってました。
大津:ゴールの瞬間はどうでしたか。
松井:優勝した実感は全くなかったです。
僕自身、意識朦朧としてましたし、ほぼ差されたと思ってました。
負けたと思っていたのでお客さんにも「すみません!」って大きな声で謝りました。
僕からも人気になっていたので。
敢闘門帰ったときに神奈川の先輩に言われてようやくわかりました。
大津:今節は若手自力型の活躍が目立ちました。南関勢としてこの勢いはどのように感じていますか。
松井:素直に嬉しいです。若手が頑張ってくれることで南関東としても盛り上がりますし、若手が前で頑張るって言ってくれるのを聞いて僕らもより頑張れますから。
大津:この優勝で今年最初のGI戦に向けて弾みがついたのではないでしょうか。
松井:直前のレースで記念を優勝出来たのは嬉しいですが、僕としては本当の自力での優勝ではなくてラインの皆に助けられての優勝なので正直多少の不安はありますね。
今は強度の高い練習もできるようになったのですが、これは実際のレースとなった時にどれくらい戻っているかって感じです。
大津:S級S班、GIタイトルというのも現実味が帯びてきているのかなとも思いますが。
松井:簡単じゃないと思ってます。
常に全力で取り組んではいますけど、一昨年もSSのチャンスはあったのですが届かなくて大事な時に勝てないというか勝ちに貪欲になれてないというか。
そんな思いを抱えて去年を迎えたのですが去年もダメで、やっぱりSSって甘くないんだなってしみじみと感じています。
だからこそ今年こそは絶対に取りたいですね。
大津:今年は暮れの大一番が平塚ですしね。
松井:地元は得意のバンクですし平塚のお客さんの前で大舞台を走りたいって思いは強いです。
それに向けて一日一日頑張りたいです。
大津:最後にオッズパークの読者の皆様にメッセージをお願いいたします。
松井:奈良記念を優勝できたのはラインのおかげです。
全日本選抜ではラインの強みを活かして少しでもいいレースが出来るように一戦一戦走っていきますので、これからも応援よろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 大津尚之(おおつなおゆき)
ソフトな見た目と裏腹にパワフルで安定感のある重低音ボイスが魅力。
実況、ナレーション、インタビュー、俳優など活躍の場は多岐にわたる。
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昨年後半は寛仁親王牌に競輪祭と立て続けにGIの決勝戦を経験した寺崎浩平選手(福井117期)。昨年の近畿大躍進の立役者と言っても過言ではない若武者が2025年さらなる飛躍を目指して!思いを語って頂きました。
橋本:まずは、今年2場所走りましたけれども、ご自身の手応えというか感触はどうですか?
寺崎選手:そうですね、すごく良いと思います。
去年の後半から自転車の乗り方を変え、考えて乗るようになり、年末からこの年始にかけてその成果が出ていると思います。
橋本:具体的に、どういうところが良くなったなと感じていますか?
寺崎:車の出や航続距離も以前より伸びたと感じていますし、レース中、脚にも余裕があるので、精神的にも落ち着いてレースに臨めてるという感じです。
橋本:乗り方を変えたというのは、どこをどう変えたんですか?
寺崎:競技用カーボンの乗り方から、ようやく競輪向けにしっかりシフトでき、今は丁寧に体を動かすというイメージで走っています。
橋本:どなたかのアドバイスを受けたんですか?
寺崎:古性さん(古性優作選手 大阪100期)からアドバイスをもらい、体の使い方などを工夫しています。
橋本:親王牌の時、突っ張り先行のやり方を古性さんに教えてもらったという話を伺いましたが、そういうことも含めて色々と吸収されてるんですね。
寺崎:そうですね。
去年は合宿で古性さんの指導をたくさん受けさせてもらい、すごく考えながら自分のものにしている状態です。
橋本:今はかなりそのアドバイスを体現できるようになってきたという感じなんですか?
寺崎:そうですね。ちょっとずつですが。
橋本:去年の後半、GIの決勝も立て続けに経験され、その舞台でも先行するレースが続きました。その中でどんな風に感じましたか?
寺崎:寛仁親王牌も競輪祭も結果的に9着になってしまいましたので、今年はしっかりと、ゴール前で勝負できるような組み立てをしなければと考えています。
橋本:競輪祭や親王牌、共に脇本選手と一緒に決勝で戦いました。その事についてはどう感じていますか?
寺崎:脇本さんは輪界トップで、航続距離やスピードを持っている選手なので、どうしても毎回大きなプレッシャーを感じますね。
そんな中で、脇本さんからは「逃げて大敗ではなく、自身もしっかり残れるような仕掛けをしてほしい」と言われているので、僕もその気持ちに応えて、ゴール前でしっかり勝負できるような組み立てや脚力をもっとつけていかなければと考えています。
橋本:とはいえ、競輪祭の決勝で脇本選手が優勝したことによって、気持ちが少し軽くなったという部分があるんじゃないですか?
寺崎:はい。なかなか脇本さんと決まらない期間もありましたが、競輪祭で脇本選手の優勝という形で、僕なりには貢献できたという思いもあります。
橋本:親王牌では古性選手が優勝でした。
寺崎:はい、優勝に貢献できて本当に良かったです。ただ、先程も言ったように、脇本さんから「次は自分も残れるようなレースをしなければならない」と言われたので、今年は本当に勝負だなと感じています。
橋本:それを受けての今年一発目の大宮記念。ここでも脇本選手と一緒の決勝戦でした。しかし、初手から後ろが競り合い。佐々木眞也選手(神奈川117期)が番手を主張し、脇本選手の位置を狙うレースでした。前の寺崎選手としては非常に難しかったのではないでしょうか?
寺崎:はい、非常に難しかったです。
とはいえ、後ろが狙われる中で走るというのは、今後、機会が増えると思っていたので、そういった意味で、その経験は良かったです。
結果的に、僕としてはいつもの仕掛けよりも少し遅らせ、しっかり勝負できた部分もあります。もし脇本さんが仮に競り勝っていたら、多分脇本さんが優勝していたと思いますし、僕も残れるイメージがあったので、次に繋がる良い経験ができたと思います。
橋本:大宮記念では結果的に4日間全て2着でした。
仕掛けのタイミングは、初日からそういう風に意識して走っていたのですか?
寺崎:そうですね、その気持ちで走っていましたし、やはり僕もしっかり残れるようにしなければいけないという周りの期待もあるので、今年はその点を特に意識して臨みたいと思っています。
橋本:グランプリの前夜祭で、古性選手は寺崎選手の成長がとても頼もしい、というような話をされていました。
寺崎:去年の年頭の和歌山記念で、古性さんから「お前が今年のキーマンだ」と言われまして、前半はあまり結果が出せなかったものの、後半にしっかり持ち直し、近畿の先頭として最低限の仕事はできたと思います。その点については、ホッとしています。
橋本:すごい!何故キーマンなのか?理由は聞きましたか?
寺崎:いや、それが全然聞いてなくて。でも、そういう高い評価をしてもらってるんだ。というのが凄く嬉しかったですね。僕自身、競技を引退して2024年は競輪に専念すると思っている中での発言だったので、大役を果たせるように!と頑張ってきたところはありましたね。
橋本:去年1年のモチベーションが高い段階で保てた理由がよく分かりました。
そして!2025年はという気持ちも確かになりますよね。
ところで、寺崎選手というと先行のイメージが強いのですが、捲りで勝負してもいいといった部分もあるのでしょうか?
寺崎:そうですね、基本はやはり先行主体で戦っていますが、僕より若い選手もどんどん出てきていて、相手も先行で!という気持ちが強い時は先行争いというより、中団を取る競走や、捲りは当然考えています。
橋本:位置取りなんかは、古性選手なんかは得意だと思いますが、何かその辺でのアドバイスはありますか?
寺崎:古性さんからは体の当て方や、当てられたときの対処法などを色々と教わっていますし、古性さんだけでなく、三谷将太さん(奈良92期)などからもその辺はアドバイスをもらってます。
橋本:そういうアドバイスを受け、実際の練習で試してみて、これはいける!と感じることはありますか?
寺崎:GIクラスでやれるかというと全然厳しいですが、中団で位置を取っていく組み立ても今後必要ですし、実戦の中でどこまでできるかは、数を積んでいかないとわからない部分もあります。ですが、準備はしっかりとして、いつでも戦えるような心構えは持っています。
橋本:今後番手のレースなどがあるかもしれません。例えば福井でゴールデンルーキーの市田選手(市田龍生都選手 福井127期)がデビューされましたが、そういう存在についてはどう感じていますか?
寺崎:高校時代から知っており、一緒に練習したり、チームスプリントや競技で走ったりしてきたので、強さは元々知っていますし、とても嬉しいです。
橋本:市田選手の後ろを回る寺崎選手の姿をファンの方も期待されていると思います。番手のレースになることもきっとあるでしょうね。
寺崎:そうですね。その時が来たらやはり前を走る選手の気持ちを無駄にしないようにしたいですね。とにかく、前を走る選手にはしっかりと勝てる仕掛けをしてほしいと感じています。前の人が勝てる仕掛けをしてくれれば、自然と自分にもチャンスが生まれると思いますし。
橋本:これまでの去年1年間の競争でも、古性選手や脇本選手から「こんな風にしよう」という決まった作戦はなかったのですか?
寺崎:なかったですね。
基本的には、僕が初手の位置だけを決める感じで、あとは自分の仕掛けたいところでいってくれればいいという感じでした。
橋本:その辺は逆に責任というかプレッシャーを感じる部分かもしれませんね。
では今度は、戦う相手として「この選手には特に負けたくない」といった存在はいますか?
寺崎:はい、ナショナルチームで一緒に戦ってきた選手には、どうしても負けたくないと思っています。
橋本:例えば、太田海也選手(岡山121期)や中野慎詞選手(岩手121期)?
寺崎:そうですね。やっぱり非常に気合いが入ります。一緒に戦ってきたからこそ負けたくないという思いはありますね。
橋本:新山選手(新山響平 青森107期)と対戦する時にも凄く寺崎選手からの熱量を感じますが。
寺崎:新山とは同級生で、ナショナルチームでも一緒でしたからね。ただ、戦いにくい相手ではあります。
橋本:やはり、突っ張られるかも?というのはありますよね。
寺崎:そうですね。その辺はありますね。
橋本:今後、強化したい部分はどこですか?
寺崎:やはり航続距離ですね。そこを強化していきたいです。
橋本:大宮記念では500バンクでオール2着という結果でした。確かに末は安定してましたね。
寺崎:走り方の意識や練習がしっかりできていて、航続距離の長さも少しずつ伸びてきているとは感じています。
橋本:航続距離を伸ばす練習は相当ハードなイメージですが、今は本当にかなり練習に費やす時間が多いという感じですか?
寺崎:そうですね。でも僕は全くハードな練習が苦にならないんですよ。
橋本:えっ??ナショナルチームの時もですか?
寺崎:そうですね。辛いのは辛いんですが、それが嫌だと感じたことは一度もないですね。それは学生時代から本当にそんな感じでした。
橋本:息抜きなんかは?
寺崎:練習が息抜きみたいなものです(笑)
橋本:恐れ入りました。ところで奥さん(寺崎舞織選手/福井112期)も競輪選手ということで、その点はどうですか?
寺崎:そうですね。セッティングやレースの話をよくしますし、練習内容も基本的に同じなので、互いに理解し合あえて助かっているところは多いなと思いますね。
橋本:公私共に充実していますね。それなら今年は更に!向上心を持って1年間頑張っていけそうですね。あと、怪我や痛みなども全然ない感じですか?
寺崎:今はしっかり体のケアもできており、良い状態で毎日練習できています。今月末には全日本選抜もありますし、脇本さんのグランドスラムもかかってるので(笑)そこでしっかり良い結果を出したいです。
橋本:プレッシャーのかかるレースが続きそうですが頑張ってください(笑)では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
寺崎:確定板にしっかりと乗れるようにこれからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします!
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※インタビュー / 橋本悠督(はしもとゆうすけ)
1972年5月17日生。関西・名古屋などでFMのDJを経て、競輪の実況アナウンサーへ。
実況歴は18年。最近はミッドナイト競輪in小倉を中心に活動中。
番組内では「芸術的なデス目予想」といういいのか悪いのかよく分からない評価を視聴者の方から頂いている。
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昨年は3月のコレクション初優勝、更に賞金ランキング1位でオッズパーク杯ガールズグランプリに出場した坂口楓華選手(愛知112期)。グランプリのレースでは一気の先行策でレースを作りました。
昨年の振り返りを中心に、今年の意気込みもお伺いしています。
山口みのり:昨年1年はどんな年でしたか?
坂口楓華選手:皆さんが想像するような充実した年ではありませんでした。デビューしてから一番苦しい1年でした。
山口:意外でした。2024年3月に初めてのガールズケイリンコレクションの優勝があり賞金ランキングでは1位をずっと走っていました。どのような部分が苦しかったですか?
坂口:賞金ランキングは上位でいられたので、グランプリ出場に関しては大丈夫でした。でもタイトルを取ったことで、他の選手からの私を見る目が変わったと思いました。今まではそこまで意識されなかったのが、警戒される対象になってしまい予想外の反応だったので驚いたんです。
山口:思わぬ反応だったんですね。
坂口:はい。私はチャレンジャーでずっとやってきて、「強い選手を一人一人倒していこう」と上がっていっている途中だと思っていました。それが急に私が気付かない間に意識されて、タイトルを取ったことでより強くそれを感じました。タイトルを取れたのは良いことですが、その次の開催から一気にみんなの目が変わったんです。
山口:そんなに違ったんですか?
坂口:はい。今までは感じなかった、孤独を感じました。「タイトルを取ったりトップで戦っている選手はみんな孤独だよ」という話を聞いたことがあったんですが、それを実感しました。相談できる人も限られる、心情などを理解できる人は限られてくるので、今までもそうですがみんなが敵になります。私を倒しにくる選手が、私以外の6人になります。なのでどんどん自分が不利になる展開が続きました。ビッグレースでも今までは全く警戒されず自由に動けていたのが、それができない、全く動けないことが多かったんです。
そこで「私も、話に聞いていたあの場所まで上がってこられたんだな」と思えたんですが、試練だなと感じました。
山口:もう一つ上へいくための試練、ですか。
坂口:はい。昨年はそれを受け止めるのに時間がかかってしまったんです。「ここで戦っていけるのかな。本当にもう一つ上へいけるのかな」と不安が大きかったから、プレッシャーにも押しつぶされてしまいました。もともとそんなに勝負事に向いている性格ではないのでとても苦しかったです。
でもここまで来られたのは成長だと受け止めて、更に殻をもう一つ二つくらい破らないと、GIやグランプリの優勝は届かないのかなと思っています。
山口:ガールズグランプリ初出場は2021年、2023年は連勝記録を伸ばしました。その辺りから好調で警戒されていたように思いますが、「タイトルを獲得」した後は、それとは別物なんですか?
坂口:違いましたね。タイトル獲得はみんなから認めてもらえる特別なものになるんですが、そこから徐々にプレッシャーが厳しくなりました。「普通開催の女王」と言われることもあるみたいで、普段のレースでは「坂口楓華なら勝って当然」という皆さんの評価がオッズにあらわれます。
ビッグレースでも普通開催と同じ評価をしていただき、買ってくださっているファンの方がたくさんいて私から人気になっている中、プレッシャーを感じ動けないレースが続いてしまいました。本当は、私は緊張するのでオッズは見たくないんですが、どうしても目に入ります。レースでも私を仕掛けさせないように他の選手が動き、それを乗り越えられない苦しい時期が続きました。
その結果、ファンの方の評価が「坂口楓華は、普通開催では無敵だけどビッグレースでは全然だめ」という評価になっていったと思います。自分でもだめなのがわかっていたので悔しかったです。けどまずそれを受け止めて、見つめなおしていきました。
「なんで私はだめなんだろう。どうしてビッグレースになると大きい着が続くんだろう」とたくさん考え、たくさん悩みました。そんな1年でした。
山口:客観的に見たら一昨年より昨年の方が順調にいっているように見えて、乗り越えるものが大きくなるとそれだけご自身は大変なんですね。
坂口:そうですね。自分では毎年大きい目標を立てておらず「1年ごとに少しでも成長していたら合格」と思っていたんですが、その「少しでも成長」の部分のハードルがどんどん上がっていっているんだと気付きました。昨年の壁は大きかったです。
でもそれだけ上がってきたんだ、と思えますし、ここで諦めたらだめだと思っています。神様は越えられない壁しか与えないと思って、「絶対越えてやる!」と頑張っています。
山口:「トップの選手は孤独だよ」と教えてくれたのはどなたなんですか?
坂口:市田佳寿浩さんです。
山口:そうでしたか。連勝の時もそうでしたが、坂口選手の節目節目には市田さんのアドバイスがあるんですね。
坂口:はい。昨年崩れてしまった時も「ちょっと休んだらどう?」とアドバイスをもらい、福井に1か月ほど行っていました。自転車にも乗りたくなくて、実は「もう辞めようかな」と思った瞬間もあったんです。
山口:え......?そんなに思い詰めていたんですね。
坂口:はい、かなり追い詰められていました。でも、それも市田さんにしか相談できませんでした。私が経験してきたことは、市田さんはとっくに経験されています。家族にも、同期や仲の良い選手にも言えず、もし言ったとしても伝わらないんです。その時に「トップ選手は孤独なんだよ、それを経験した人にしかわからない感情がある。これはみんなが味わえる感情ではないし、そこまで上がってきたということだよ」と話してくれました。
それに私は納得したんです。市田さんがいたから「乗り越えよう」と思えました。
山口:辞めようと思ったのは、初めてのことだったんですか?
坂口:はい。そうですね。今までは思ったことはなかったです。昨年は、今思うと大変な1年でした。
山口:乗り越えらえる壁だ、と思えたことは良かったです。
坂口:はい。崩れてしまった時は、どこに向かっていけば良いんだろうと自分がわからなくなってしまいました。でもその時にしっかり考えて、自転車に乗らない期間を作ったり、気持ちを自分で受け止めたことで、「またレースに行こう、一戦一戦頑張っていこう」と前を向けました。再度モチベーションも高く、特に後半はしっかりと取り組めました。
山口:復調してきた時のガールズグランプリだったんですね。
坂口:はい。市田さんの前で崩れてしまった後に、自分を見つめなおして「しっかりしなきゃ」と思えたし、「もっと強くならなきゃ」とも思いました。そこを乗り越えたから11月の競輪祭女子王座、更にはグランプリを戦えました。「充分成長しているし、自信を持って走って良いんだ」と認められたことが良かったです。
山口:ではガールズグランプリ2024を振り返ります。苦しかった1年と話してくださいましたが、そこを乗り越えてのグランプリは、2023年とはどのような違いがありましたか?
坂口:私の中で大きく変化したのは、話をするようになったことです。石井貴子選手(千葉106期)、尾崎睦選手(神奈川108期)、石井寛子選手(東京104期)などはずっとトップで戦っていて、グランプリにも何度も出場されています。そんな選手と話をすると、それぞれに私と違う部分があると気付きました。
私は、「勝つ」ということよりも「自分のやりたいレースをする」ことに意識がいっていたんです。勝利を掴むために貪欲になるのではなく、自分のレースをできたことで満足するタイプでした、そうなってしまっていました。
山口:結果よりも、だったんですね。
坂口:はい。もちろん自分の納得いくレースができて1着を取れるのは凄いことです。そういうレースができたこともあったと思うんですが、結果が出なくても満足している時があると気付いてしまいました。
でもお客さんからしたら「それがどうした?」ですよね。皆さんが求めているのは1着だけ、勝者だけですから。応援してくださる人の中にはそうじゃない方もいるかもしれませんが、競輪選手をやっている以上、勝つことが一番です。でも私は長年それに気付けませんでした。
今、こうして実績のある選手たちと同じ舞台に立たせてもらい戦えるようになってきて、ライバルの選手の勝利に対しての貪欲さや姿勢を見て、コメントや記事も読ませてもらって「私に足りないのはこれだ」と気付きました。更に、買ってくださる方にはとても失礼なことだともやっと気付きました。そこから変わってのグランプリのレースでしたね。
山口:より結果を意識して走ったんですね。
坂口:はい。今後は勝つことに貪欲に、自分が勝てるレースを、手段を選ばずにしようと思っています。
山口:ではガールズグランプリ2024のレースを振り返ります。ご自身ではどんなレースをイメージしてましたか?
坂口:今までよりもたくさん展開を考えて臨みました。自分が勝てるようにはどうしたら良いかたくさん考えたんですが、全く違う展開になりました。佐藤水菜選手(神奈川114期)がスタートを取るとは思っていなかったので、その時点で私が考えた理想のレースは終わってしまいました。今までの私ならそこでそわそわしたり、焦ったりしたと思うんですが、今までと違ってスタートに立った時から腹がくくれていたので、弱気な自分はいませんでした。ちゃんと自分で勝負しよう、私にはそれができると自信もあったんです。そんな気持ちで臨みました。
山口:坂口選手の最終ホームでの一気の仕掛けでレースが動きました。あの位置から行こうと決めていたんですか?
坂口:いや、正直に言うと迷っていました。でも動かないと6番手のままで、自分より強い選手が前にたくさんいる。それで動かないのはだめだと思ったんです。
でもそう思えたのは、心にずっと留めている言葉があったからでした。
3月取手でのコレクションを優勝する前、ウォーミングアップのときでした。ビッグレースでずっと何もできずに終わるレースが続いていたので、古性優作選手(大阪100期)にアドバイスをいただきにいきました。そうしたら「俺の場合やけど」という前置きからお話をしてくれて、「最終ホームストレッチで8、9番手にいる時点で負けが確定している。その位置にずっといるくらいなら自分から動いた方が良い。動かないと負けが確定だけど、レースを動かして力を出し切ったらファンの方は怒らない。負けても、買ってくれてる人を納得させるレースをする。そうじゃないと失礼やから」と言ってくれたんです。
その言葉がずっと頭に残っていたので、私もグランプリのあの場所から仕掛けられました。1年間やってきて、ファンの皆さんが私を評価してくれたのは攻める走りだったと思っています。それを大舞台でできたのは、古性さんの言葉を思い出し「1年間仕掛ける走りをしてきたのに、この場所で何もせず終わっちゃだめだ」と仕掛けられました。
いろんなことが重なったグランプリでした。
山口:私が言うのもなんですが、本当に強いレースでした。
坂口:走っている最中のことは、実はもうあまり覚えていないんですけど、とにかく必死に踏みました。でも欲を言うと3着までには残りたかったです。そうしたら自分でも納得できる走りでした。最後の最後に追い込まれ4着だったので、複雑でしたね。
でもいつか私もチャンスを掴める時が来ると良いなと思って、頑張りたいと思います。
山口:頑張ってください!今年の目標はなんですか?
坂口:岐阜で行われる『オールガールズクラシックGI』を優勝することです。地元地区ですし、まずはそれを目指しています。
山口:ルーキー選手も強い選手が出てきていますが、その辺りはいかがでしょう?
坂口:特に気にしていません。それよりも今年は楽しみの方が大きいです。昨年の苦しかった1年を乗り越えられたので自信がつきました。「誰が来てもかかってこい!」って感じです(笑)
山口:頼もしい!(笑)
坂口:そんな感じで自信を持っていきたいです。
山口:勝ちにこだわるというお話も出ましたが、戦法もそれに応じて変わっていきそうですか?
坂口:そうですね。基本的には自分で力を出すレースをしたいんですが、自力自在で今年からは、新しい私を見てもらえたらと思います。
山口:位置取りを重視したり「差し」を意識する戦法をしようと思うと、練習は今までとは変わりますか?
坂口:変わると思います。差しができる選手はテクニックがあると思うんです。力を最後の最後まで温存するというのは、自力で普段戦っている選手にはないですから。力の強弱のつけ方が違うし、それを器用にできれば、もっと上で勝負できるようになると思うので、今までやっていなかった練習もやっていきたいです。
山口:新たな坂口選手も楽しみにしています。
坂口:ありがとうございます。
山口:グランプリ後の年末年始は、SNSを拝見したらゆっくりされていたようですね。リフレッシュもばっちりですか?
坂口:ゆっくりしすぎたかもしれません。今年はみんなのスタートが早く、すでに激戦です。私だけのんびりしている。でも、最初から頑張り過ぎちゃうと後から疲れが出てバテちゃうと思うので、焦らずにいきます。ちゃんとここから巻き返します(笑)
ゆっくりできたおかげで、今年の目標もちゃんと決めたしモチベーションも上げられました。今年1年やっていきたいです。
山口:頑張ってください。では最後にオッズパーク会員の方へメッセージをお願いします。
坂口:最初のGI『オールガールズクラシック(岐阜)』で優勝しガールズグランプリ2025の出場権を取ることを目標にして頑張っています。これからも応援していただけたら嬉しいです。
また今年1年ナショナルチームの選手も帰ってきたし、新人の強い選手もいて厳しい戦いになると思うんですが、楽しんで、そして自分の力で競輪界を盛り上げていけるように頑張りたいと思います。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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昨年6年ぶりにオッズパークpresentsガールズグランプリ2024に出場した尾崎睦選手(神奈川108期)。久しぶりに走ったガールズグランプリと昨年1年間を振り返っていただき、今年の目標もお話してもらいました。
山口みのり:昨年は久々のグランプリ出場などありましたが、1年を振り返っていかがでしたか?
尾崎睦選手:前半のGI『オールガールズクラシック』と『パールカップ』で決勝に乗れて賞金が積み上げられ、賞金ランキングで良い位置にいられました。後は怪我なく1年間走りきることができたので、すごく良かったかなと思います。
山口:ガールズグランプリを走って「戻ってきたな」という気持ちはありましたか?
尾崎:はい。久しぶりに出させていただいたんですけど、本当に良いところでした!
山口:6年ぶりと聞き「そんなに出ていなかったんだ」とびっくりでした。
尾崎:そうですね。出られそうで届かない時期や、補欠も経験したので、グランプリに出るのは本当に難しいなとここ最近ずっと思っていました。昨年はやっと出られたなと、すごく嬉しかったです。
山口:もちろん毎年グランプリを目指していたと思いますが、昨年とそれ以前を比べて、何か変えたことや違いはありますか?
尾崎:2022年の地元・平塚グランプリに出るためにピークを持って行こうと思っていたら、失格で出られなくなってしまい心が折れてしまいました。その後は、気持ちが続かず投げやりというか、腐っていた時期がありました。でもそんな中でも私を応援してくれて、支えてくださる方がたくさんいたのでなんとか頑張れました。
そのぐらいの時期にちょうどGIの新設が発表され、男子のように「GIを取ればグランプリ出場権が与えられる」というシステムになりました。男子のタイトルホルダーの方も神奈川にはいらっしゃり、「タイトルホルダー」と呼ばれるのはかっこいいなと思ってたので、自分もなんとかタイトルが欲しいと、また頑張ろうという気持ちにさせてもらいましたね。
山口:GIの新設が尾崎選手の中では大きなことだったんですね。
尾崎:そうですね。GIができたことで救われたというか、それがなかったら今の自分は想像できないかなと思います。
山口:ただ2023年は全てのGIには出場できずに悔しい部分もありましたか?
尾崎:最初の『オールガールズクラシック』は出られなかったんですが、あの頃は「どうせGIなんて......」と不貞腐れていた部分もあったんですが、いざ走ってみると「GIってめちゃくちゃ良いな!」と思いました。雰囲気やお客様の数も違う。選手側も、みんながGIを優勝するために来ているのがわかるんです。こういうところで走らせてもらえるのは選手として幸せだなと感じ、モチベーションが上がりました。
山口:昨年は全てのGIで決勝進出と、1年を通して良い調子で走られたんですね。
尾崎:そうですね。もちろん毎回完全優勝、というわけではなく小さな波はありました。普通の開催で車券に貢献できなかったこともあったんですが、その中でもしっかり自分のやるべきこと見失わずにできたのは良かったかなと思います。
山口:レース内容もビッグレースも含めて、消極的なレースが少なかったというか攻めてたような気がしました。
尾崎:今までのビッグレースは単発レースが多かったこともあり「そのレースのその機会」はその瞬間しかないので、大事に大事にいきすぎて消極的な部分がありました。コレクションや、グランプリを過去に走らせてもらった時も「次いつ私がこの舞台に立てるかわからない」と、変に消極的なレースが多かったんです。
けど、GIだったら1年に何度かある。もちろんGIも簡単に出られる訳ではないんですけどね。GIで自分が今までやってきた事をどれぐらい出せるかをテーマにして、技術や脚力の強化もそうですが、メンタルの部分でもしっかりと上げていけるように、GIに合わせて気持ちの部分も整理して臨めるようにと意識してやっていました。
山口:オールガールズクラシックの準決勝のインタビューだったと思うんですが、「今回はタイトルを取りに来ました」と仰っているのを見ました。私の勝手な印象ですが、尾崎選手は「勝ちにきました」など強気な言葉を明確に口にしない印象があったので、意外でしたが格好良かったです。
尾崎:あの時は、きっかけがあったんです。私は弟子がいるのですが、入所のため養成所に送って行き、その時に滝澤先生(滝澤正光さん/日本競輪選手養成所所長)とお話しさせていただく機会がありました。滝澤先生に「GIを取りたい、とか、取れるように頑張ります、じゃGIは取れないよ。自分が取るんだっていう気持ちで入る。開催中も自分が取る、自分が優勝するって信じろ。疑わずに信じていけ」と言っていただいたんです。本当にその言葉通り、自分が取るという気持ちで久留米に入りましたし、レースを走っている時も自分が取ると思って走りました。
山口:素敵な話です。これからも取るまでは、取るぞっていうことを口に出していくんですね。
尾崎:はい。競輪選手になってから、いや選手になる前から、グランプリを取るというのは自分の夢ですし、そこにGIもできてくれたて目標が広がりました。なんとかGIを取るまで、しっかり頑張りたいなと思います。
山口:頑張ってください!そして今年の戦いはすでに始まっていて、選手の皆さん、追加も走っているようですね。
尾崎:今年はいつもよりも結構みんな賞金ランキングへの意識が早い気がしますね。今は体調不良なども出やすい時期ですから欠場も多く、開催もたくさんある中で人が足りず、走れる選手が限られてしまいます。走るというのは大変なことなので、追加だとスケジュールもタイトになりますし、走るからには結果を残さなきゃいけないです。大変ですが、しっかり体調を整えて頑張りたいなと思います。
山口:追加だった1月の松山はトップ選手たちが集まりましたね。
尾崎:そうでした。決勝戦とかはもうGIなんだなと思って走りました。でも逆に、普通の開催でGIみたいなメンバーと走れる機会は今まであまりなかったので、ありがたかったです。GIと普段のレースでは、どうしても雰囲気やスピードの違いは生まれてしまいます。松山は予選からGIみたいなスピード感でしたし、自分の中ではプラスになったかなと思います。
山口:男子と違って7車なのは普通開催も一緒ですもんね。
尾崎:そうですね。
山口:今年はグランプリが地元の平塚で行われます。尾崎選手にとっても、出場は目標の一つでしょうか?
尾崎: そうですね。今年の平塚グランプリへ向けては既に多くの方が応援してくださっています。地元でのグランプリというのは一度走らせていただいているんですが、他とは全く違う、素晴らしい舞台でした。今年の年末にそこで走らせていただき、さらに優勝ができたら本当に嬉しいし、みんなも喜んでくれるのかなと思うので、まずはそこを最大目標として、今年は何が何でも出場を目指して頑張りたいです。
山口:まずはタイトルホルダーへ、ですね。
尾崎:はい、GIを取ることが今の一番の目標です。そのために何をしなければいけないかをしっかり考えて、毎日悔いなく過ごしたいなと思います。
山口:そういう意味では昨年のグランプリ3着という結果は、今年のGIを戦うにはかなり優勢ですね。(注:グランプリ3着以内の選手は、全てのGIに出場する権利がある)
尾崎:本当に大きかったです!実はその権利のことは知らなかったんですよ。終わってから記者の方に教えてもらいました(笑)そんな権利もあるんだ!ってびっくりしたけど嬉しかったです。
山口:勝ち上がりの厳しい『オールガールズクラシック』は特選の位置付けのティアラカップからスタートしますし、有利ですよね。
尾崎:はい。良いものをもらったので、しっかりチャンスをいかせるようにしたいです。
山口:では、ガールズグランプリのレースをちょっと振り返っていきます。スタートして、各選手前を取る動きがありました。尾崎選手がまず先頭誘導員の後ろにいこうとした時に、佐藤水菜選手(神奈川114期)が前にきましたが、あの動きはどうでしたか?
尾崎:予想外でしたね。サトミナが前からレースをするとは思ってなかったです。一瞬どうするか迷ったのですが、一番人気の選手ですし強い選手なので、自分の目の前にいるというのは、私にとってもプラスかなと思って後ろにつきました。
山口:その後は、坂口楓華選手(愛知112期)が仕掛けてきた時はいかがでしたか?
尾崎:誘導員が退避したバックストレッチは強い向かい風だったので、前にいるサトミナは迷っているように感じました。スピードがそこで緩んだので、後ろから誰かがカマシてくるかもしれないなと思ったんですが、とにかく踏み出しのダッシュがみんな良いので、そこで離れちゃったら誰かにサトミナの後ろに入られてしまいます。それだけは気をつけようと思って、後輪だけを見て集中していました。
山口:一気に残り1周でスピードが上がり、坂口選手、石井寛子選手が前に出た後はいかがでしたか?
尾崎:その時は、追走をするので精一杯でした。最終バックストレッチでサトミナが踏み上げていった時にきつかったので、どうしようかと少し焦りました。「これは足が回り切っちゃってるぞ」と。でもそこを過ぎてからはちょっと楽になりました。ただその位置から優勝を目指すのに、外のコースは行けなさそう、他どこか空いているコースはないか探していたら、内側から石井貴子選手(千葉106期)も追い込んでくるのが見えました。内側を空けると入られてしまうので、そこは気を付けながらコースを探したんですが、ダメでしたね。終わった瞬間の感想としては、足が足りないなと思いました。
山口:そうなんですね。
尾崎:はい、足りなかったなって率直に思いました。もうちょっと自分に余裕があれば、バックストレッチからのコースどりも出来たかなとか、4コーナーでもう少し良い位置にいられたかもしれないな、と思います。
終わった直後にそう思ったんですけど、でもグランプリのあの瞬間で、自分ができることはやれたのかなと思います。グランプリに向けて準備もしっかりしましたし、練習もしたし、心の、気持ちの部分でもすごく良い状態で臨めたので、グランプリのレースに関しては自分がやるべきことはできたかなと思いました。
山口:グランプリへ向けての準備について、言える範囲で構いません。詳しく伺うことはできますか?
尾崎:12月は1本走らせてもらいましたが、競輪祭女子王座戦が終わった後は基本的にはグランプリに向けて集中しようと平塚競輪場で練習をしていました。男子選手の皆さんもすごく気を遣ってくださり、「どういう練習をやりたいの?」とか「どういう風にグランプリを走りたいの?」と聞いてくれ、練習も一緒に付き合ってしてくださいました。そのおかげで練習もすごく順調にできましたし、体調も良く毎日過ごせましたね。平塚の選手には感謝しています。
山口:素晴らしい環境だったんですね。平塚競輪場では壮行会もあったんですよね?
尾崎:はい。北井佑季選手(神奈川119期)と一緒に。皆さんに声を掛けてもらい寄せ書きをいただきました。それは玄関に貼って、毎日それを見て頑張ろうと思っていましたね。
山口:力になっていたんですね。
尾崎:はい!
山口:戦法やコースどりについてですが、言える範囲で構いません。以前はコースを探しての追い込みはあまり得意じゃないというお話を伺った記憶があります。今は全くなさそうですよね。
尾崎:何でもできる選手になりたいので、危なくない範囲でですが、他の選手に譲っちゃいけない部分もありますし、自分が主張するべきところはしっかり主張しないといけないなと思っています。
山口:ビッグレースでも主張する部分はされて結果を出していますもんね。
尾崎:もし引いてしまったら着が大きく変わる場合が多いです。でもそれを主張するためには脚力がないとできないです。自分を守るためでもありますし、脚力は磨いておかないといけないなと感じます。
山口:どんな場面でも余裕を持って、視野を広く走るためにはっていうことですかね。
尾崎:そうですね。グランプリはいっぱいいっぱいで、視野がちょこっとの点くらいしかありませんでした。もう少し余裕があれば「ここのコースかな、ここも空いている。こういう風にまくりにいってみようかな」と、選択肢も生まれます。
山口:では今年の強化していくところは主にそこですか?
尾崎:そうですね。グランプリでも感じたので、もっとやっぱり脚力をつけたいです。スピードや縦脚も足りてないですね。この前も松山予選2で太田りゆ選手(埼玉112期)とレースをした時に感じました。あのレースは自分のレース展開の作り方も下手でしたが、りゆちゃんのスピードとダッシュは本当に凄いものでした。そういう人たちと戦っていくためには、自分も少しでも近付かないとキツいので、そういう武器を自分も手に入れたいです。
山口:太田選手は昨年後半から競輪に専念ですし、今年はナショナルチーム組もGIは走りそうですもんね。
尾崎:そうですね。その中で戦うには自分にしかできないことを磨いていかなきゃいけないですし、そのためにはしっかり足も作っていかないといけないので、練習を頑張んなきゃなって思ってるところです。
山口:昨年1年は無事に怪我なく走りきれたと話していましたが、モチベーションの保ち方はどうしていたんですか?
尾崎:単純に楽しいので、モチベーションは自然と良いところで保たれていましたね。数年前はあんまり自転車に乗っているのが楽しいとは思わなかったんです。
山口:仕事だぞ、という意識ですか?
尾崎:それも少し違って、ただ賞金を積み重ねるためだけに走っていましたね。機械的にただ本数を一生懸命走って、賞金は今どれくらい積み重なったか、そこに感情はあまりなかったです。 2ヶ月間あっせんが止まって、休む機会があったんですが、その時に考え方が変わったというか、いろんなことを考えるようになりました。他の人の自転車に対する姿勢だったり、競輪に対する気持ちだったり、周りの人をとにかく見るようになったんです。今までは全然周りの人のことは見ていなかったなと気付きました。
山口:それはガールズ、男子問わずですか?
尾崎:はい。練習を一緒にしてくださる男子選手のことはよく見ていたので例外なんですけどね。開催に行った時には、他のガールズも男子選手も何をやっているか見ずに、「レースに行って賞金を積み重ねていただけ」でした。しかも、ただ数字上に積み重ねる。お金が欲しいとかレースに勝ちたいとかそういうんじゃなく、グランプリのために賞金をただ積み重ねにいってるだけみたいな。だからその時の私は、無駄なことをしないように控え室にずっといましたし、部屋に閉じこもっていましたね。
でもあっせんが止まり、グランプリ争いも厳しいぞとなった時ふと周りを見たら、そこで初めてみんなのことが見えるようになって、「そういうやり方もあるんだ」とか「そういう考え方もあるんだ」と気付き、いろんな人と話すようになりました。話すうちに、「あの子と比べて自分はどうだろう」「こういう練習もしてみようかな」と思うようになったんです。強い選手に直接質問しにいったりもしましたね。今までは疑問に思うことすらなかったのに。
そういう経緯で「じゃあこういう風に自分はしてみようかな」と考えるのが楽しくなってきました。それが自転車にも繋がって、レース内容はどうだったか、乗り方がどうだったか、少し変えてみようかと試行錯誤をすることが増え、「あれ、いっぱいやることあるな」と思うんです。
それ以前に比べて、単純に練習の量も増えましたし、やることが多くなり、時間が足りないなと感じることがありますね。それは切羽詰まった時間が足りないではなく、「あれもやりたい。これもやりたい。けど、今日はもう終わっちゃう。じゃ明日やろう。でももうすぐレースだ」みたいな感じの、前向きというか、楽しいから時間が足りない感覚です。
だからすごい楽しいんですよね。「GIを取るためには今のままじゃダメだ」と思ったのが始まりだと思うんですが、それが今も続いています。
山口:どなたに聞いた話が印象に残っていますか?
尾崎:日野未来選手(奈良114期)に違反訓練のときに「どういう感覚で踏んでるの?なんでそんなに進むの?」と聞きました。彼女もダッシュ力は凄いんですよ。後は「こういう練習してみようと思うんだけど、どう思う?」と聞くと、彼女が感じていること思っていることを答えてくれました。
平塚の選手だと松坂洋平選手(神奈川89期)や桐山敬太郎選手(神奈川88期)も結構アドバイスをくれます。実はそれまではお会いしても挨拶をするくらいで、そんなに話をしていただけるような感じじゃなかったんですけど、昨年くらいからアドバイスしてくださるようになったり、自分も疑問に思ったことを聞いたりしています。お二人もきっといろんなことを考えてあの地位にいると思うので、私がぶつかってる壁はもうすでに経験されてるんですよね。だから「俺はこうだったから、こうだと思うけど、それがあなたに合うかはわからない。けど、こうしてった方がいいんじゃない?」と経験を踏まえてアドバイスをくださいます。悩んでる部品やフレームがあった時も「続けていった方が良いと思うよ。続けていくと良いことあるよ」と言ってもらいました。
今までは師匠(渡邊秀明選手/神奈川68期)が軸で、ずっと師匠のアドバイスを聞いてきたんですがそれは変わらずに、そこからプラスアルファ他の方の意見が入ったり練習方法や乗り方を見て、だんだんと視野が広がる気がします。わからなかったらその方に直接聞きますし、聞いたら皆さんちゃんと答えてくれるんですよね。自分が悩んでいることがあった時は、意見をくれるのはありがたかったです。周りの方にも感謝してますね。
山口:それは尾崎選手が変わった、ではないですが、方向性を変えたなっていうのを皆さんが感じたのではないでしょうか。
尾崎:あー、確かに、自分が狭まってた視野をパンって広げたからもしれませんね。みんな本当に優しいんだなと思います(笑)
山口:トップ選手もたくさんいる中でずっと一緒に練習をされていたら、聞いた方が良い時は絶対ありますもんね。
尾崎:本当にそうですね。競輪はいろんな選手がいてクラス分けもされています。でもずっと長くやっている方は、練習を見たりお話を聞いていると「年齢を重ねても競輪選手として長く戦っていられる」理由が分かる気がしました。学ばせてもらってるのはありがたいです。
山口:尾崎選手が吸収することはいっぱいありますね。
尾崎:そうですね。時間が本当に足りないです(笑)周りから良いことはどんどん吸収して、何でもできる選手になりたいです。
山口:ありがとうございます。では、最後にオッズパーク会員の方へ向けて、今年の目標やメッセージをお願いします。
尾崎:ファンの方が応援してくださって、今、選手としてまだ一生懸命頑張れています。今年、地元平塚で行われるガールズグランプリで優勝して、その方たちと一緒に喜べるように頑張ります。
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※インタビュー / 山口みのり
三重県松阪市出身。フリーアナウンサー/ナレーター。
各競輪場で中継司会やリポーター、イベント司会などを担当。
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※写真提供:公益財団法人 JKA
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