先週9日、水沢1600mを舞台に行われたシアンモア記念トライアル「第48回赤松杯」はグローリーグローリが快勝。JRAダート4勝、障害1勝から転入後、2連勝マーク。シアンモア記念でも有力候補に浮上した。
菅原勲調教師「冬場、牧場で乗り込んでいたので春始動から仕上がっていた。初戦はメンバーが甘かったが、今回は岩手一線級が相手。今回の赤松杯が真価を問われる一戦だったが、強いレースをしてくれた。跳びの大きい馬なので広いコース向き。今年のシアンモア記念は盛岡が舞台だが、おそらく合うと思う」
2着に敗れはしたが、ヴァケーションは逃げて最後まで粘った。実戦を使って臨んだグローリーグローリに対し、今季初出走のハンデを考えれば上々の滑り出し。春の目標はシアンモア記念2連覇。「シアンモア記念へ向けて一度使いたかった」と畠山信一調教師。ヴァケーションも過去実績から左回り盛岡は歓迎。
昨年暮、南関東から転入してトウケイニセイ記念、桐花賞と重賞2連勝を飾ったノーブルサターンは4着。直線の伸びがひと息だったが、当日の馬体重が過去最高の545キロ。ひと叩きされれば体が絞れ、上昇確実。盛岡コースも2019年、JpnIII・マーキュリーカップでグリムの2着なら問題ない。
ゴールデンヒーラーの動向からも目が離せない。赤松杯はスキップしたが、冬期間は北海道で休養。初の放牧で一回り大きくなってきました―と担当の渡辺正彦きゅう務員。彼は北海道2勝から転入後、重賞3連勝を含む破竹の4連勝中ミニアチュールも担当。仕上げに手抜かりはない。
さてグローリーグローリだが、担当は牧野孝光きゅう務員。この名前に記憶がある方はディープなファン、そして競馬キャリアが長いはず。通算2648勝。2011年に廃止した荒尾競馬場の看板ジョッキーだった。荒尾リーディングジョッキーにも10度輝いた。さらに古い話だが、かつて園田競馬場の名物レースだった「楠賞―全日本アラブ優駿」を荒尾・ダイメイゴッツで優勝した。
しかし荒尾競馬の廃止に伴い、騎手免許を返上。育成牧場でトラックライダー(乗り手)に転身したが、年齢制限によって馬から降りなければならなかったという。そこで声がかかったのが菅原勲きゅう舎。
菅原勲調教師と牧野孝光さんは北と南と離れていたが、同学年でもあり、騎手教養センターの同期生。荒尾騎手招待、M&Kジョッキーズカップなどで岩手へ来訪。菅原勲騎手といっしょに騎乗したことも何度もあった。
また、ご存知の方もいると思う。2008年、冬期間に岩手所属馬、調教師、騎手、きゅう務員が荒尾へ移動。岩手競馬が大変な時期に丸ごと引き受けてくれた。当時、自分も荒尾競馬場にお邪魔して櫻田浩三さん(故人)のきゅう舎で寝泊まり。牧野さんを始め、いろいろな方にお世話になった。
牧野さんとはあの時以来、お会いしていなかった。昨年、菅原勲きゅう舎に入ったとの話は聞いていたが、コロナ禍できゅう舎へ入ることができず、今回の赤松杯表彰式が15年ぶりの再会。
「おめでとうございます。お久しぶりです」と声をかけると、満面の笑みで挨拶してくれた。馬に乗ることにこだわった牧野さん。当時と比べ、芦毛はかなり進んでいた(失礼!)が、笑顔は全然、変わっていなかった。
おそらくだが、優勝表彰式で表彰台に立ったのは荒尾競馬以来のこと。荒尾のみなさん、牧野さんは元気です。岩手の重賞も取りましたよ!
今週の岩手競馬
16日 メイン11R 第23回留守杯日高賞
17日 メイン11R 夢・希望・未来へ前進
18日 メイン11R 桜並木賞
文・松尾 康司
4月9日に行われた古馬ダートマイルの重賞・シアンモア記念トライアルの『赤松杯』。昨年の桐花賞で上位を争った馬たちの今季始動戦ともなりましたが、優勝したのはこの春に転入のグローリーグローリでした。
昨年の年度代表馬ヴァケーションが自らハナに立って主導権を握り、クロールキックが2番手、そして昨年の桐花賞を制したノーブルサターンがそれを外からマークする3番手で進んでいったスタンド前直線。グローリーグローリはさらにその後ろの内側を追走していました。「戦前の作戦では行ければ2番手。でも返し馬の感じから前に馬を置いた方が流れに乗りやすいと判断しました(山本聡哉騎手)」。
やや抑えたペースで進んでいたヴァケーションがいよいよ仕掛けていった勝負所、食い下がるクロールキックとノーブルサターンの後ろでグローリーグローリは少し離れた4番手。4角を回ったあたりではまだ前との差が大きかったグローリーグローリ、この辺では外にいるセイヴァリアントの方が手応え良く見えたくらいでしたが、直線半ば、加速がついたグローリーグローリが伸び始めると一気にヴァケーションを捉えてゴール。結果は半馬身差を付ける快勝の形となりました。
勝ったグローリーグローリはこの春に転入してこれで2連勝。JRA時代の末期こそ障害に移っていましたが平地でもダートオープン級で好走してきていて東京コースも得意。盛岡に変わって戦う次戦も注目の存在になりそうです。
4月11日のメインレースは12レース・ダート850mのオープン『スプリント特別』。本命は(8)カタナを採りました。
JRA時代も短距離路線を中心に戦っていた同馬でしたが1000mあたりのスプリント戦に挑んだのは岩手に来てから。しかし前走の3月26日『ハヤブサ特別』あるいは昨年12月の『スプリント特別』と岩手で勝ったのはいずれも850m戦、この距離への高い適性を示しています。前走は少頭数・雨で水が浮く不良馬場のやや特殊な状況ではあったものの、最後まで伸び脚を維持しながらきっちり差し切った走りはむしろこの距離がベストと感じさせるもの。
今回は違う距離から転戦してきた馬もいますが850mで抜けた実績を持っているほどの存在はいませんし、一連の内容からもここでもこの馬が中心と見るのが妥当であり当然でしょう。
相手は当初エコロワカの予定でしたが出走取消となったので、改めて(2)ディアリッキーを。前走は◎の3着、初めての850m戦は若干忙しかった印象がありました。昨年のレースを見ていてもスタートダッシュがすごく速い馬ではないですからね。もう少し距離が欲しいのは確かなのでしょう。
とはいえ、忙しい距離・不良馬場で前の馬の勢いが止まらない状況下でも上がり最速で3着を確保したのは地力のなせる技。前走の先着馬が一頭抜けたということなら、そして前走時のような馬場でないのなら、◎との差も詰まってきていいはず。
そうなると悩むのが三番手ですが、ここは(7)セイキングダムにしましょう。短い距離が良さそうな戦績なのはアジアエクスプレス産駒だから納得できるとして、この馬の場合は距離適性云々というよりは集中して戦えるかどうかにかかっているような印象があります。歯車が噛み合えばやたら強い走りを見せる馬でもあり穴馬、惑星としての期待をかけるにふさわしいとも言えそう。
以下は(1)シングンポラリス、(5)サンエイロード。特に後者は休み明けになりますが意外に短距離が合いそうな戦績だけに一点押さえておきたいですね。
●12Rの買い目
馬単(8)=(2)、(8)→(7)、(8)→(1)、(8)→(5)
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10日メインはA級二組「若草特別」(水沢1600m)。各方面から話題と注目を集めているシンザン記念馬キョウヘイが満を持して始動する。
フレイムウィングスは中央ダート2勝2着2回。3歳重賞・レパードステークスにも挑戦して10着。将来を嘱望されたが、気性難を抱えていたため4歳6月、2勝クラス・青梅特別4着後に去勢手術が施された。それで変わり身あるかと思ったが、4着最高。南関東へ移籍後も入着一杯のレースを繰り返していたが、昨年12月、川崎1500m(B1・2戦)を快勝。1年半ぶりの美酒を味わい、長いトンネルから抜け出した。
続く一戦6着から2ヵ月半の休養を経て転入。初戦を2着にまとめ、マズマズの滑り出しとなった。しかも勝ったクロールキックは前日の重賞・赤松杯へエントリーし、絶好の勝機。しっかり白星を手にしたいところだろう。
キョウヘイは2017年、GIII・シンザン記念を優勝。ペルシアンナイト、アルアインなど後のGIホースらを一蹴した。翌年も阪神芝1800m・垂水ステークス(オープン)を快勝したが、以降は勝ち星から遠ざかり、昨年8月からダート路線へシフト。初戦の阿蘇ステークス(小倉ダート1700m)0秒8差6着でメドが立ったかと思ったが、以降3戦は二けた着順に終わり、岩手へ新天地を求めてきた。
佐藤雅彦調教師「パワーの要る地方ダート対応が未知数だが、こなせる素地はあるはず。当面は芝ダートの両にらみで使って行く予定。もちろん盛岡芝も視界に入っている。ファンが多い馬ですからね。いずれもう一花咲かせてやりたいと思っています」
実績申し分なし。ただ佐藤雅彦調教師のコメントどおり地方ダートを克服できるか否か。あえて対抗評価としたのは期待と不安の両面があるから。一個人としては何とかダートもこなしてほしいと願っている。
リュウノゾロは門別2勝、中央ダート2勝。3勝クラスに在籍した。南関東では未勝利だったが、高知で1勝をマークして転入。初戦は6頭立ての少頭数にも恵まれて完勝した。今回は相手強化、マイル延長など課題はあるが、勢い重視。このメンバーなら主導権を握ることができ、あっさり2連勝まで。
ユノートルベルはシーズン開幕戦を快勝。幸先のいいスタートを切ったが、2戦目は伸びを欠いて4着。水沢2勝とこなせない訳ではないが、注文がつくのは事実。すんなりの流れなら反撃に転じる。
サンエイブレーヴは3歳重賞路線に乗って東北優駿(岩手ダービー)3着、ウイナーカップ2着。古馬編入後は苦戦を強いられたが、最終戦2着で通用のメドが立った。前走は7着に終わったが、久々も影響。ひと叩きされて巻き返し必至。
ブラックバゴは昨年、OROカップ2度目制覇を狙って岩手入りしたが、ダート2勝。主戦場が変わった。ただ小回り水沢だと持ち味を生かし切れず、現状は前崩れの条件が付く。
◎①フレイムウィングス
〇③キョウヘイ
▲⑤リュウノゾロ
△⑨ユノートルベル
△⑫サンエイブレーヴ
△⑩ブラックバゴ
<お奨めの1頭>
2R ノーブルゲート
南関東C2から転入後、850m戦で連勝。適性の高さを誇示した。今回は好調馬がそろったが、それでも追いかける手
9日メインは重賞「第48回赤松杯」(水沢1600m)。1着馬から3着馬には春のマイル王決定戦・シアンモア記念(5月7日 盛岡ダート1600m)の優先出走権が与えられる。当初、昨最優秀牝馬ゴールデンヒーラーの登録もあったが、出走を見送った。しかし、ほかの一線級がずらり顔をそろえ、今シーズンの古馬戦線を占う重要な一戦であるのに変わりはない。
主軸にノーブルサターンを指名する。中央ダート4勝。2019年のマーキュリーカップで2着を確保し、3歳時にはJpnII・兵庫チャンピオンシップでも2着を確保したダート強豪。南関東移籍後も2021年の梅見月杯(名古屋)を制し、重賞・ブリリアントカップで2着を確保した。
昨年は精彩を欠いていたが、サンタアニタトロフィーでは6着ながら直線で鋭い脚を使って6着。復調ムードをうかがわせて岩手入り。トウケイニセイ記念を完勝し、続く岩手版グランプリ・桐花賞ではヴァケーションを完封。重賞2連勝を飾ってシーズンを終えた。
その後は宮城県の牧場で休養に入り、赤松杯から始動は当初の青写真どおり。ここに合わせて意欲的に乗り込まれ、万全の態勢で臨む。久々のハンデは地力でカバー。すでにトウケイニセイ記念で水沢1600mを勝っているのも心強い。
グローリーグローリは中央ダート1400m3勝、ダート1600m1勝でオープンまで出世した。その後、障害へ転向して1勝2着1回。転入初戦は未経験の地方ダートがカギだったが、0秒8差で圧勝。好発進を決めた。今回は岩手トップグループが相手。前走のようなレース運びはできないだろうが、仮に2連勝を飾れればシアンモア記念でも主役扱いになる可能性大。陣営も力が入る。
ヴァケーションはJpnI・全日本2歳優駿を優勝し、NARグランプリ2歳最優秀馬の栄誉を獲得した。以降は秋の鞍(2020年)の1勝のみにとどまり昨年4月に、岩手入り。これがずばりとはまり、赤松杯2着からシアンモア記念を優勝。JpnIII・マーキュリーカップでも3着善戦し、以降も岩手競馬の王道をまい進。1勝止まりだったが、年度代表馬に選出された。
冬期間はいつもどおり茨城の牧場でリフレッシュして帰郷。赤松杯から始動するが、あくまでも春の目標はシアンモア記念2連覇。過去実績から左回りの方が反応が鋭く、今年は盛岡で行われるシアンモア記念は大歓迎。その意味で赤松杯は叩き台。勝って当然だが、今回は単穴評価に落ち着く。
セイヴァリアントは昨年、南関東A2から転入後、3勝2着4回。トウケイニセイ記念でも2着を確保した。今季初戦は3着に終わったが、出遅れがすべて。時にゲート出が悪いケースもあり、不安がつきまとうが、スタート互角なら巻き返し必至。
クロールキックは2歳時に寒菊賞を制し、昨年の開幕初日、3歳重賞・スプリングカップで後の二冠馬グットクレンジングを子ども扱いにした。その後は脚部不安のため長期戦列離脱。桐花賞でひとまず復帰したが、さすがに息が持たず9着。しかし一度レースを使って冬休みを迎えたのが奏功。今季初戦を快勝し、復調の手ごたえをつかんだ。
バスカヴィルは芝ダートを問わずいい脚を長く使えるタイプ。ただ前走はクロールキックに完敗3着。前崩れになった際の3着候補まで。
◎(6)ノーブルサターン
〇(2)グローリーグローリ
▲(1)ヴァケーション
△(5)セイヴァリアント
△(4)クロールキック
△(8)バスカヴィル
<お奨めの1頭>
3R ルドヴィカ
年をまたいで3戦連続で2着。惜しいところで勝利を逃がしているが、今回はメンバーが手ごろ。待望の初勝利に王手をかけた
文/松尾 康司
4月2日(日)、2023年度の岩手競馬がスタートした。騎手、調教師、競走馬の記録は3月11日(土)に再開した春競馬10日間が実質的なシーズンの始まりだったが、やはり日本では4月が新年度。管理者である岩手県知事・達増拓也氏が開幕宣言をした開幕宣言に多くのファンが集まった。
開催場所・水沢競馬場の入場者数は3855名。前年比105・5%とそれほど目立った数字ではないが、パドックに集まったファンは、昨年に比べてもはるかに多かったような印象だった。
この日、岩手競馬ジョッキーズへ2名が加わり、同日、開幕セレモニー終了後、岩手のファンにあいさつを行った。まず佐々木志音騎手。
「(初騎乗を前にして)とても緊張しています。自宅が競馬場の近くだったので父に連れられて遊びに行ったが、人馬が走る姿にあこがれました。騎手になりたいと思ったのは中学校2年生。今日デビューしますが、ひと鞍ひと鞍ていねいに乗り、一つでも多く勝ち星を積み重ねていきたいと思っています」
続いて葛山晃平騎手。先週お伝えしたとおり、現在は金沢競馬場所属だが、水沢がデビューの地。金沢代表で2010年、ダービーグランプリ2着(ナムラアンカー)。翌2011年は東日本大震災の影響で開催が5月までずれ込み、3歳牝馬交流・留守杯日高賞も5月30日、盛岡1600mで行われ、アンダースポットで鮮やかな逃げ切りを決めた。
パドックに集まったファンから"お帰りなさい!"の声をかけられると「ただいま!」が第一声。「金沢へ移ってからも旅行で何度か岩手へ来ましたが、変わっていない水沢競馬場に懐かしさを感じました。騎乗初日から多くの依頼が来て、本当にありがたいと思っています。何勝などの目標はありませんが、一生懸命に騎乗して岩手競馬を盛り上げたいと思っています」
さっそく4戦目・リスレツィオ(第5R)に騎乗し、圧倒的1番人気に応えて0秒3差で完勝した。
「強い馬でしたから普通に、あとはミスのない競馬をすれば勝てると思って臨みました。(千葉幸喜)きゅう舎が調子がいいので、自分も貢献したいと思っていましたからホッとしました。前から岩手で乗りたかったが、金沢と開催が被るのでなかなか実現できなかった。ですが、高知で騎乗していろいろ勉強になった。期間限定の面白さを知りました。同じ場所で乗ることも大事ですが、地方各競馬場でも騎乗できるのが騎手の特権。みなさんが喜んでくれるように騎乗しますので、応援よろしくお願いします」
葛山晃平騎手は大阪生まれで18歳から9年間、最も多感な時期を水沢で暮らした。今、当時を振り返って何を思うのか。いつか、ゆっくり話を聞きたいと思っている。今後も葛山晃平騎手、そして新人・佐々木志音騎手に注目してほしい。
今週の岩手競馬
4月9日(日) メイン12R 重賞「第48回赤松杯」(M3 オープン 水沢1600m)
4月10日(月) メイン12R A級二組「若草特別」(水沢1600m)
4月11日(火) メイン12R オープン「スプリント特別」(水沢850m)
文/松尾 康司