20日(日)、水沢2000mを舞台に「第51回一條記念みちのく大賞典」が行われ、4番人気ヴァケーションが8馬身差で圧勝。鮮やかな逃げ切りを決め、昨年、シアンモア記念以来、2勝目も重賞制覇で飾った。
村上忍騎手「戦法は特に決めてなかったが、結果的に内枠だったので逃げの手になった。道中は力みがなく、リズム良く走れていたので、いい形でレースを運べた。水沢では最後でちょっと差される競馬が続いたから、馬の力を信じて最後まで気を抜かないように心がけた。前回(シアンモア記念)は気が入りすぎて凡走したので、きゅう舎スタッフと相談して調整の仕方を変えたのも良かったかもしれない。ようやくヴァケーションで結果を出せたし、ボク自身も久々(一昨年・不来方賞=マツリダスティール)以来の重賞制覇だったので、非常にうれしいです」
少々、解説をさせていただきたい。シアンモア記念7着は気が入りすぎたのも敗因だったという。実は最終追い切りを村上忍騎手に依頼した。結果、好タイムをマークしたが、これでヴァケーションにスイッチが入ったかもしれない。
競走馬は非常に繊細。このパターンで凡走するケースは決して少なくない。もちろん大一番だから、実戦並みの追い切りは必要だが、中には実戦と勘違いすることもままある。
以上のことを踏まえて陣営は1週前追い切りを村上忍騎手に頼み、最終追い切りはいつも騎乗する調教師補佐が敢行した。結果、力みがなくなり、リズムよくレースを進めることができた。
また村上忍騎手は昨年、重賞未勝利。岩手のトップを張り続けたジョッキーが重賞を1勝もできなかった。おそらく自分自身が一番ショックだったと思う。今回、それをついに払拭。メインコメントに入れなかったが、「ホッとした」とぼそり。久々の重賞制覇の喜びは、想像以上に大きかった。
続いて畠山信一調教師「シアンモア記念は凡走したが、馬場と調子だったと思う。今回はいい状態で臨めたし、ジョッキーの好判断も勝因。みちのく大賞典を勝って馬運車に名前が刻まれるのが目標でしたから、夢が一つ叶いました。次走予定は昨年と同じくマーキュリーカップです」
レース直後"おめでとうございます"と声をかけると、クールで知られる畠山信一調教師が"やったぜ!"と力を込めて返してくれた。こちらにも感動と興奮がヒシヒシと伝わってきた。
振り返れば鳴り物入りで昨年転入。ちょくちょく匂わしていたが、話は一昨年からあったという。それで茨城の牧場に会いに行ったが、岩手競馬は終盤にさしかかり、馬場の悪い時期には走らせたくないと判断。入厩を春まで待ってもらった。
初戦の赤松杯は2着だったが、久々を考えれば収穫大。やれる手ごたえをしっかりつかみ、続くシアンモア記念を快勝。ヴァケーションを見事復活させた。続いてみちのく大賞典3着からJpnIII・マーキュリーカップでも3着に健闘。以降も王道を歩み続け、年度代表馬に選出されたが、シアンモア記念の1勝のみ。勝負事だから...と語りながら、畠山信一調教師はずっと忸怩(じくじ)たる思いだったに違いない。
畠山調教師「これで、仮に引退した後でも馬運車ヴァケーション号を見ることができる。調教師冥利に尽きます」
改めて言いたい。畠山信一調教師、オーナーの鈴木雅俊さん、担当者の川島学くん、そして村上忍騎手。優勝おめでとうございます!
今週の岩手競馬
25日 メイン11R 「第47回ウイナーカップ」(3歳 盛岡ダート1400m)
26日 メイン12R 「朝顔賞」(B1級 盛岡芝1700m)
27日 メイン11R 「はまなす賞」(3歳準重賞 盛岡芝1600m)
6月20日のメインレースは12Rに行われる重賞『一條記念みちのく大賞典』です。ダート2000m、チャンピオンディスタンスで行われる古馬の頂点を競う戦い。来週からの盛岡開催は芝路線が中心になっていくので、ダートの中長距離のタイトルを目指す馬にとってはここが前半の総決算にもなります。
今年も水沢競馬場で行われる一條記念みちのく大賞典は昨年に続いて12頭のフルゲート。いずれも好調でここに挑む模様で、各馬とも地力発揮の激戦を期待できそうです。
本命は(10)ゴールデンヒーラーです。
昨年のこのレースでは2着でしたが、逃げて2周目の4コーナーを先頭で回ってきたのはこの馬。同型先行馬との競り合いを自力で押し切ったところを差し馬にしてやられた形の敗戦でした。最後は確かに止まり気味でしたし、キャリアから見ても2000mはやや長いだろうと感じるのも確かですが、坂越えを要求される盛岡はともかく平坦で流れが落ち着きやすい水沢の2000mなら守備範囲と見ていいでしょう。
となると問題は前走時の敗戦の影響がどうなのか?なのですが、その後の調整過程の状況を聞く限りでは問題はなさそう。力を出し切って戦えるならここでも十分に勝負になると判断しました。
対抗は(8)ノーブルサターンとしました。昨冬に転入して4戦しかしていませんが既に3勝、いずれも重賞なのですから高い地力を持っている事は明白。同じ距離の桐花賞を制している点も大きな魅力であり武器です。
この馬の場合は恐らく距離云々よりも勝負所でごちゃつかず楽に動ける展開が欲しいタイプだと思います。なので集団がばらけがちな中長距離で強さを発揮しやすい。その意味で今回のような条件はベストですし、今の水沢の、外差しが極端に不利ではない馬場傾向も戦いやすいのでは。
▲の三番手は(2)ヴァケーションに。この馬も前走の敗戦が気にはなるところですが追いきりの動きは絶好だった模様。距離に関しても昨年のこのレース3着、桐花賞2着、いずれも僅差なのですから実績面でも最右翼と言える存在。復活の可能性は十分ある、勝ち負けまであっていい▲の評価。
好調馬が多いだけにもっと印をまわしたいところですが我慢して、ヒモはまず(6)マイネルアストリア。昨年のこのレースは1番人気5着と敗退。ただその時は転入直前のJRA戦からかぞえて5戦目だった点は念頭に置いておくべきかもしれません。今年は休み明けの前走を叩いて二戦目。フレッシュな状態の方が走る可能性に注意。
もう一頭は好調さをかって(1)フレイムウィングス。JRA時代は1800mや1900mあたりの距離を主戦場にしており距離は問題ないでしょう。中間の順調さも上々。ただ、この馬はどちらかといえば稍重・重といった軽い馬場での好走が多いタイプで前走のシアンモア記念も不良でした。好天の乾いた良馬場が想定される今回はちょっと割引と思っておいた方がいいかもしれません。
●12Rの買い目
馬単(10)=(8)、(10)=(2)、(8)=(2)、(10)→(6)、(10)→(1)
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19日メインは「スプリント特別」(オープン 水沢1300m)。各馬が一長一短のメンバーに加え、1300m適性、水沢相性など不確定要素が多く、非常に悩んだ。おそらく人気も割れるに違いない。
オンラインボスは門別1勝、南関東2勝から昨年転入。3歳重賞・不来方賞3着、3歳芝準重賞・はまぎく賞でも3着など万能型をアピールした。古馬A級編入後も勝ち負けを演じ、冬休み明け初戦を快勝。好発進を決めた。
続いて重賞・栗駒賞へ挑戦5着。勝ったのがゴールデンヒーラーでは相手が強く仕方なしの結果。自己条件に戻って2戦連続で2着を確保した。ここでは順調度が何よりも強みとなり、今が力をつけていく4歳馬。3歳2月の一戦後、去勢手術が施され、その効果は年を重ねるほど出てくるのがセン馬の特徴。1300mは未経験だが、タイプ的に歓迎。首位を奪回するチャンスと見た。
サザンジンジャーは高知で12勝をマークしてA級まで出世。転入後も4戦2勝と上々の結果を出している。気になるのは先手を取れないと伸びを欠くこと。3走前4着、そして前走8着もそうだった。ただ前走は直線入り口で前が狭くなる不利があった点に酌量の余地。もう一つ強調材料がある。高知時代、1300m8戦5勝2着1回と抜群の連対率を誇った。今日のメンバーで先手を奪えるか微妙だが、1300mなら控えても我慢できるはず。距離適性を重視した。
トミケンキルカスは今季3着2回が最高と年齢的な衰えが見え隠れしたが、前走・盛岡1200m戦でタイム差なし2着。これが盛岡初連対で健在を誇示した。水沢1300mは3戦2勝と最も得意とする条件。ここでも好勝負できる。
ハナレイは前回快勝。トミケンキルカスの追撃を封じ、見事な逃げ切りを決めた。メンバーが骨っぽくなっているのは事実だが、重賞・栗駒賞9着以外は上位争い。先行力と持ち味の粘りを発揮する。
カミノコの評価には特に迷った。強烈な決め手を武器にJpnIII・クラスターカップ5着、重賞・絆カップ4着。今回は休み明け3戦目と走り頃と判断できるが、小回り水沢対応がネック。昨年終盤に水沢1400mで2着に突っ込んだが、本質的には盛岡向き。展開の手助けが必要だろう。
サンエイウイングは春競馬を快勝したが、以降は入着一杯。足踏みが続き、1300mに活路を求めてきた。初距離だが、折り合いを気にしなくていいなら、むしろ望むところか。今日が真価を問われる一戦となった。
◎①オンラインボス
〇④サザンジンジャー
▲②トミケンキルカス
△⑥ハナレイ
△⑦カミノコ
△⑧サンエイウイング
<お奨めの1頭>
7R セルゲイ
転入戦は2着だったが、コース2度目で圧勝。早め先頭から余裕で押し切り、地力を誇示した。同じ水沢1400mならもう一丁いける
18日メインは"がんばれ!新種牡馬競走"「ウィルテイクチャージ特別」(C1級 水沢1600m)。この名称は、スタリオンシリーズ(各競走の優勝馬主に対し種牡馬配合権利を付与するシリーズ競走)などで日頃からご協力いただいている馬産地・北海道のサラブレッド種馬場への謝意を表するとともに、本年度、各種馬場にスタッドインした新種牡馬の今後の活躍を祈念。各種馬場の主要な新種牡馬の名称を冠にした競走を実施するもの。
第1号はダーレー・ジャパンファームで繋養するウィルテイクチャージ特別。同馬は大種牡馬であるミスプロ系アンブライドルズソングの直仔でGI・トラヴァースステークス、クラークハンデなどを制し、同年のブリーダーズカップ・クラシックでも2着。エクリプス賞・最優秀3歳馬に選出された強豪。今年からダーレー・ジャパンファームでスタッドインした。
さて本題。当初、圧巻の2連勝中グレートキャンベラの登録もあったが、無理をせずスキップ。ディープインパクト産駒サトノマッスルが主力に浮上した。
中央7戦0勝だったが、ダート1700m~1800mで3着3回。その後、南関東へ移籍して1勝2着3回3着6回。大井1200mをメインにC1級でも勝ち負けを演じてきた。
今回は2ヵ月の休養を経て岩手入り。南関東C1→岩手C1編入は恵まれた格付けは誰の目に明らか。今後は芝も使ってみたいとのことだが、まずは実績あるダートで好発進を決めたいところだろう。
コスモピエドラは春競馬2戦目の水沢1400m戦を快勝したが、以降は7、11、10着。特に実績のない盛岡戦は二けた着順に沈んだが、敗因は自分の競馬に持ち込めなかったから。すんなり逃げ、もしくは好位外を追走できれば粘りを発揮し、前走2着がその典型。コース替わり、好枠からすんなり先手を奪い、バンフィエルドの2着に粘った。今度も同じ3番枠。その内2番枠に同タイプ・オーチンハラショウがいるが、外なら2番手に控えても問題なし。展開有利でレースを運ぶことができる。
ゴールデンギフトは好走と凡走の落差が激しいタイプ。シーズン2戦目を勝ったが、続く2戦は連続10着。しかし以降は2、3着にまとめて軌道修正できたかと思った矢先、前走8着に凡走。今のところ常識にかからないが、素質の高さは岩手2勝2着3回で証明済み。気分良くレースを運べるかどうか。好走のカギはそこにある。
ノボリターンはさきたま杯、プロキオンS、カペラS、かきつばた賞とダート重賞4勝ノボバカラの弟。中央0勝から南関東で6勝。B3級でも勝ち負けを演じた。金沢移籍後は2着2回が最高。今期は5着止まり。右回りに課題がありそうだが、それでも岩手C1は恵まれた。休み明けでもあっさりまで。
ティアーズインロゼは盛岡戦で2連勝を飾ったが、前走は後方のまま9着。最内1番枠が凶と出た。今度は大外9番枠を引き当て、巻き返しに転じるか。
アズマヘリテージは今季2勝。一瞬の脚が持ち味で展開はまれば一気突き抜ける。展開次第だが、先行激化で台頭がある。
◎⑤サトノマッスル
○③コスモピエドラ
▲④ゴールデンギフト
△⑥ノボリターン
△⑨ティアーズインロゼ
△⑧アズマヘリテージ
<お奨めの1頭>
1R キッズファイナル
転入戦2着は相手が強かった。むしろ連対を確保したことを評価するべき。メンバー甘くなって今度こそ初勝利を飾る
6月20日(火)は今年で51回目を数える岩手競馬の最高峰「第51回一條記念みちのく大賞典」(水沢2000m)。何度もお伝えしたが、優勝馬の馬名は盛岡、水沢をメインに往復する馬運車に刻まれる。昨年の覇者ステイオンザトップ号は昨年から走り始めている。
ふと思い、いつからみちのく大賞典を見ているんかな―と調べてみたら第9回、イチコンコルドオウが優勝した時からだった。鞍上は現調教師・伊藤和元騎手。当時は中央の元スターが主役を演じてきた。スリーパレード、テルノエイト、ハシクランツ(アメリカ・ワシントンDCインターナショナルにも挑戦)、ボールドマックス、サクラハイデン。オールドファンなら覚えている馬も多いはず。元中央の大物が転入すると、ライバルも意地になって元中央馬を岩手入りさせた。
その流れを変えたのはトウケイニセイの叔父トウケイフリート(第16回=1988年)だが、岩手デビュー馬が一気に頭角を現したのはスイフトセイダイ、グレートホープだった。
スイフトセイダイは2歳時から"東北の怪物"と言われ、第4回ダービーグランプリで初優勝をもたらした。以降も積極的に遠征を試み、東京大賞典はあのロジータの2着。JRA・オールカマー(5着)にも挑戦した。
地元に戻れば当然、圧倒的な強さを誇ったが、スイフトセイダイに挑戦状を叩きつけたのがグレートホープだった。おばあさんは天皇賞馬クリヒデ。父がノーザンダンサー系ノーザリー。岩手の主要重賞でスイフトセイダイと何度も激突したが、いつも屈服。それでも"スイフト越え"の目標をあきらめず挑戦し続け、2度目のみちのく大賞典(第19回=1991年)でついに同着。スイフトセイダイに挑戦9度目で初めて肩を並べた。
しかし以降は完膚なまでに叩きのめされたが、3度目のみちのく大賞典(第20回=1992年)で悲願の"スイフト越え"を果たした。今でも鮮明に覚えている。2頭は徹底的にマークし合い、直線は馬体をぶつけながら一進一退。最後はスイフトセイダイが根負けして3着(2着はホワイトシロー)。グレートホープはスイフト挑戦12度目にして、ついにスイフトセイダイを破った。
このスイフトセイダイvsグレートホープの戦いが岩手競馬の一大転換期。馬券だけではなく、スポーツにまで昇華した。もちろん1着スイフトセイダイ、2着グレートホープは枠連(当時は馬連もなかった)は200円以内。それでも通常より約1・5倍のファンが競馬場を訪れ、ライバル対決を楽しみ、そして興奮した。自分もその一人。両馬とも盛岡競馬場所属だったので、攻め馬の状態を目の前で見た。
以降、トウケイニセイ、モリユウプリンスのTM対決。またメイセイオペラは史上初の3連覇達成の偉業を達成した。なぜメイセイオペラはみちのく大賞典にこだわったのか。高額賞金もさることながら、故佐々木修一調教師は厩務員から調教師になった叩き上げ。みちのく大賞典の重みを誰よりも知っていた。
第45回、第46回を連覇したエンパイアペガサスは5年連続でみちのく大賞典へ挑戦。第47回、第48回は3着の屈辱を味わったが、第49回を見事優勝。メイセイオペラ以来のみちのく大賞典3度制覇の偉業を達成した。
駆け足でみちのく大賞典の歴史を紹介したが、地方交流、ダートグレードがスタートしても「一條記念みちのく大賞典」は今も昔も、今後も岩手競馬の最高峰。その一片をご理解いただけただろうか。
今週の岩手競馬
6月18日(日) 「ウィルテイクチャージ特別」(C1級 水沢1600m)
6月19日(月) 「スプリント特別」(オープン 水沢1300m)
6月20日(火) 「第51回一條記念みちのく大賞典」(オープン 水沢2000m)