デビューから21年目にして悲願の重賞初制覇を果たした廣瀬航騎手。ガリバーストームで兵庫若駒賞を制覇した瞬間、喜びの声を上げ、検量室前に引き上げてきてからは嗚咽が止まりませんでした。トップ層が厚い園田・姫路競馬での長い下積み時代を経て、37歳の今でも誰よりも調教に騎乗する廣瀬騎手が、少し照れながら心境を語ってくれました。
兵庫若駒賞をガリバーストームで優勝、おめでとうございます!
ありがとうございます。
待望の重賞初制覇となるゴールの瞬間はどんなお気持ちでしたか?
「レースに勝てた」という気持ちで、ホッとしました。その後、長い間苦労してきたことが蘇ってきて、込み上げるものがありました。
ガリバーストームはデビューから2連勝中で、前走の勝ちタイムもよかったです。プレッシャーはありましたか?
結構プレッシャーを感じていて、むちゃくちゃしんどかったです。プレッシャーに弱いんですよ。夜は眠れたんですけど、兵庫若駒賞までに少しレース間隔が空いたので、そこから感じはじめました。
レースを振り返ってみていかがですか?
逃げにはこだわらずにと思っていて、内から行く馬を行かせました。4コーナーを先頭で回りましたけど、ベラジオボッキーニがまだ近くにいて気になりました。正直、こちらの手応えがなくて、残り50mくらいで「(ピロコギガマックスに)負けた......」と思いました。いつものパターンなら、差されて負けていました。
それが「今回はなんとか凌げてよかった!」と。
そうです。それで、とりあえずホッとしましたね。
その直後には喜びの声が聞こえてきました。
それはもう「よっしゃ!」と思いました。
ピロコギガマックス(右)をクビ差でしりぞけ人馬とも重賞初制覇
先月には5連勝中で1番人気に推されたハナブサで園田チャレンジカップに挑むも、4着という出来事もありました。
あの時も常にプレッシャーを感じていました。ハナブサの時は挑戦者という気持ちでしたけど、今回は勝ちに行かないといけないと思っていました。
それだけガリバーストームの可能性も感じていたんですね。現時点での長所はどんなところですか?
テンが速いですし、乗りやすいです。あとは距離が延びてどうなるか、それはまだ分からないですが、能力はありますね。
廣瀬騎手は2001年4月デビュー。JRAに移籍した小牧太騎手や岩田康誠騎手がバリバリに活躍されていた時代ですね。
当時はジョッキーも50人くらいいて、デビューして12~13年はレースにあまり乗った記憶がないです。
それだけ競争が激しくてレースに乗ることさえ大変な時代だったんですね。減量特典も今は101勝を挙げるかデビューから5年までは付与されますが、当時は20勝で減量卒業でした。
環境のせいにはしたくなくて、自分が何か悪かったんじゃないでしょうか。その中でも伸びている後輩騎手もいますから。
そう感じつつも、努力が結果に繋がらないと腐りそうになることはなかったですか?
それはもう何度もありました。なかなか上手くいかなくてしんどいなとも感じますが、叩き上げでここまで上がってこられたのはミラクルじゃないかなと思います。
たまにですが調教を見に行くと、いつも最後の時間帯まで乗ってらっしゃいますよね。そういった姿勢が少しずつ評価されて、昨年・今年と騎乗数が園田・姫路で4位なのかなと感じます。
本当にありがたいです。毎日20頭以上、調教に乗ってきた甲斐があったのかなと感じます。
競馬で心がけていることは何ですか?
レースにほとんど乗れない時代が長かったので、どんな馬でも1頭ずつ真剣に「結果を出したろう!」と思って臨んでいます。もしかしたら他のジョッキーの方がもっと考えているかもしれないですけど、自分なりにはそう思って乗っています。
重賞初制覇を果たして、これからはどんなジョッキー人生を歩んでいきたいですか?
現状維持でいいんじゃないかなと思います。ここまでこられたら十分です。
最後に、オッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
今はこういう状況でなかなか競馬場に来ることは難しいと思いますけど、全力で頑張るので応援よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子
デビュー1年目に重賞初制覇を果たし、この7年は地元リーディング6位以内と、堅実な活躍を続ける大山真吾騎手。兵庫ダービーはこれまで2着2回、3着2回と手が届きかけたものの、意外にも未勝利でした。しかし今年6月10日、ついにスマイルサルファーで兵庫ダービー初制覇を果たしました。待望のダービージョッキーとなった今の心境とは。
兵庫ダービー制覇、おめでとうございます!一番喜びが沸いてきたのはいつでしたか?
次の日に「あ~、勝ったんやなぁ」という感じでした。1回は勝ちたいレースですね。
スマイルサルファーにはデビューから騎乗しています。最初の頃の印象はどうでしたか?
デビュー前の発走検査と能力検査から乗って、「そこそこ走ってくるかな」とは思いましたけど、当時は「普通」という印象でした。新馬戦を勝った後にすぐ牧場へ休養に上がって、帰ってきてから西脇トレセンへ能力検査に乗りに行った時に、「これは走るな」と感じました。成長したのか、いい休養になったのか、その辺りは分からないですけど、パワーアップして帰ってきました。
スマイルサルファーにとって兵庫ダービーが重賞初制覇でもありましたが、これまでで一番変わったと感じるのはその時ですか?
2歳10月のJRA認定レースを勝った後にまた休養に上がって、休養明けの兵庫ユースカップからはずっと強い相手とやってきたので力をつけてきたんじゃないかなと思います。兵庫ユースカップの時は休み明けが響いたかな、という感じのレースぶり。菊水賞は初めての距離でもしっかり走ってくれました。その辺りで「どこかで重賞を勝てるじゃないかな」と思いました。
兵庫ダービーの本場馬へ向かうスマイルサルファー
兵庫ユースカップ、菊水賞とともに4着でしたが、着差は詰めてきていましたね。続く5月14日の3歳A特別は菊水賞馬シェナキングにクビ差まで迫り、兵庫ダービーを迎えました。
差が縮まったかな、とは前哨戦で思っていました。兵庫ダービーは道中は内でずっと溜めたいなと思っていたので、内枠が当たったのは良くて、最後でどこか外に出られたらと思っていました。理想的な流れにもなりました。
3~4コーナーで大外からグーンと伸びてくるシーンを見て、4年前のスリーピーアイで2着の悔しさを思い出した人も多いと思います。
僕は全然(笑)。必死で、「なんとか」という感じでした。スリーピーアイの時は着差が着差(アタマ差)でしたし、「交わせるかな」と思っていました。でも、川原(正一)さんとブレイヴコールがもうひと伸びした感じでしたね。
今回は3頭横並びでしたが、きっちり差していました。勝ったと分かりましたか?
ゴール後、ゆっくり帰ってきていて、厩舎スタッフとかみんなが「勝った!勝った!」と言っていました。僕は確定するまでは「ホンマに勝ってるんかな?」と確信は持っていませんでした。
兵庫ダービーはゴール前3頭横一線の接戦を制した(手前、写真:兵庫県競馬組合)
大山騎手はこうして豪快に外から差す印象が強いです。YouTube生配信『オッズパークLIVE』でも競馬ブック・松原秀隆トラックマンが「人気薄の無欲の差しで、外を回してくる時によく馬券に絡む印象」と話していました。
馬場にもよりますけど、勢いがついたらブレーキをかけるよりかは少々ロスをしてもいいのかなと考えています。
松原TMとは幼馴染だそうですね。立場は違えど、同じ職場ってすごいですね。
小中学校と同じで、部活も塾も一緒でした。当時、競馬の話をそこまでした記憶はないですけど、競馬キンキ(2021年2月に休刊)に入社したと聞いた時は「なんで?」って感じでした(笑)。
さて、晴れてダービージョッキーとなったわけですが、大山騎手にとって兵庫ダービーとは?
馬も一度しか出られないですし、重みがあるレースだと思います。なかなか獲るのが難しいレースじゃないかなと思いますけど、木村(健)さんは5回も勝っていますもんね(笑)。すごいと思います。
木村元騎手(現調教師)は初ダービーまでは少し時間がかかりましたが、1回勝つとポンポンと勝っていきました。大山騎手も"ポンポン"があるんじゃないですか?
そうなればいいですけど。気持ちとか乗り方に変化があるのかどうか、来年も乗っていれば分かるんじゃないですかね。
園田・姫路では新人騎手が3名デビューしました。減量を生かしたレースが目立ち、展開がこれまでとは変わってきました。
3キロ減や女性騎手は4キロ減なので、一緒のレースやったらどれだけ追いかけたらいいのかは考えますね。逃げたらなかなか止まらないので、意識します。かと言って、追いかけると自分が止まっちゃいますしね。3人もいるので、一緒に乗っていたら難しいです。
そうした中、大山騎手もどんどんキャリアを積み重ねています。今の目標などは?
最低でも年間100勝はしたいなと思いますけど、去年が勝てなかったので......。そこが最低ラインかな。あとは毎年重賞を勝ちたいなと思っています。
最後にオッズパーク会員へメッセージをお願いします。
スマイルサルファーで今後、遠征に行く予定です。7月19日には西脇へ自主参加の能検に乗りに行ってきました。相手も強くなりますけど、よその大きいレースへ使いに行っても応援よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子
園田・姫路競馬初の女性騎手として4月13日にデビューした佐々木世麗騎手。中学生の頃は落語家を目指していたこともあるという一風変わった経歴の彼女は、当地リーディングの新子雅司厩舎に所属し、デビュー2日目にメインレースで初勝利を挙げました。
小さい頃から色々な習い事をしていて、落語も習っていたそうですね?
小学1年生から落語塾に通い始めて、年に1回、発表会で落語を披露していました。中学1年生の時には文化祭で独演会をやろうと思って校内にポスターを貼っていたら、学校に取材に来ていた地元番組の方から「密着させてください」と声をかけられて、「勉強と落語の二足の草鞋を履いて頑張る」みたいな感じで取り上げていただきました。
落語でテレビの密着取材を受けながらも、当時はすでに乗馬も習っていたんですよね?
はい、習いはじめていました。ジョッキーになろうと思って乗馬を始めたわけじゃなくて、両親から勧められてやっていた時なので、まだ落語家を目指そうかなと思っていた時期でした。
落語家ではなくジョッキーになりたいと思った一番の決め手はなんですか?
馬に乗るのが楽しかったからです。落語も楽しかったんですけど、趣味の一つだな、と感じました。
佐々木騎手の鞍には扇子に名前が入ったロゴマークが描かれていますが、落語を意識してですか?
そうなんです。父がデザイナーなので、ロゴマークやサイン、所属する新子厩舎のキャップやポロシャツなど全部作ってもらいました。腹帯にも別のロゴマークが入っているんですが、落語の芸名の「いねむり亭オーロラ姫」にちなんで、ティアラのマークが入っています。
父がデザインしたという腹帯のロゴマーク
4月13日にデビューを迎えました。改めてデビュー日を振り返っていかがですか?
ふぁ~って過ぎていきました(笑)。初日はたくさん騎乗依頼をいただいて忙しくて、1日が早かったです。
デビュー翌日のメインレースでは単勝1.5倍のワシヅカミに騎乗し、逃げ切って初勝利を挙げることができました。
デビュー戦より緊張しました。緊張すると、口角が上がって笑顔になって、唇がぷるぷるするんですが、まさにそうなってきて「緊張してるやん」って自分で思いました。デビュー前はあんまり出遅れたことがなかったんですけど、初日はすべて出遅れてしまって「こんなに難しいんだ......」と心が折れていましたが、ワシヅカミでやっとスタートに成功して勝てて、気持ちがすごく楽になりました。
単勝1.5倍のワシヅカミで逃げ切り初勝利(写真:兵庫県競馬組合)
続く最終レースもタガノオボロで逃げ切って2連勝でしたね。
それまではゲートを出そうと思っていたから上手くいかなかったんですけど、ワシヅカミをきっかけに馬について行こうと思ったら、ちょっと気が楽になりました。タガノオボロも楽な気持ちで乗れましたし、最近は最後にゲートに入る馬を見て「あ、もう出るな」と確認しています。
初勝利の翌日にはゴールデンバレットで3勝目を挙げますが、ゲートの中で馬がゴソゴソしていました。焦ったりしませんでしたか?
デビュー初日の最終レースのバジガクレオーネのように首をガンッと下げられると焦って声が出ますけど、ゴソゴソしている分にはゲートが開こうとする時に体勢を整えられるので、まだ大丈夫です。
デビューから3週間が経ち、(5月6日現在)6勝を挙げています。印象に残るレースは?
やっぱり初勝利を挙げたワシヅカミです。ゴールするまでは他の馬の脚音がバタバタ聞こえて「嘘やん!待って、待って」と焦りましたが、ゴールした瞬間、「やったー!」と思いました。
当時は有観客でご両親も応援に駆けつけていて、一緒に口取り写真に収まることができて喜ばれたのではないですか?
「やったね!」と声をかけられました。親はずーっと「ワシヅカミ、ありがとう」と言っていました。
プライベートでは、最近ウサギを飼い始めたとか?
すごく可愛いです!男の子で、名前はグラッブ。ワシヅカミが名前の由来です。
初勝利の記念撮影(写真:兵庫県競馬組合)
なるほど!「掴む」つながりですね。さて、これからの目標を教えてください。
馬主さんや調教師さん、厩務員さん、そしてもちろんファンの方たちから信頼を得られるレースをしたいです。勝てれば一番なんですけど、勝てなかった時でも最後までしっかり追って頑張っていれば、「コイツ、しっかり乗ってきたな」と思ってもらえると思うので、そういうところで頑張っていきたいです。
最後にオッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
ファンの方たちには声を上げていっぱい応援してほしいんですけど、今は無観客なので、競馬場に来て声を出せるようになったら、たくさん「世麗ちゃん」って呼んでください。応援してもらえるようなジョッキーになれるように頑張ります。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子
10月28日に地方通算3,000勝を達成した下原理騎手。しかし喜びもつかの間、その翌週、重賞8勝すべてでコンビを組んだタガノゴールドが金沢・北國王冠のゴール入線直後に倒れ、息を引き取りました。「体重をかけて心臓マッサージをしたけど......」と、相棒との悲しい別れをとげることに。その後、意気消沈する陣営のもとに訪れたのは、馬主・調教師・騎手すべてが同じコンビでの重賞制覇でした。
地方通算3,000勝、おめでとうございます。
ありがとうございます。リーチをかけたその日に決められたのも嬉しかったです。実況の竹之上次男アナウンサーと「あと1勝やね」って喋っていたんですけど、「どうやろなぁ......。今日決まればええけど、区切りの勝利にはあまりいい思い出がないからなぁ」と思っていました。そしたらパンッと決まって良かったです。
あと3勝で迎えたその日に一気に決めてしまうのはさすがです。「あと1勝」を翌日に持ち越すのと、その日中に決めるのとでは、気分は違いますか?
もちろん楽です。1,000勝の時は次の週に持ち込んだんですよね。2,000勝の時はそんなに引っ張らなかったと思うんですけど。
近年は新子雅司厩舎とのコンビでの活躍が目立ちますが、新子調教師は「うちの厩舎でメモリアルを決めへんからなぁ」と話していました(笑)。
あはは、たしかにその通りになりましたね。僕は気づいていなかったですけど、そう言われたら3,000勝は田中範雄厩舎の馬でしたね。
ところが11月8日の金沢・北國王冠では2着でゴールしたタガノゴールドが入線直後に心不全で倒れて息を引き取りました。昨年、兵庫の年度代表馬に輝き、長距離で強さの光った馬。本当に残念です......。
ゴール前では勝てるパターンに入っていて、クビくらい前に出ていたんです。でも、「あれ?」って感じで「あぁ、負けた」という瞬間にガクッと倒れました。腹帯をすぐに外して、左側が上になっていたから「あ!これはいけるかも」と思って体重をかけて膝で乗ったりして心臓マッサージをしましたけど、無理でしたね......。
タガノゴールド(2019年12月5日・園田金盃)
帝王賞のレース中に予後不良になったオオエライジインもそうですけど、兵庫代表として他地区に戦いに行っての死というのは、本当にやりきれない思いが込みあげてきます。
チャンストウライも園田で競走中止しましたし、走る馬は何かありますね。(東海菊花賞の)タガノジーニアスも究極の仕上げできているなって思いました。究極の仕上げで、馬も自分も精一杯走って。しっかり仕上げているからこういうことが起きるのかもしれないですね。
より速く走るために品種改良を重ねてきたのがサラブレッドですが、本当にギリギリのところで戦っているんだなと改めて感じさせられました。それだけに、5日後の名古屋・東海菊花賞をタガノジーニアスで勝たれた時のお気持ちというのは?
その前のことがあってのこの勝利やったから、嬉しかったです。やっぱり、ガッツポーズが出ましたね。僕もゲートに入る前、「無事に走り終えてくれよ」って、タガノゴールドのことがよぎったんですよね。勝てたことも嬉しいけど、ああいうことがあった後に同じ馬主さんの馬で無事に走り切って勝ったので、余計に嬉しかったです。決して緩いメンバーじゃないって思っていましたし。
東海菊花賞を制したタガノジーニアス(写真:愛知県競馬組合)
金沢からの流れを見ていた人からすると、胸にくるものがありました。
レースが終わった後に西脇の若手ジョッキーとかみんながメールをくれて、感動して喜んでくれてよかったなって思いました。
話を下原騎手ご自身に戻して、2016年9月に2,000勝を達成してから今回の3,000勝までは早い印象です。2015年からは毎年年間200勝を超えていますね。
みんなからそういう風に言われますけど、僕はそんなに早いとは思っていないです。年間200勝は毎年の目標です。それだけ勝負気配のある馬に乗せてもらっているってことで、ありがたいですね。
すでに3,000勝も挙げられた下原騎手に「目標は?」と聞くのも恐縮ですが、最後にオッズパーク会員のみなさんにメッセージや意気込みをお願いします。
目標の1つに挙げていたのが「重賞71勝」(兵庫の騎手として重賞最多勝記録)でした。そしたらタガノジーニアスで71勝できて嬉しかったです。強かったので、もっともっとタガノジーニアスと勝ちたいなと思いましたし、ステラモナークもエイシンエンジョイもいます。そういう強い馬に乗せてもらっているから、もっと重賞を勝たないといけないなって思っています。3,000勝は通過点なので、4,000勝を目指してこれからもがんばります。応援よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子
今年、念願の兵庫ダービーを制覇した杉浦健太騎手(兵庫)。新型コロナウイルス感染拡大の影響により無観客開催中で、「ウイニングランをしたかった」と残念そうでしたが、それでもダービージョッキーになった実感は得られたといいます。園田競馬場では9月30日からファンの入場が再開。兵庫ダービー初制覇と、「力になる」というファンの存在についてうかがいました。
兵庫ダービーをディアタイザンで制覇、おめでとうございます!西日本ダービーは2016年にマイタイザンで制しましたが、地元のダービー制覇はこれが初めてでした。
ダービーはその競馬場の中でも特別で、園田の一番を決めるレースということで、勝ちたいと思っていました。みんなから「あれ、初めてやったっけ?マイタイザンで勝ってなかった?」って言われたのがグサグサ刺さっていました(苦笑)。マイタイザンの時は周りからも「勝てる」って言われていましたけど、全然ダメで(7着)、勝ちたい気持ちが強くなりました。ディアタイザンは、ずっとお世話になっている平野ご夫妻の所有馬で、デビューの時からずっと乗せてもらっている碇清次郎先生の管理馬だったのでダブルで嬉しかったです。ほんのちょっとですけど、恩返しはできたかなと。
ディアタイザンで兵庫ダービー制覇(写真:兵庫県競馬組合)
兵庫ダービーからチークピーシズを着用したんですよね?
何走か前から4コーナーでふわっとする面があって、前走後から調教でいろんな馬具を試しました。その中で一番雰囲気が良くなったのがチークピーシズだったんです。ステラモナークや他の逃げ・先行馬よりも絶対に内枠がほしくて、綺麗にその枠順になって「これなら!」っていう感覚はありました。スタートが決まって逃げられて、一番力を発揮できる形になりましたし、チークピーシズの効果も出て、集中力も切らさずに運べて、何もかもが上手くいっての勝利でした。
無観客開催で、ウイニングランをできなかったのが残念ですね。
無観客が一番寂しかったですね。お客さんがいたら、僕、絶対にウイニングランをしていたと思います。あの雰囲気を味わいたかったです。
兵庫ダービーを勝った実感はいつ湧きましたか?
勝って1週間くらいが一番周りから「おめでとう」とか「よかったね」って言われて実感しました。いまはそんなに「ダービージョッキー」って感覚はないですけど、1カ月くらい前にディアタイザンが休養から帰ってきて、調教でダービーのことを思い出しながら乗っていました。「あ、ダービー馬に乗っている!」って。
10月7日のB1戦は休養明けながらきっちり勝ちました。
休養明け初戦からドーンと走るというより、使いつつ良くなっていく気性なんです。レース前の能検の動きがもう一つで、上がりもバタバタだったので、そこから追い切りを2本ほどいって、だいぶガラッと変わりました。それでも状態としては7分くらいじゃないですかね。勝てたのはポテンシャルだと思います。本番は楠賞なので、いい状態にもってこられると思います。逃げられたらいいですけど、遠征馬もいてメンバーも強くなるんで、逃げにこだわらず、どんな競馬ができるか楽しみな面もあります。あ、ちなみに楠賞が行われる11月4日は僕の誕生日なんです。がんばります!
休養明け復帰戦を制したディアタイザン
園田競馬場では3月3日から始まった無観客開催ですが、ついに9月30日からはファンの入場が再開されました。初日のメインレースをユウキラフェールで勝ちましたね。
無観客開催が始まった頃は違和感というか、なんだか寂しかったですし、活気がなくなった感じがしました。それが、ユウキラフェールで勝った時は歓声も聞こえましたし、入場再開の初日だったので嬉しかったですし、乗っていても楽しかったです。あとは表彰式があればもっと良かったですね。今はお客さんに見られて競馬ができることが楽しいです。ジョッキーって、基本的に目立ちたがり屋が多いんで、見られている方がやる気も出るし、「よっしゃ!」と気合も入ると思います。
ユウキラフェールは園田オータムトロフィーでは2着でしたけど、今後の活躍が楽しみです。
素直で、レースの操縦性もすごく高くて、反応もいいし、本当にいい馬になりました。入厩当初は細くて非力な馬やなって印象やったんですけど、どんどん体重が増えてガシッとしたいい体になって、成長を感じます。「あー、この馬成長していっているな」っていう感覚度合いではベスト5に入ります。
ディアタイザンと同じ碇厩舎の馬ですね。
担当しているのも同じ大山文吉厩務員なんです。崇拝していて、ディアタイザンが兵庫ダービーを制覇した記念に制作したキャップのツバの裏側には「文」って刺繍を入れたんです。遊び心で、文吉さんの「文」って。
10月15日には兵庫若駒賞をツムタイザンで勝って、ウイニングランもできましたね。
レースに乗っていても声援があると力になりますね。ツムタイザンは折り合いも問題ないので、距離が伸びてもしっかり走ってくれると思います。まだまだ奥がありそうで、来年の兵庫ダービーを目標に頑張っていきたいです。
兵庫若駒賞を制したツムタイザンでウイニングラン
杉浦騎手ご自身は昨年85勝を挙げてキャリアハイを更新しました。
一応、クリアはしましたけど、目標は100勝なので、満足はできていません。もう4~5年、ずっと「100勝したい」と言っているのでね。いま68勝(10月7日時点)なので、頑張ってゾーンに入れて100勝目指したいですね。
プライベートでは外出できない時期も長かったと思いますが、どんな風に過ごしていましたか?
子供と公園で遊ぶくらいでした。いま2歳で、足で蹴って漕ぐ自転車に乗る練習をずっと公園でしていました。あとは最近、園田のジョッキーはゴルフにハマっていて、僕も始めました。練習が嫌いなんで、コース一本でがんばってます。そんな奴は上手くならないですけど(笑)。スコアは100ちょっとなので、レースは100勝以上を目指して、ゴルフは100切りを目指します。
最後に、オッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
いつもありがとうございます。無観客開催の間でも売り上げが良かったのはみなさんのおかげで、本当に感謝しかないです。途切れさせることなく、ずっとレースをすることもできました。競馬場にも入れるようになったので、ネット観戦もいいですけど、ぜひ現地でも楽しんでください。これからも園田競馬をお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子