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ばんえい名馬ファイル(5) アサギリ

北見の鬼 アサギリ

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Photo●NAR

 「勝堤、今回からアサギリに乗ってくれ。(皆川)公二がホッカイリュウに乗らなければならないからな」。今は引退した渕上昭一調教師の指示だった。昭和62年の春、旭川競馬場。アサギリと鈴木勝堤騎手の出会いであった。

 のちに北見の鬼と呼ばれ、重賞競走優勝10回、史上5頭目の1億円馬に輝く名馬になるアサギリ。だがこの頃は、のちの姿が想像もできないほど、能力テストもレースぶりも平凡な馬だった。現在(※1)ばんえい競馬には35人の騎手が所属しているが、リーディング上位の10人が年間100勝以上の勝ち星を挙げるほど、ベテランの活躍が目立つ競馬である。

 毎年2~3人が難関の騎手試験をパスして騎手デビューするが、50勝と同時に10キロ減量がなくなり、それと同時に騎乗数も減るのが現状である。それほどベテランと若手では技術の差に開きがあるのも現実なのだ。大小ふたつの障害がある200メートルの走路を手綱と動作、気合い、ハミの掛け具合で1000キロもあるばん馬をゴールさせるのである。ベテラン騎手に騎乗依頼が多いのは当然のことだろう。

 鈴木勝堤騎手はばんえい競馬に入る前、水沢競馬で見習い騎手として厩舎にいて技術的にも光るものはあった。昭和60年代、現在(※2)3500勝達成の金山明彦騎手を筆頭に、2000勝の久田守騎手、1500勝の木村卓司騎手と花形ジョッキー勢揃いの時代に若手騎手がお手馬を貰ったのである。朝の調教、午後の運動と熱が入るのは当然のことだったろう。

 3歳デビュー時から華々しく活躍した馬で、後世に名を残した馬はばんえい界ではひじょうに少ない。史上初の1億円馬のキンタローでさえ3歳時、特別戦は未勝利である。3歳時に活躍すると、賞金の関係で4歳・5歳時に古馬との戦いとなるため、どうしても重賞で潰されてしまうことが多い。

 アサギリが初の重賞ウィナーに輝き、北見の鬼と呼ばれたのが平成元年、アサギリ5歳、北見競馬場で行われた全国公営競馬主催者協議会会長賞。現在の銀河賞である。2着のキタノプリンセスに6秒5の大差をつける圧勝だった。鈴木勝堤騎手にとっても初の重賞制覇である。

 『...各馬第2障害手前、さあこれからが正念場、カツラシンザンが1番手、ヒカルテンリュウも動いた、内から赤い帽子のアサギリも来た、ゼッケン番号3番のアサギリだ、強いアサギリが北見に帰ってきました、ゴールまであと10メートル、あと5メートル、アサギリだ、アサギリが突き放す...』実況アナウンサーの井馬博氏の名調子が北見競馬場に響く。

 「北見競馬場でアサギリが出走するレースは特別力が入りましたね。スタンドの熱気が3階の実況席まで伝わってきましたよ。スターホースでしたからね。でも、第2障害を降りた位置で勝ちが見えてましたから比較的楽なレースでしたし楽しみでもありました。最近は個性のある馬が少なくなったので寂しいですね」。冷静な実況アナウンサーを熱くさせた馬、アサギリ。

 43戦21勝、2着10回、3着2回、着外10回。アサギリの北見コースの成績である。北見の鬼と呼ばれて当然の成績だが、その鬼にもウィークポイントはあった。平均の勝ちタイムは2分30秒ほど。そう、濡れた砂の鬼なのだ。砂塵の舞い上がる乾いた砂ではあの豪快な差し脚は使えない。

 北見開催は当時、春と秋の開催が多く、馬場はほとんどいつも濡れている状態で、アサギリにとっては絶好のコースだった。名馬は馬場も味方にしてしまったのである。

 「あの時、渕上先生が他の騎手に依頼していたら現在の僕はなかったでしょう。そりゃもちろん騎手は続けていたでしょうが、あの頃がいちばん苦しい時でした。新人でもなく、かといって乗り馬も多いわけじゃなかったですからね。何とかこの馬で、と思いましたが、今振り返ると逆でしたね。アサギリが僕を一人前の騎手にしてくれたんですよ。勝つ喜びも、悔しい思いも随分しました。先生にいつも言われていたのは、『アサギリの後ろに馬はいないと思え。相手は前にいる馬だけだ』ということでした。僕が乗っている間は確かに後ろから差されたことはなかったですね。3歳の頃からコンビを組んでいましたが、北見記念2連勝のあと、レースの出走に関して関係者の間に意見の相違がありまして、9歳の春から僕の手を離れたんです。その年の北見記念で、僕は服部厩舎のキクノコトブキでアサギリの北見記念3連覇の夢を破り、騎手だけ3連覇を達成したんですが、正直複雑な気持ちでしたね」

 鈴木勝堤40歳、8月1日現在、通算990勝。平成11年度、まもなく1000勝ジョッキーの仲間入りである(※3)。

文/小寺雄司

(馬齢は当時の旧年齢で表記)
※1,2:1999年当時
※3:鈴木勝堤騎手は2010年9月13日現在、通算2,296勝。

アサギリ
1985年3月28日生 半血 牡 青毛
父 半血・リウリキ
母 半血・宝姫
母の父 半血・タカラコマ
北海道中川郡豊頃町 宝田健一氏生産
競走成績/143戦41勝(1987~94年)
収得賞金/102,512,000円
主な勝鞍/89年全国公営競馬主催者協議会会長賞(北見)、91年地方競馬全国協会会長賞(北見)、91年ばんえいグランプリ(帯広)、91年北見記念(北見)、92年地方競馬全国協会会長賞(北見)、92年ばんえいグランプリ(岩見沢)、92年北見記念(北見)、93年ばんえいグランプリ(岩見沢)、94年ばんえいグランプリ(岩見沢)、94年北見記念(北見)


月刊「ハロン」1999年9月号より再掲

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