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馬券おやじは今日も行く(第46回) 古林英一

大口騎手、ごめんなさいm(_ _)m

 「ばんえい情報局」の新企画・ジョッキーファイル。実にいい企画である。先日、この企画で大口泰史騎手を取材した斎藤友香さんが「大口さんが『乗り替わりの大口』のこと怒ってましたよ〜」と小生に伝えてくれた。原因は、今年度、競馬場等で無料配布しているパンフレットである。矢野さん、須田さん、旋丸さんらに混じって、恥ずかしながら、このパンフレットで小生も馬券術を公開させていただいているのであるが、そのなかで小生がばんえい界で有名な「乗り替わりの大口は買い」という格言を「珍説」として紹介したのである。

 多数派をしめる右利き騎手から数少ないサウスポーの大口騎手に乗り替わると、馬がびっくりして走るという説である。正直いって、小生もこの説は正しいような気もする。正しいような気もするが、数量的に実証された説ではない。実際には太って脂ぎっているとはいえ、痩せても枯れても小生は実証を重んじる学者なのである。昨今は「ホラ吹き馬券・車券オヤジ」になり果ててはいるが、本来の小生は謹厳実直で学問一筋の学究の徒なのである。科学的に論証されていないものをあたかも真実であるかのように紹介は出来ない。それゆえ「珍説」として紹介したのであった。

 そこで、いきなりではあるが、小生本来の姿に立ち返り、今回は数理統計学の講義をおこなう。あ、そこの君、いきなり読むのやめないように! テーマは「『乗り替わりの大口は買い』説の真偽」である。結論からいおう。数理統計学に基づく小生の分析によると、「乗り替わりの大口は買い」説は「びみょうー」に「真説」であることが判明した。どのあたりが「びみょうー」なのか、さらに「乗り替わりの大口は買い」説が馬券術として効果的かどうかについては、これから述べたいと思う。

 まず、検証に用いたデータである。昨年度(2007年4月から2008年3月)の競走実績を利用する。データが多ければそれだけ誤差も小さくなるが、いくらGW中暇を持て余していた小生でも、昨年度の150日間全レースをピックアップする時間も根気もない。そこでサンプルデータ(日本語の統計用語では標本という)として、150日間のメインレースをとりあげた。とはいっても、メインレース150競走のうち、9競走は乗り替わりがなかったのでデータから除外したので、サンプルは141競走である。141競走で延べ421頭が前走とは異なる騎手で出走した。

 さて、この421頭のうち、別の騎手から大口騎手に乗り変わって出走したケースが25頭あった。どうやって乗り替わりが有効だったかどうかを判定するか? 様々な考え方があろうが、今回はごく単純に前走に比べて着順がどれだけ上がったか(もしくは下がったか)をとりあげた。着順の変化をここでは着順上昇度とよぶ。前走8着、当該レースで3着なら着順上昇度は8-3=5、逆に前走3着で当該レース8着なら3-8=-5という具合である。乗り替わりで大口騎手が騎乗した25頭の着順上昇度の平均値は1.20、つまり平均1つ以上着順をあげているのである。なるほど、大口騎手に乗り替わると「平均的には」着順が上がるようにみえる。だが、大口騎手以外のケースをみないと、大口騎手が特別かどうかはわからない。

 では他の騎手への乗り替わりはどうか? 大口騎手以外への乗り替わりによる着順上昇度の平均値は-0.55。つまり乗り替わりは、平均的には、着順を下げる可能性の方が高いのである。メインレースで20頭以上に乗り替わりで騎乗した騎手は大口騎手を含めて11人いた。大口騎手を除く10人はすべて着順上昇度の平均値はすべてマイナスなのである。この結果をみるとますます「乗り替わりの大口は買い」説は正しいかにみえる。

 だが、以上の結果はたまたま今回抽出した421頭のサンプルの話であり、このことが一般的に成り立つかどうかを考えないといけない。ここから先が推測統計学の議論になるのである。サンプルから導きだされた結論には必ず誤差がある。そこで、統計学の手法に基づいて、「乗り替わりの大口」の誤差を含んだ着順上昇度を推定する(いわゆる区間推定というやつである)と、信頼度95%で着順上昇度は1.81から-1.57という結果が出た。つまり、大口騎手に乗り替わった場合、前走に比べて着順の上昇度は95%の確率で1.81から-1.57の範囲にあるということである。大口騎手以外についても同様の推定をおこなうと、95%の確率で-0.21から-0.88着順が変化するという結果が出た。つまり、大口騎手に乗り替われば着順があがる確率がかなり高いのに対して、大口騎手以外に乗り替わった場合は着順が前走より下がる可能性が95%以上あるということだ。

 こういうと、ますます「乗り替わりの大口は買い」という気がしてくる。実は、大口騎手は小生の大のごひいき騎手であるから、こういう推定結果が出るとうれしい。だが、今回の小生は「ホラ吹き馬券オヤジ」ではなく、「真理を追究する学者」である。心を鬼にして、意地の悪いデータも敢えて紹介せねばならない。「大口への乗り替わり」ではなく、「大口からの乗り替わり」も検証してみた。すると、平均着順上昇度は何と0.13。95%信頼区間を推定すると、2.19〜-1.94と出た。サンプル数が少し小さい分、誤差の幅が大きくなるが、「大口への乗り替わり」も「大口からの乗り替わり」も同じような結果なのである。つまり「乗り替わりの大口は買い」というのは、「大口への乗り替わり」と「大口からの乗り替わり」の両方を考えるべきということなりそうだ。

 大口騎手についてはさらに面白いデータを発見した。当該競走の着順と前走の着順の関係を相関係数という指標を用いて分析してみた。すると、乗り替わりで大口騎手が騎乗した競走の着順は前走の着順と統計的に全く無関係という結果が出た(相関係数は-0.07)。対照的に、乗り替わりで大河原騎手や藤本騎手が騎乗した場合は、前走の着順とそのレースの着順はある程度相関がみられる(大河原騎手の相関係数は0.57、藤本騎手は0.46)。つまり、大河原騎手や藤本騎手は乗り替わりで騎乗しても前走の結果に近い結果を出す可能性が高い、つまり前走で好成績だった馬は今回も好成績を出すし、前走凡走だった馬は今回も凡走しがちであるということだ。それに対して、大口騎手の場合は前走の成績と全く関係がみられない。大きな変わり身もあるし、逆に、期待を大きく裏切る可能性も小さくないということである。

 最終的な結論である。大口騎手への乗り替わり、もしくは大口騎手からの乗り替わりは、他の騎手への乗り替わりに比べて、着順をあげる可能性が高いように思われる。その意味で「乗り替わりの大口は買い」である。だが、実は、大口騎手への乗り替わりと他の騎手への乗り替わりの着順上昇度の差は統計学的には有意な差とはいえないという結果も出た(有意水準5%)。また、さらに、着順上昇度が1とか2だと、前走が5着以下なら馬券的にはあまり関係ない。つまり、「乗り替わりの大口」を過度に信用してもいけないということだ。ここいらあたりが「びみょうーに正しい」という所以なのである。

 それとついでにいっておくと、推測統計学では95%の信頼度というのがひとつの基準となっている。世間一般的には95%の確率というのは「ほぼ確か」という意味で使われる。だが、95%の信頼度ということは、逆にいうと5%の確率ではずれるということだ。5%って、無視できる? 無視できない? どっちだろうか。ごく簡単にいうと、5%の支持率というのは、馬券のオッズでいうとたかだか1,500円(15倍)程度なんである。決して大穴とはいいがたい。せいぜい「ちょい荒れ」程度だろう。こうなると95%の確かさなんていうのは馬券戦術には殆ど無意味であるといえよう。

 いずれにせよ、乗り替わりの大口はどうやら統計学的には「びみょうー」に正しい。「びみょー」ではあるが、真説であると小生は判断する。大口さん、珍説扱いしてごめんなさいね〜m(_ _)m

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